27話.冒険は終わり……
結界が崩壊したあの空は、もういつもと同じ澄んだ空色を取り戻していた。
私は黒竜に跨り、上空から景色を見下ろしていた。
今までそこは海だったところに陸があった。
渓谷の陸地の輪郭はすっかり変わり果て、随分と広くなっていた。
海の遥か向こうを見据えれば、どこまでも水平線だったその景色には、ところどころに影が見えた。
――島だ。
飛行に長けるドラゴンならばあちらまで行く事も可能だろう。
渓谷では新たな竜種も確認されていた。
【
しかもそれは、あの神父の洗脳術とは別物らしい。
やる事は山の様にある、これから忙しくなりそうだ。
フゥと一息つき、私はつい今朝、別れたばかりの“仲間達”の事を思い出していた。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・
オジキは自分の国に戻って早速プロポーズをするとみんなの前で断言してたな。
キースの事を「師匠!」とか言って、一緒に来て欲しいなんて言ってたっけ。
当のキースは、
「俺が一緒だと先に声かけちまう。相手が惚れたら困るだろ!」
なーんて冗談(本気?)を言ってた、面白い奴だ。
ミスティとキトゥンはポルトゥールに戻り、“団長”と会うらしい。
キースはむしろ、まだ会った事の無いその団長の方に興味がある様だ。
そんなキースにキトゥンが一言、
「ナンパなら止めとけよ? うちの団長は強ェーぞ!」
「あ?」
私には少し意味が繋がらなかったがどうやらキースも同じ様だ。
ただキトゥンはポンポンとキースの肩を叩くだけだった。
ロイは依頼人に報告しにヴァラキアに向かうそうだ。
手持無沙汰じゃ何だからと邪竜の骨を持っていたが、大丈夫なのかそれで?
ジークはロイにサーカス団『ソウルカーニバル』について聞いていた。
どうやら毎年ヴァラキアに興行に来ていたらしい。
確かそろそろその時期だったはず……と言う事で一緒する事になったようだ。
そしてカタリーナは……、
「私、一度聖ラピス教会に戻ろうと思う。聖杯の事、マーロンさんの事、異端審問所や賛美一体教会の事、そしてこの体についてもグレゴリオ神父に相談してみる。そして母を助けに行きたいの」
なんでもその母もヴァラキアに居るという――あの神父が言ってたそうだ。
するとロイが何か思案しながら、おもむろに話し出した。
「実は……これは西の山でジェネシスドラゴンから聞いた話なのですが、ヴァラキアは首都『ブダベズド』の全住民がヴァンパイアに成り果てた国らしいのです。ヴァンパイアというのは……」
あの神父がそうだったならかなりの身体能力だ。
だとすればヴァラキアへの旅は大変危険なものになる。
何せあの神父級の力を持つ輩がうようよ居るのだろうから。
だがカタリーナも並じゃない。
その強さは互角かそれ以上のはず。
「カタリーナさん、共にヴァラキアに行きませんか?」
ロイは戦力としてのカタリーナ見込んだのだろう。
カタリーナは快く了承していた。
ジーク、ロイ、そしてカタリーナ……三名だけじゃまだまだ不安だが、それでも上手く立ち廻ればやっていけそうだ。
「あと問題は、あの神父ね……」
思案顔でカタリーナは私に呟いた。
「その件なら私達で処理するから任しといてくれ」
「でも……」
「なあに、奴の狙いは聖杯、そしてカタリーナだろ? どちらもここに居ないと判れば自分から去っていくさ。そうでなくとも次こそ奴を仕留めてみせる」
するとキースが何やらカタリーナ、キトゥンと話をしている。
そしておもむろに私に向かって話しかけた。
「あのー、俺さぁ……またここに戻って来ても良いかな?」
「ん? どうした?」
「俺達、結構渓谷の皆には迷惑かけちまったよな。しかもあの神父の尻拭いまでやって貰っちまうとなっちゃあ流石に気持ちが収まんねぇよ。アルスレイ、お前は大事な俺達の“仲間”だ。お前にばかり負担はかけられねぇし、せめて、渓谷の皆にお詫びがしてえ。いや、要らねぇって言われても、もう勝手にするつもりでいるんだけどな!」
フフフ……、
困った時に支え合い、心配し合って、助け合う。
……良いもんだ。
私はうんと頷いた。
「へへっ、あんがとよ。そんじゃ、ま、そろそろ……」
ミスティとキトゥン、オジキがこちらに頭を下げて洞窟へと入っていく。
ロイ、ジークが手を挙げ別れの挨拶をし、後に続く。
キースはキャサリンに跨り、私にウィンクして勢いよく洞窟の中へと飛び立った。
カタリーナは飛び立ったキャサリンにジャンプして乗っかり後ろを振り向き私に手を振った。
こうして、みんな洞窟の闇の中へと姿を消し、去っていった。
寂しさはあった。
だがまた会うその日を信じ、その日を楽しみに、私は彼等を見送った。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・
「アルスレイさん、準備が整いました!」
「判った、今行く!」
私はその
これから、変わり果てた渓谷の現状説明と、これからの生活について皆とどうするか話し合うのだ。
大丈夫、私達は“仲間”だ。
困った時にはお互い支え合い、心配し合って、助け合ってやっていける。
私はそう心の中で何度も繰り返し呟いた。
(続く)
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