8話.結束

「あ、あーー。なーんて事してくれる。もうちょっとで聖杯ごと我が物にしてくれたものを。ならば先ずは、お前らからじゃーーっ!!」


 鎌首をもたげた闇蛇が、ジーク達に襲いかかる。


「この闇自体に攻撃力は無い! だが動きを奪われるぞ、避けろっ!」


 オジキとジークは向かいくる闇蛇に対し右手に、キースは左手に回り込む。

 しかし闇蛇はその動きに応じ二股に分かれ、更にジーク達を追う。

 ジークは闇蛇から逃れながらオジキ、そして向こうのキースにも指示を出す。


 凄い。

 

 私は皆から少し離れた場所で、様子を見ていた。

 気が付くとジーク、オジキ、キース、そしてキースのドラゴンは、神父と、傍らのドラゴンを四方から取り囲んでいた。

 しかもどうやらジークは皆に円を描く様に合図し、絶えず動きながら近づくチャンスを狙わせている様だ。

 これには二股に分かれた闇蛇でも、流石に狙いが絞れず手こずっている様だ。


「えぇーい、小癪な! ならばこれでどうじゃーーっ!」


 神父の雄叫びと共に、遂に闇蛇は四手に分かれた。

 

「ギャーーハッハッハーー! お前らの算段などお見通しよ。これで終いじゃあぁぁ!!」


「みんな、落ち着けっ! この闇蛇には射程距離がある。より内には入るな!」

「な、な、なんじゃとぉぉーっ!?」


 神父を中心にいつの間にか、線が描かれていた。


 これが戦闘経験値の差。


 ジークはただ逃げていたのでは無い。

 あの闇蛇の動きをジッと読み、分析し、安全圏を仲間に示したのだ。


 凄い。


 私は、ジークの戦い方に目が離せなくなっていた。


「でもよぉーージーク!近づけなきゃ攻撃出来ねーぜっ?」

「その通りじゃ! とっとと儂に近づかんかい!!」

 

 大声で叫ぶキース。その通りだ。

 とは言え神父の口車に乗せられては駄目。

 するとジークは地面に落ちている石を拾って神父目掛け投げたのだ!


「うおっ、何をする!」


「な~る程な、分かったぜ! ほんじゃま、いっちょいくかーーっ! オラオラオラオラァッ!!」


「あ、危ない! 止めんか、この……!」


 キースが手当たり次第石を投げつけ、向かいのオジキがその石をまた拾い投げる。

 そしてキースのドラゴンは、石をキースへサポートする。

 

 ……凄い!


「あ、痛っ! 痛いっ!! お、おのれ~許さんぞぉぉぉーーっ!!」


 何個かの石は見事神父にヒットしていた。

 すると闇蛇は為りを潜め、代わりに闇のドームが神父を包み、更にその大きさを広げている。


「一旦退散だ! 闇には触れるな!」


 ジークは皆にそう呼びかけた。

 闇の膨張も止まり、皆は一旦私の居る近くにまで集まった。


「へへっ、良い感じじゃねーか! 退散したぜ? あの野郎! 見てたかスティープ、この俺様の活躍を!!」


「あ、あぁ。凄かったな」


 ……ジークの適格な指示と皆の連携が。


「だろう? この調子ならあの怪しげな神父を俺達で撃退出来そうだ! 安心しろよ、スティープ。俺達に任せとけっ!!」


 本当に調子のいい奴だ。

 でも確かに、この調子ならひょっとしたらもう、聖杯を取られる事を気にしなくて済むかもしれない。


 するとキースは改まった様子で、オジキと対面した。

 どうしたのだろう? 


「ところでオジキさん」

「“オジキ”で構わぬ。なんだ?」

「いや、その……オジキの目的ってなんなんだ?」

「むっ!? そ、それはー……」


 あ、そうかー……。

 キースは知らないんだった。


 まぁ知らなかったから仕方ないのかなーそれ聞いとく事。

 こっちは命懸けの戦いになるかもなわけだし。


 話し辛いだろうなーオジキ……。


 オジキは深呼吸し、そっとスティープに耳打ちした。

 

 ……別に今更耳打ちじゃなくてもとは思ったが、オジキというこの男、妙に徹底している所がある様だ。


「な、何だってっ!!」

「あ、あのー、そのー」


 大声で叫びオジキを睨みつけるキース。

 その様子にオジキも思わずたじろいだ。


「あんた……、“本っ気”でそのお相手の事、愛してんだな? いいか、これは真面目マジで大事な質問だ。心して答えてくんな。オジキ! そのお相手の事、心から愛してるのか?」


 おいおいキース、どうしちゃったのよ?!


「無論、本気だ!」


 オジキも負けじと真面目マジで答えてる。


「俺はこれまで……女性に会って話す機会すらなかった。それは大した問題とは思ってなかったし特に急ぐ事でもあるまい、そう感じていた。だが中にはおせっかいな親戚も居てな、色々お見合い相手を紹介された。アングレーの貴族の娘、エスパニルの商会の娘、イスマールの名高い軍人の娘…」


 あれ?

 今、サラ~ッと変な事言ってなかった?!

 エスパニルの商会の娘って……。

 わ、わ、わたしの事じゃないかーーっ!?


 私は顔が思わずカーッと赤くなり「ぶほっげほっ」と咳込んだ。

 然し二人はそれに気も留めず、話を続けていた。


「ある日の事だ。その日は休養日で、街を散歩していた。たまたまその時出会ったんだ、彼女と! その気品溢れる美しさに俺は雷に打たれた様だった。と、彼女の後ろにヒラリと舞い落ちたのだ、ハンケチーフが。俺はそれを拾い上げ、声をかけた。そして彼女と目が合った! ニコッと微笑む彼女の笑顔、そして軽く会釈し去っていく姿に俺は…もう……くっ! これ以上この気持ちをどう表現したら良いか判らんっ! しかし、至って本気だ!」


 真剣な眼差しでキースはオジキを、オジキはキースを見つめ合う。


 いやこれは本気でしょー。

 でも一目惚れかー、私にはそんな出会いやきっかけあったかなー。


 私は今までの事を思い出してみた。

 でもなぜか最初にパッと思い浮かんだのが……、


「燃えてるチュー!」


 いやいや、これは違う……。

 私は絶望した。

 そして思い出すのをもう止めた。


 するとキースがオジキの肩に手をかけていた。


「オジキ……あんたのその熱い“想い”! 俺には充分伝わったぜ!! 恋愛で大事なのは一に好機、二に好機、三四も好機で五に好機だ! これから命を懸ける戦いになるかもしれねぇ……。でも安心しな! このキース様、命を懸けてオジキの愛のキューピッドになってやるぜ!」


「おぉ! キース殿!!」


 二人は両手で硬く握手を交わしていた。


 そ、そんな硬い団結が生まれる様なとこだった?!

 

 そこへジークも二人の握手に自分の手をポンと重ねながら言った。


「さて、お相手も“仲間”を引き連れてやってきた様だぞ。ここからが本番だ!」


 いつの間にか神父の傍らには、先程とは別の邪悪な気配を漂わせたドラゴンが2体。しかも聖杯が反応している!


「あれは“邪竜”だ! 気を付けろっ!!」


 私の言うが早いか、神父はロッドをスッと私達に差し向けた。

 すると従えた一方の邪竜が私達に向かい突進してきたのだ!



(続き)

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