幕間一 今日はワタシの(ストーキング)記念日
突然ですけれど、こんにちは! こんばんはの方もいるのかな?
ぼくの名前は
初めましての方は初めまして!
この
今回は強兄さんは事情により意識がない、とのことですので僕のナレーション? でお送りしますね。
でも、そんな需要あるようには思えないのに、全くムダなスペースですよね。
え? あぁ……。あ~うるさいなぁ……。
いえ、違うんです。
なんか隣に人がいてですね。余計なこと言うな、だとかメタは少なめに、とか、ゴチャゴチャうるさいんですよ……。ごめんなさい!
では今回の幕間。舞台は本編より少し前の、
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そろそろ冬も本番という頃、まだまだ暗い
「るんたった、るんたった~。つよぽ~ん、今帰るからね~」
強兄さんのお母さん、逢瀬愛さんです。とても高校生のお子さんがいるようには見えない、お若くてキレイな方です。
ふわふわとした黒髪を跳ねさせながら、なにやら楽しそうにスキップの
「たっだいま~……って、あらら~?」
強兄さんの家は、六畳が
愛さんは暗がりの中、その室内で人影が動いていることに気づきました。
「どなた~?」
「あ、え……アレ?」
パチン、と愛さんは電灯のスイッチを入れます。
そこにはメガネをかけ、ボロボロのティーシャツにこれもまたボロボロのハーフパンツを履いた、ボサボサ髪のひとりの少女が立ちすくんでいました。
「あらら。おはよ~」
ペコリ、とお
「お、おはよう……ございます」
つられて、少女もお辞儀を返します。
と、思いきや、彼女はダダダッと窓に駆け寄っていきます。
「帰っちゃうの~?」
窓枠に足をかけ、一瞬だけ愛さんの方を見る少女。
その時、彼女のお腹が、グゥ、と鳴りました。
「お
なかば強引に愛さんにこたつに押し込められ、少女は
「はいはーい。おまちどうさまでした~」
「え……あ……」
こたつの上には、ごはんに卵焼きにお味噌汁、お漬物が並びます。
「簡単なものでごめんね」
少女のお腹がまた、グウ、とひと鳴きしました。
「あらら。よっぽどお腹が減ってるのね。さあ、お食べなさいな」
ついには眼前の食卓によだれを
「つよぽんのお友達でしょう? ごめんね~。まだつよぽん起きてないみたいで」
「つよぽん?」
「あ、やっぱりおかしいかな~? よく言われるんだよね。自分の子どもをそんな呼び方するのは、おかしいって」
愛さんはそう言って、ペロ、と舌を出します。
「子ども? あなた、あの子の……」
「お母さんでーす。あいちんって呼んでね」
すいさんにピースサインを送ります。
「あいちん……」
「うふふ……な~に? ……そういえば、あなたのお名前、なんて言うのかしら?」
「すい……。阿武隈すい」
ほう、と息を
「可愛いお名前ね。すいちゃん、すいちゃん……。すいちーって呼んでもいい?」
「すいちー……。いいけど、なんでそんな変なふうに呼ぶの?」
「変かしら?」
「だって名前があるじゃない。ワタシにはすいって名前が。あの子には強って名前が」
「う~ん……。大好きだからかなぁ」
「大好き……」
「そう~。とっても大好きで、特別に大事だから、特別な呼び方で話し掛けるの。それは、大好きだよ~っていつも言っている
「……あいちんは強のこと、大好きなの?」
「もう、すっご~い……」
愛さんは腕を大きく広げて、大きい輪っかを作ります。
「大好き!」
「じゃあ、私のことをすいちーって呼ぶのは……」
「すいちーのことも大好きだからだよ~」
「大好きって、今日はじめて会ったばかりなのに?」
「はじめても何も、私が大好きって思ったら関係ないと思うな~。ダメ?」
すいさんは少し口を
そうこうしている
「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末さまでした~。ふふふ、今日は記念日になっちゃった~」
「きねんび?」
「そう、記念日~」
「きねんび、って何? あいちん」
「記念日っていうのはね。嬉しいことや楽しいことがこの日にあったんだよ~って、そういう日のこと」
「なにか嬉しいことや楽しいことがあったの?」
「すいちーに出会えたわ」
すいさんは少し口を尖らせてそっぽを向くと、
「記念日があるといいことがあるの?」
「そうね~。毎年、毎年、同じ日が来るたびに、ああ、今日はつよぽんが初めて「ママ」って呼んでくれた日だな、今日はすいちーに出会えた日だなって嬉しくなるよ。毎日が、毎日楽しいの」
「そっか……あいちんは幸せなんだね」
「すいちーは幸せじゃないの?」
うつむくすいさん。
「……わかんない」
愛さんは立ち上がると、化粧台からクシを持ち出し、すいさんの隣に座ります。
「な、なな、なに?」
「ホントはお風呂入れてあげたいけど」
そう言うと、愛さんはすいさんの髪をとかしてあげます。
少し警戒していたすいさんですが、次第に表情が
「ど~お? すいちー」
「ン……なんか、変なカンジ……」
「気持ちいいでしょ~」
「うん……。そうかも」
「ね? これが幸せ」
「これが、幸せ……」
「きれいな髪だね」
「いや、最近ぜんぜんお風呂入ってないし、ベトベトだよ」
「ううん、そんなことないわ」
ハイ、と言われて鏡を見るよう促されるすいさん。
そこには、三つ編みお下げのすいさんが映っていました。
「はあ……」
「ね? 可愛くなったでしょう?」
愛さんに向き直るすいさん。
「これも幸せ?」
「うん。そうだね」
愛さんは立ち上がると、こっちこっち、と声を出さずにすいさんを手招きます。
ふたりは隣の部屋につづくふすまを、少しだけ開きます。差し込む光によって、中の様子はかろうじて見て取れます。
二組の布団が敷かれ、そのひとつにはすいさんと同年代くらいの少年が、掛け布団をはだけさせて寝ています。強兄さんです。
「あいちん、大丈夫? 起こしちゃうよ?」
小声で心配をするすいさん。
「うふふ。つよぽんのいいところのひとつは、すごい寝つきがいいこと。一度寝たら、ぐっすり眠ってるの。赤ちゃんの頃からそう。ちょっとやそっとじゃ起きないよ~」
愛さんも小声です。
さらに手招きして、強兄さんの顔のそばまでふたりは近づきます。
「こうやってね、お仕事終わって帰ってきたらつよぽんの寝顔を見るの。これも私の幸せ」
「あいちんの……幸せ……」
「すいちーもいつでも見に来ていいからね。つよぽんの寝顔。私の幸せ、おすそ分け」
「……記念日」
「ん?」
「今日はワタシの記念日だ」
「記念日?」
「なんか……よく判らないけど、今、ちょっと嬉しかった」
すいさんは愛さんに顔を向けます。
「嬉しかったら記念日になるんだよね?」
「そうよ~」
「じゃあやっぱり、今日はワタシの記念日だ」
その時、さすがの強兄さんもふたりのやりとりに反応したのか、う~ん、とうなって寝返りをうちました。
ふたりは顔を見合わせましたが、強兄さんにまだ起きる気配がないので、顔だけで笑い合いました。
「最近、受験勉強頑張ってるからね~。お疲れかな」
「受験……?」
「そう、学校にいくためのテスト。それをね、頑張ってるんだよ」
ふたりは音を立てないよう、忍び足で寝室を出てくると、ゆっくりとふすまを閉めました。
「……あいちん、学校って……ワタシも行けるかな?」
「行ける、行ける~。人間、やってやれないことはない、って言うわよ~」
「……強はどこの学校に行くの?」
「
「じゃあ、ワタシもそこ行く」
「うんうん」
「あいちん、その……勉強……できたら教えてくれると……」
「うん、いいよ~。ワタシでよければ」
外はもう明るくなり始めています。
すいさんは窓を開けると、片足をかけて愛さんに振り向きます。
「今日は帰るね、あいちん」
「あらら。つよぽん起きるまで、いいの?」
「うん。帰る」
「そ~。じゃあ……」
愛さんは室内の奥にいくと、すぐ窓際に戻ってきました。そして、手に持ってきたモコモコの、羽織のパーカーをすいさんに着せてあげました。
「寒いから、ね。すいちー、また来てね」
「うん。また来るね」
すいさんはニッコリ
「あらら~。今どきの若い子は屋根の上を行くのね」
愛さんは、すいさんが見えなくなるまで手を振って見送りました。
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