第12話 荒らしはスルーせず反論しよう④

 そよぎが呆れて言った。


「お姉ちゃん……これでいいんだよ。ほら、掲示板の注意事項にも書いてあるでしょ。荒らしには構わずスルーしてくださいって」


「どうしてよ。人の悪口言うやつには、ちゃんと注意しないと駄目でしょ。いじめは黙って見てるやつも同罪なのよ」


「それはリアルの理屈だよ。ネットでは、いじめや悪口を見かけても相手をしないで知らんぷりしないと駄目なの」


「なんでよ、おかしいでしょ!」


 そよぎが頭を抱えて、どこから説明したものかと思案する。


「えっとね、なんの得にもならないのにネットで暴れてる人っていうのは、自分の欲求不満を八つ当たりで解消したいんだけなんだよ」


「つまりこいつも、ただの無能のクズってことね。なおさら放っておけないわ。文句言ってやらないと」


「それをすると喜んじゃうから駄目」


「なんでよ。こいつマゾなの?」


「そうじゃなくて、こういう人は注目されて自分の存在を認められたいんだよ。たぶん、悪者ってカッコいい、みたいな勘違いをしてるんだろうね。だから、お姉ちゃんが怒ったりしてレスを返せば喜ぶだけなの」


「悪者だろうがいいものだろうが、わたしをブス呼ばわりするやつは生かしておかないわ! 徹底的に煽り返してやるんだから!」


 自分は人をハゲ呼ばわりしたことを棚に上げて、紅子は反撃の悪口を書き始める。


 スクリーンキーボードの使い勝手の悪さに四苦八苦しながらも、なんとか長文を完成させた。


 

『>>522 人のことをブスとか言ってるけど、あなたはどうなんですか。どうせ醜く太った豚のような顔をしているのでしょう。たまにはパソコンの電源を切って、暗いモニタに映る自分の顔を直視してみたらどうですか』


 

「よし、これでオッケーね。書き込みよ!」


 紅子は意気込んで『書き込み』ボタンをクリックする。


 ところが、紅子のコメントは送信されず、かわりに『ログイン画面』と表示されたページに飛ばされた。


 

【IDとパスワードを入力してログインしてください】


 

「……なによ、これ」


「この掲示板は会員制になってるから。会員登録してない人は書き込めないよ」


「なんでそんな面倒なことするわけ?」


「荒らしを寄せ付けないようにするためだよ。だから、お姉ちゃんも書き込むのは諦めてね」


「わたしは荒らしじゃないわよ。荒らしに抗議するために書き込むのよ」


「それが荒らしなんだよ」


「意味わかんないわよ。いいからそよぎ、あんたのパスワード教えなさい」


「ごめんね。忘れちゃった」


 そよぎは、思い出そうとする素振りを微塵も見せずに言った。


 結局その後、紅子は釈然としないままパソコンを切り上げ、お茶の時間となった。


 そよぎはケーキを食べながら、ネットで口喧嘩することがいかに不毛で虚しいかについて、紅子に語った。


「レスバトル……ネットの口論に勝ちも負けもないよ。もともと、炎上商法で注目さえされればいいって考えてる人たちが煽って、怒ってる人たちはただ踊らされてるだけなんだから」


「さっきの荒らしも、その炎上商法ってやつなの?」


「あの人は違うね、お金が目的じゃないから。ああいう人達は、自分が学校や会社で上手くいかなくて、むしゃくしゃする気持ちを晴らしたくて暴れるの。これは心の防衛メカニズムで、『逃避』『置き換え』『幼児退行』って言われる反応が複合したものなんだけど。あの人の場合は、自分の弱さを克服するために努力や挑戦することから逃げて、お姉ちゃんみたいな成功者を憎むことに置き換えて、幼稚園児みたいな悪口で攻撃することを選んじゃったんだね」


「……? よくわかんないけど、変わったやつなのね」


「いや、普通によくいるタイプの人だから……。とにかく、『幼児退行』した人っていうのは、体は大人でも、考え方や道徳は完全に赤ちゃんなの。親の気を引きたくて、かんしゃく起こしたり、物を壊したりする赤ん坊と変わらないから、怒ったり構ったりしても喜ばせるだけなんだよ」


「ふうん……」


「だから、レスバトルなんてやっても虚しいだけだから。もうやめてね」


 そう何度も念を押して、そよぎは帰っていった。

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