CASE 2-3
「あ、あんた達、何? なんなの? その
シャベルを振り翳すようにしたまま、突然現れた二人組の男を睨みつける。
いくら夢中で穴を掘っていたとはいえ、すぐ背後にいることにさえ全く気付いていなかったことに、恐怖を覚えた。
足音に気づかなかったのは、自分が夢中していたせいではある。
こんなところ誰も来ないと高を括っていたのが間違いだったのだろうか。いや、しかし今だって近くに居るというのにその気配すらないように感じるのは、なぜだろう。それにこの二人の着ているものや、その姿の異様さ……この茹だるような風の無いベタつく暑さの中にきっちりと纏ったお揃いの黒いスーツに、額には汗すら滲まないどころか涼しげにも見える表情をしたそれは、人ではないと告げているようなものである。
人ではないのなら……。
膝が震えるのが分かった。
勢いよく振り翳していたシャベルを、力なく地面に下ろしふらつく身体の支えにする。
「何よ……わたし、まだ何もしてないのに。わたしなんかに罰が下るなら、他にもいるんじゃない……? なんでそいつは良くて、わたしはダメなの? せめてお願いだから、あの子の
鼻の奥が痛くなる。
泣くまいと、食いしばった歯に当たる砂の擦れる嫌な感触が顎を震わせる。
汗で貼りついた泥の汚れも、べとべとの髪も気にならないと言ったら嘘だ。こんな真夜中に気味の悪い所で人目を避けるように穴を掘っているのも、これからもっと気味の悪いことをしようとしているのも全て、あの子の為だった。
わたしに出来るのは、もうそれしか残されていないから。
「助けてやると言っただろう?」
そう言ったのは二人のうちのひとり。色白で緩く巻きのある長めの前髪が目に掛かりその顔はよく分からなかったが、目を凝らしてみてようやくそこに見えたものに驚く。
まだ幼さの残るその顔は、どう見ても十五、六の歳の少年だった。
「信じられない……アイツと同じくらいの……あんた、まだ子供じゃない?!」
その少年より一歩後ろに下がって立つ保護者然とした男はどうやらそのような立場にあるのではなく、この少年に使われる関係らしいと女が理解するのにそう時間は掛からなかった。
なぜならその茫洋とした男とその生意気な話し方をする少年のやり取りは、奇妙な主従関係にあると思われるものだったからだ。
もちろんどちらが上に立っているのかは明白である。
「うへぇ。今度は子供、ときましたか」
これといって特徴のない男はそう言うと顔を顰めて少年の頭から爪先までを眺め回す。
「言っただろう? これは服のようなものだとな」
「服という言葉の使い方が、間違っているような気がしないではないですけどね」
そう言いながら盛大に顰めた顔のまま首を横に振る男の脛を、表情ひとつ変えない少年が蹴り上げる。そのあまりの痛さに膝を抱えて片足立ちで小さく跳ねる男の情け無い姿を見ているうちに、足の震えは治り肩の力が抜けてゆくのが分かった。
「……あんた達、何なの?」
「これは失礼。紹介が、まだだったな。私はジンだ。で、これが出来損ないの弟子で下僕な助手のイツキだ」
ジンがその細い顎を使って示したイツキと呼ばれた男は頭に手を置いて、はあよろしくお願いしますと口の中で何やらもごもごと言った。
「わたしは春日京子。……で、何を助けてくれるの?」
「呪い殺すんだろう? その成就だ」
京子は自分の頭がおかしくなった所為で、幻聴が聞こえ幻覚を見ているのだろうかと一瞬思ったが、すぐにそんなことは最早どうでもいいのだと考え直した。
本当に願いが叶うなら、誰におかしいと言われようとも狂っていると言われようが何とでも構わない。こんな世界で……あの子の居なくなったこんな世界に未練などなかったからだ。
「もちろん、
赤い唇を歪ませて笑うジンに向かって、京子は同意の印に頷いてみせた。
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