CASE 1-9
「ところでいったい、どうやって無かったことにするんですか?」
助手としては、一応後々の為に尋ねておかねばならないだろうとイツキが殊更神妙な顔つきを装って聞いてみたものの、ジンは素っ気なく「企業秘密だ」と言った。
「……え? ……ハイ?」
「冗談だ」
「あのですね? 冗談というのは、それを聞いた者をくすっとさせると言いますか、その場を和ませたりするものであって、面白くも何ともないのは、冗談とは言えません」
「そうなのか? 面白いじゃないか。それは単に、お前がズレているだけだろう」
面白がっているのはジンだけで、とり残されている二人の身にもなって欲しいものだがそれを言ったところで所詮通じる
その頷く様を見たジンが何を勘違いしたかは言うまでもなく「自分でも認めるとは、ふむ。ずいぶん殊勝な態度であるな」と感心するように言ったものだからイツキは、いや違うし、と慌てて首を横に振るも「謙虚なことよ。良い心掛けだ」と全く話にならない。
「イツキさん……」
明日菜から向けられたその憐れみの視線に、今度こそ分かってくれますよねと精一杯の目ヂカラなるもので返してみるも、ふるふると可愛らしく首を横に振られる。
「……!」
うんと言ってはくれないその寂しさよ。
「そう言えば明日菜は、始めから無かったことにして欲しいと言ったが、実際のところそれは無理だ」
その時ジンが何かを思い出したように、唐突に言った。
「……それっ……て?」
「いや、願いを叶えられないと言うんじゃない。正しくは『明日菜のこれまでの生涯を消すのは不可能じゃない』が無かった事には出来ないということだ」
「どうも意味が分からないんですけど……明日菜さんは分かる?」
イツキが明日菜を見るとその声は聞こえてはおらず、真剣な面持ちでジンの言葉の続きを待っている様子だった。
「この世には『
「それで明日菜さんの、産まれてから今までが無かったことになるんですね?」
「そうだ。この世のルールは絶対だ。だから『この世に確かに存在したものが消えた』という体裁を取り繕ってやらねばならないんだ。分かるか?」
つまりは、詭弁。
ルールさえ守れば、この世はどんなこじつけだって受け入れる。
「という訳で、これから明日菜が母親の体内に宿ったところまで、遡る」
そうジンが言い終えた瞬間、またもや目を開けていられないほどの光の塊に突如として襲われたイツキと明日菜は、両腕で自らを庇うように身を屈めた。
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