406話 警告する者

「それと、1つ忠告があるね」


 街へ入ろうとする波照間とライザを引き留めるように、パロムが背後から声をかけた。波照間は振り返り、パロムの目を見る。


「どういうこと?」

「連中が『傀儡兵』って呼んでる連中なんだよね。君がシェイの屋敷で遭遇したアレだね。あれは明らかに他の生き物とは何かが違うね。もしかすると、レンが何か恐ろしいことでもしでかしたのかもしれないんだよね」

「傀儡兵……」


 波照間はパロムが伝えた言葉を口の中で転がした。


 奴隷商人シェイの屋敷を攻撃した際に襲ってきた、体が大きく膨れ上がる「警備兵」。それを指揮していた男とは全く違う雰囲気を持っていたが、あれはジンから見ても異質だったのか。


「恐ろしいことって、まさかバベルの宝珠みたいな?」

「いや、アレとは無関係だね。断言できるね。マオレン、というかレン帝国自体が他の国よりバベルの宝珠に厳しい取り締まりを課しているんだよね。うちらジンを除けば、レン帝国こそ反ダイモンの急先鋒って言ってもいいしね。むしろ、彼ら自身が編み出した、何らかの倫理観に欠ける魔法だったりとか」

「倫理観に欠けるというと、アメリアがアセシオンから受けた洗脳魔法みたいな感じかしら」

「その認識で間違いないね。古今東西、この世界には数多の魔法が生まれ出ていてね、人を救うものもあれば、人を強く苦しめるようなものも多くあったんだよね。君たちもそういうのに巻き込まれたりしないよう、気を付けた方がいいと思うね。じゃ、行こうね」


 パロムは飄々とした微笑を浮かべ、ムスッと頬を膨らませたミルを連れてその場から去っていく。


 だが、今度は波照間が呼び止める番だった。


「ねえ、教えてほしいんだけど、どうしてパロムちゃんは動かないの? そんな情報をくれるくらいなら、あたしたちに協力したっていいはずなのに」

「ミルを解放させた時、実は艦長さんたちも解放するよう言っておいたんだけど、そっちは聞き入れられなかったんだよね。うちもどうするか迷ったけど、ダイモンが関与してないなら無理に介入することもないし、これ以上やるならレイリにお伺いを立てないといけないからね。これでも君たちは本来この世界に来るはずのない時空の迷子だし、だいぶジンに目をかけられている方だね」

「まさに神の視点ってわけね。協力要請は無理か……」

「無理ってわけでもないけどね。レイリの判断次第では、レンを破壊したり、君たちを亡ぼしたりもするね」

「……あたしたちを亡ぼすっていう根拠は?」

「何もないね。同時に、レンを潰したりするような根拠もないね。要するに、レイリの匙加減次第でそういうこともできる、っていう例えだね」

「悪辣に過ぎます」

「そういう性格なものでね」


 ライザが吐き捨てるように言うと、パロムは一切悪びれることもなく返す。以前から艦長さんからの報告を聞いてはいたが、どうやらアモイで遭遇したジンのルイナとは別の意味で性格に難のある人物のようだ。


「ルイナはね、レイリの言うことを全く聞かない異端者だし、そもそもゴミや糞尿が集まった汚泥の塊から生み出されたのが、やたら強いコンプレックスになってるからね。まぁ言っちゃえば引け目が裏返しになった人格破綻者なんだよね。そういう意味だと、うちも他人の生死にはそこまで興味があるわけじゃないけどね」

「頭の中を読むのはやめて」

「そういう能力なものでね」


 パロムは先ほどとほぼ同じセリフを返す。彼女にとっては、このやり取りも無駄なものなのだろうか。


 いずれにせよ、現段階ではジンから協力を得るのは難しそうだった。ここからは自力で何とかするしかあるまい。


「わかった。とりあえず、何とか自分たちでやってみることにするから」

「健闘を祈るからね。どこまでやれるか見せてもらおうね」


 波照間が腕を組みながら言うと、パロムはニコリと可愛らしい笑みを返した。その笑顔の裏にどのような思考があるのかはわからないが、知らない方がいいのだろう。


 すると、今度はミルが声をかけてくる。


「なあ、オマエら……オイラ、アイツらが嫌いだ。前々から怖くて近づきたくなかったし、あちこちで奴隷を殴ったり蹴ったりしてやがった。だからよ、オイラの代わりにぶっ飛ばしてくれよ」

「それは無理な相談ね。あたしたち、仲間を助けに行くだけだもの」

「クソ……この野郎!」


 波照間が平然と否定すると、ミルは逆上して再び暴れ出した。パロムが顔色一つ変えず押さえ込む中、今度こそ波照間とライザは街へと向かった。

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