310話 今のチームで
「ジンを倒せ! 今こそ陛下のご威光を示す時ぞ!」
どこからか発せられた野太い女性の声を皮切りに、リアへ火球やエネルギー弾など、多数の攻撃が飛んでくる。
リアは全方位に魔法防壁を最大限に展開して何とか凌いでいたが、これでは矢沢らを連れて行くことは不可能だ。
用を済ませ合流した矢沢に対し、リアは叫ぶ。
「ぼくはここで陽動に入るから、君たちは王宮へ!」
「承知した。王宮前で合流しよう」
「はい!」
リアは大きく頷くと、前を向いて数十メートルほど上昇。戦闘が起こったことで逃げ惑う人々の中から攻撃してくる兵士を発見するなり、先端近くに葉っぱがついた小型の槍を召喚、敵に対し投擲する。
矢沢からは状況が見えないが、ピンポイントで攻撃する武器で民間人への被害を減らすのが目的なのは十分に理解できた。それだけリアも慎重になっているが、逃げずに戦っている辺り、大胆に行動してもいるということだ。
彼の行動を無駄にしないわけにはいかない。矢沢はアメリアとラナーの姿を確認すると、2人について来るよう言う。
「アメリア、ラナー、ここは危険だ。早く王宮へ急ごう。ラナーは案内を頼む」
「もちろん!」
「わかりました。私が殿に立ちます」
「いえ、私が殿に。あなたはそっちのおじさんの隣に行きなさい」
アメリアが矢沢の後ろに行こうとしたところ、マウアがアメリアを引き留める。それからすました顔で魔法陣を展開すると、円の中心から彼女の身長より長く太い灰色のランスを召喚した。
刃がなく、刺突に特化した騎兵の武器。対戦車ミサイルより重いであろう巨大な武器を軽々と頭上で振り回し、ポーズを取る姿は、否応なしに強者の風格を感じさせる。
「驚いたな。そんなものも扱えるのか」
「弓と槍はエルフの十八番なのよ。私はこれが好きなの」
「マウアちゃんのランスチャージ、ほんとすごいんだから。地面すれすれを飛んで、相手に突撃するの」
「それを披露する機会が訪れないことを祈るばかりだ」
「そうだといいんだけど」
マウアは真面目な表情を崩さず頷いていたが、ラナーはやはり嬉しそうだ。
道を違えていた仲間と、再び心を通わせる。嬉しくないわけがないだろう。矢沢は全てから解放されたような笑顔を浮かべるラナーを一瞥すると、進むべき道を一点に見据える。
「行くぞ。何が起こっているか確かめなければ」
矢沢は拳銃を構えて敵の襲撃を警戒しつつ、ラナーの背中を追いかけて王宮へ向かった。
*
「なんだと!?」
『そうです、ドラゴンですよう! それも、前のドラゴンとは全然違いますっ!』
王宮へ移動する最中、矢沢はあおばと無線機で交信していた。回線を繋いで最初に佳代子から聞かされたのが、あおばがドラゴンの襲撃されている、という報告だったのだ。
『主砲で頭部を攻撃しても、少し流血するだけで無力化できません! それに、なんかヤバそうなぶっといビームを撃ってくるんですよ!』
「冗談だろう……被害は!?」
『水面下への体当たりで船体がへこんだくらいですっ! ビームは瀬里奈ちゃんが阻止してくれましたっ!』
「瀬里奈だと!? 無事なのか?」
『は、はいっ! 今のところ大丈夫です!』
佳代子はだいぶ慌てていたが、悲観的なものではなく興奮も感じ取れる。主砲でもダメージが小さい相手だということだが、戦況は優位に進んでいるらしい。
だとすると、瀬里奈がドラゴンと互角以上の戦いを繰り広げていると見ていい。あのロッタでも敵わなかったヤニングスに一矢報いた実績があるとはいえ、それから3ヶ月と経っていないうちにドラゴンと戦えるまでの能力を手に入れたことになる。瀬里奈のポテンシャルの高さは想像以上らしい。
「いいか、瀬里奈には無理をさせるな。ヘリは送れるか?」
『現段階だと発艦不能ですよう! ファランクスの弾をばら撒くだけで精一杯ですってば!』
「承知した。ドラゴンを排除次第こちらにヘリと人員を送ってくれ。場合によれば、王宮を制圧する必要があるかもしれない。オーバー」
『は、はいっ! お気をつけて!』
矢沢は通信を終えると、走る速度を上げて目的地へと急いだ。
これ以上艦に負担はかけられない。今はアメリアだけではなく、ラナーやマウア、リアもついている。増援を待って被害の拡大を許すよりは、今のメンバーで問題の対処に当たる方が被害を最小限にできるはずだ。
そうと決まれば、急がない手はなかった。問題の解決、情報の収集。そのどれも大事なことだからだ。
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