158話 一筋の光

 敵の主要人物が一堂に会するこのチャンスを逃すわけにはいかない。

 ヤニングスはヤザワを倒し、次は彼の副官らしき女に狙いを定めた。

 彼女も倒せば、ジエイタイの指揮系統は弱体化する。フランドル騎士団の方も脅威ではあるが、フロランスさえ倒せば後はどうにでもなる。


 だがヤニングスの眼前に立ち塞がる者がいた。

 アメリアだった。彼女は光の剣を召喚し、副官を守ろうとしている。

 それに加え、ロッタもアメリアと共に戦闘態勢を取っていた。

 前回は各個撃破したが、今回は同時に相手をするようだ。それでも彼女らが勝てるとは思えないが。


「2人で戦うつもりですか。いいでしょう」

「後悔するなよ。我は本気だ」

「私だって、絶対に負けません!」


 アメリアが言い終える前に、ロッタがヤニングスに急接近を仕掛け、剣を振るう。

 ヤニングスはサーベルで受け流しながらロッタの背後に回り、返す刀でロッタに蹴りを入れる。


「ぐっ……!」

「次は私が!」


 ロッタが攻撃を受けるのを見計らっていたかのように、今度はアメリアがヤニングスの背後に躍り出て剣戟を放つ。

 だが、ヤニングスが背後に展開した防御魔法陣で弾かれた。それを確認したアメリアはバックステップで距離を取り、細く白いレーザーで牽制。直後にロッタが再びヤニングスへ袈裟斬りを放つが、サーベルで受け止める。


「無駄です。降伏しなさい」

「絶対にお断りです!」


 ヤニングスが降伏を促すも、アメリアは即答した。訓練を積んだのか能力は上がっているものの、それでもヤニングスには追いついていない。

 ロッタも同じく厳しい目をヤニングスに投げかけ、拒否の意思を示す。


「ふん、豚の嫁に成り下がるくらいなら死を選ぶ」

「えっ……?」


 ロッタの何気ない一言がアメリアを傷つけたようだ。アメリアはロッタに向き直り、抗議の視線を送る。


「豚のお嫁さんの何が悪いんですか!」

「黙れ、動物性愛者が!」


 戦闘中だというのに、アメリアとロッタは些細なことで互いを非難し合う。

 少しはマシになったと思いきや、やはり彼女らは子供。ヤニングスの前に立つには若すぎたのだ。


「あなた方には失望しました。もはやこれまでです」


 ヤニングスは冷徹に言い放つと、アメリアに気を取られているロッタに急接近、袈裟斬りを放つ。

 ロッタはすぐに反応して剣でいなしたが、それでもヤニングスが左手にこめていた火球を防ぐことはできなかった。

 爆発の閃光と共に、熱波と衝撃波、そして煤煙が辺りを包む。近衛騎士団と交戦していたフランドル騎士団や自衛隊の部隊も何事かとそちらを見やる。


「ロッタちゃん、何があったの!?」

「ああ、問題ない」


 波照間が確認を取ると、ロッタは苦しげに返答する。ヤニングスが放った火球はロッタの魔法防壁を貫通したらしい。


 一方、アメリアはまた自分が失敗したことに気づき、強い自己嫌悪に陥ってしまっていた。

 ロッタの一言に反応して足を引っ張り、彼女に隙を作ってしまった。仲間を守るどころか、足を引っ張ってどうするのか。


「ごめんなさい、ロッタちゃん……」

「もういい、奴を倒すことだけ考えろ!」

「は、はい!」


 ロッタから叱られたアメリアは、再びヤニングスに向き合うことに決めた。

 ここで決着をつけなければ、本当に自衛隊やフランドル騎士団の敗北が確定する。

 騎士団は団長と巫女を失って瓦解し、自衛隊は補給を受けられずに露頭に迷う。いずれも待つのは奴隷化の未来だ。


 そんなことにさせてはいけない。誰も幸せになれないのは当然だが、ヤザワたちに恩を仇で返すことになり、しかも自分の唯一の居場所を失ってしまうのだ。


「そんなの、絶対に嫌です! 私は、私のことを認めてくれた人たちに、恩返しがしたいんです! 仲間だって言ってくれた人たちの役に立って、あの人たちの仲間を取り返したいんです!」


 アメリアはその場にいる全員に向かって宣言するかのように、高らかに言い放った。

 自分の居場所をくれた仲間のために、自分の全てを捧げたい。


 母を失い、父もどこにいるかもわからない。こんな自分を、誰も救ってはくれなかった。

 だが、ヤザワらは違った。初めて会った時やシュルツに裏切られた時には優しく、身の上と目的を話した時には厳しく、作戦に参加する時は真摯に接してくれた。

 そして、捕まった時には千キロ以上離れた帝都にまで迎えに来てくれた。


 本当に、心の底から感謝した。そして、自分の浅はかさを恥じた。彼らと出会うことがなければ、今もオルエ村で燻っていたか、魔物に倒されて死んでいたかもしれない。

 感謝してもしきれない。それほどに彼らは大きな存在だった。


 そして、今こそ、その感謝に報いる時だ。


「ヴァン・ヤニングス、私はあなたを倒します。仲間たちの恩に報いるためにも!」


 そう言い切った時、アメリアの体から真っ白な光の奔流が溢れ出た。それは薄暗い森を染め上げ、アメリアを中心とした光のステージを作り上げていく。


「嘘だろう……」

「ふふ、話には聞いていたけど、実際に見るのは初めてね」


 力を解放するアメリアを見て、ロッタは驚愕の色を隠せず、フロランスは思わず笑みをこぼした。

 アメリアの本当の戦いが始まろうとしていた。

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