第70話
太郎の誕生日会の後。
甘く擽ったい気持ちの明は、白田を意識しまくる。
70
休日の2丁目は、人通りも少なくガランとしている。
誕生日会が終了した御一行は、ビルの外へとゾロゾロと出て来た。
「本当に送らなくていいの?遠慮しなくてもいいんだからね~」
「酔い醒ましに電車で帰るから大丈夫。ね?日富美」
「はい、まだ時間もありますし」
運転役を買って出てくれている桃に、由美と日富美は遠慮する。
まだ終電に余裕も有る時間、火照った体を冷ましながら喋りながら帰るには丁度いい。
「ピヨちゃんは、乗って行くでしょ?」
背後に居る雛山に振り返り、声を掛ける桃。
そして彼ジャン状態の雛山に、白田が絡んでいるのを目にして思わずプッと吹き出す。
明の上着を借りている青年は、サイズが体に合ってなくて袖から手がでてない状態。
それはそれで可愛いのだが、白田は面白くないようだ。
「僕から貸してって言ってませんよ」
「当たり前だろう」
「もう白ちゃん、絡まない絡まない。明ちゃんの親切心なんだから、ヤキモチ焼いちゃ駄目よ。で?2人はどうするの?」
「僕は電車で帰ります」
「俺も大丈夫ですよ」
「もう、皆遠慮するのねぇ〜」
ビルの前でそれぞれに暫く立ち話をしている中、雅と明は何故かビルの非常階段脇の路地に入っていく。
「いいか、事故だけはすんなよ」
ゴミ置き場の横に停めてある、紺色のバイク。
雅が明に貸すために、整備し乗ってきたものだ。
一度は「要らない」と言ったが明だったが、その時は自暴自棄になっていた。
今は状況が変わってしまったので、結局借りる事となった。
「メット一個だけ~?」
ヘルメットロックに掛けたれているフルフェイスを見て、明は不満そうに口にする。
「当たり前だろう。誰を乗せる気だ」
「そうじゃねぇ〜けど」
「バイク乗り回してたのはかなり昔だろう、慣れるまでは誰も乗せるな」
「ん〜」
「いいか、帰りはスピードだすなよ」
「もう、いちいちうるせぇ〜〜なぁ」
「お前っ、人のジッポーに傷つけといて全く反省してねぇ〜だろう!」
雅は明のこめかみに、拳をグリグリと押し付ける。
痛がる明はその手から逃げるように、雅から距離をとった。
「いいか!バイクまで傷つけるなよ!」
そう念押ししながら、雅は手にしていたバイクの鍵を明に向かって放り投げる。
パシリとそれを受け取り「ん〜〜」とやる気のない返事を返した。
雅が路地から出ていくのを見、明はバイクにまたがる。
運転するのが久々過ぎて、感覚を取り戻すように足元や手元の確認を始めた。
「明」
雅と入れ違いに現れた白田。
優しく名前を呼ぶ男に、明の心臓はドキンと高鳴る。
非常階段では気持ちが高まりすぎて、猿みたいにがっついてしまってた自分が恥ずかしい。
フスカルへ戻った後も、変に白田を意識してしまう為極力視線を合わせないようにしていた。
だが視界に入る男の手に、あの手が髪に触れて・・・・とか
男が優しい口調で何か話している時は、その唇が・・・・とか
非常階段での事を思い出してしまい、酔いも冷めてきてるのにクラクラと目眩がしていた。
「皆、もう行っちゃったよ?そのバイクで帰るの?」
明が跨っているバイクの脇に立つ男に、明は「ん」と返事を返す。
皆はもうこの場には居ないのに・・・わざわざ残ってまで声を掛けてくれた相手にモジモジとしてしまう。
「格好いいバイクだね。乗れるなんて凄いな」
白田の手がバイクのフューエルタンクに触れる。
そして明の顔を覗きこみ、フッと笑いかけた。
そんな男の一つ一つの動作全てに、目が釘付けとなってしまう。
「今日は・・・ごめんね」
突然の白田の謝罪に、惚けていた明はハッとして「何が?」と返す。
「明に八つ当たりした」
「・・・・・・そんな事思ってねぇよ・・・。お前は間違ってない」
竜一に代わって謝罪した事は、そりゃそうだと明も解するところはある。
白田が謝る事は何一つない・・・・
自分は色んな事を隠しているのだから・・・・こっちの方が悪質だ。
それを伝える前に、非常階段のような事になってしまった。
順序を踏んで・・・・・と思っていたのに、やっぱり暴走しがちな感情には抗えない。
「明」
タンクに添えていた男の手が移動し、ハンドルに置いている明の手に重なる。
温かい男の手の感触と優しく名を呼ぶ声に、明の胸は甘く疼き出す。
「焦らなくていいよ」
「?」
「もう明の気持ちは解ってるから。明が話したいって思うまで、待ってる」
男の言葉に、明は顔を歪ませる。
まるで知っているかのような言動。
だけどちゃんと本人の口から聞きたいと言ってくれているようで、明は鼻先がツンとするのを感じた。
泣きそうな顔を下に向けて、コクンと頷く。
その気持ちが嬉しい・・・・
だがもう気持ちは固まっている。
「・・・・・次の日曜日、空いてるか?」
「え・・・」
明の問いかけに、言葉をつまらせる白田。
返事が無い相手に、明はそっと顔をあげて男の顔をみる。
面食らったような表情で固まっている白田に、想像していた反応と違って少し不安になった。
「埋まってるな「空いてる!!空いてるから!」そう・・」
明の言葉に遮るように慌てる白田は、その後クスリと笑いを漏らす。
「ふふっ。今俺が言おうとしてた事、明が先に言ったからビックリして」
蕩けるような表情で明に笑いかける男に、明まで気持ちが上昇する。
「デートだね」
「!?」
「あれ?違うの?」
「・・・・え・・・と・・・」
デートの単語に狼狽えてしまう明。
そんなつもりは無かったとしても、思い合っている2人が休日に会うという事は【デート】になる。
「可愛い、明」
口をモゴモゴされる明に、囁くようにそう口にする白田。
男の空いている手が、明の髪に伸びてきた。
髪を撫でる優しい手付きに、心の中がじんわりと温まる。
そして髪に手が差し込まれ「明」と吐息混じりに名を呼ばれた。
男の熱っぽい瞳を間近で見上げ、男の視線が自分の唇に注がれているのを感じ、相手が何を求めているか理解した明はそっと瞼を閉じる。
それを合図に暖かく柔らかい男の唇が、明の唇を塞いだ。
71に続く
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