第35話

目の前で濃厚ベロチュ~を見せつけられた雛山。

新たな鷹頭からの要求に、受けて立つ!と意気込むが・・・


35



双葉広告代理店

デザイン部



始業時間20分前。

雛山は自分のデスクに腰掛ける。

鞄の中からメモ帳やペンケースや眼鏡ケースを取り出し、手の届く場所に配置していく。


「おはよう、雛山君」


「おはよう御座います」


雛山の前の席の鷲森も、出社してきた。

そして挨拶を交わした後、じっと雛山を見ている。


「?」


「あぁいや、落ち込んでるかなって心配してたんだけど。思ったより普通だったから、良かった」


「はい、大丈夫です。今回はいい勉強になりました」


「それでこそ新人よ。疑問に思った事はどんどん訊いてね」


鷲森の言葉に、思わず笑いを漏らす雛山。

心配してくれていた事に、少し擽ったさを感じる。


昨日、什器のデザイン案に雛山の考えた案は採用されなかった。

誰よりも沢山の案を考えて提出したのに・・・・・自信があっただけに落胆が酷かった。

だがポスターとは違い、什器のデザインなんて経験が無い上に、知識がまったくない。

後で鷲森にどのように案を考えたのかを訊けば、本やネットよりも実際に什器を見に色んな店を歩き回ったと聞いた。

確かに・・・普通に買い物をしていて、商品ばかりを目にし什器など気にも留めなかったと未熟な自分を反省。

なので昨日は仕事が終わった後、色んな店を見て回り、お菓子や日用品や文房具等あらゆる商品の什器を見て回っていた。

デザインは目立つだけでは駄目だ商品を引き立てる脇役、それを知れただけでも自分の仕事の奥深さが解り俄然やる気が出た。

今の自分は経験が必要!周りの先輩方から色んな事を学び、そして今日から気分を一新して頑張ろうと決めたのだ。


「鷹頭くん・・・やっぱり今日は休みかしら」


鷲森が鷹頭のデスクを見て呟く。

雛山はその視線の先を合わせ、何とも言えない表情になる。


昨日の資料室での出来事は・・・・衝撃過ぎた。

目の前で繰り広げられた濃厚なベロチュー。

キスの経験も無い雛山からしたら、刺激がありすぎた。

鷹頭を腰砕けにした明に、流石経験豊富なんだと思ってしまった。

その鷹頭は、雛山が事務所に戻ってきた時には既に早退した後。

体調が悪い為という理由になっていた。

今日は来ないかもしれない・・・・それはそれで嬉しいが、少し心配な気もする。

だがそんな心配は必要なく、鷹頭は始業5分前に現れいつも通りに仕事が始まった。


そして昨日決まったデザイン案の次の工程。

雛山の担当とされた部分のライン引きと色付けを、集中して行うこと一時間。


シュッ


と社内メールの通知が、PC画面右下に表示される。

雛山はなんだろうと、そのメールをクリックして開く。

何と、相手は鷹頭だった。


『あの人の連絡先知ってるだろう、教えろ』


「!?」


その文面にビックリして、顔を上げて鷹頭のデスクに顔を向ける。

真っ直ぐ雛山を睨む彼と目が合った。

一体何が目的なのか。

考えられることは唯一つ、明を訴える。

そんな考えが浮かび、雛山は顔を青くする。

そしてカタカタとキーボードを叩き、返事を返す。


『無理だよ。そんな簡単に個人情報教えられないから』


何とかそれだけは阻止しないと。

本当なら白田に相談すればいいのだろうが、元はと言えば自分と鷹頭の問題だった。

充分すぎる程助けられた。

だから、もう白田に迷惑は掛けられない。

鷹頭がこれ以上何か言って来ようものなら、自分が迎え討ってやる!!

PCの画面を睨みながら、鼻息荒く相手の反応を待つが・・・・返ってこない。

結局終業時間まで、鷹頭は雛山に絡むこと無く終わった。



******



フスカル



花の金曜日

雛山と白田は、ルーティーンに組み込まれているフスカルの来店日。

会社から白田と一緒に二丁目へ向かう為、明の迎えはない。

そして仕事が終わってすぐに直行するので、時間的に店の中はまだ静か。

店に入った時はカウンターに林檎ちゃんだけ。

雅もまだ本腰を入れていないのか、林檎の隣りに座ってタバコを吸っている。


「いらっしゃ〜〜い!」


誰よりも元気な声で歓迎してくれる、林檎ちゃん。

雅は片手を上げて終わり、カウンター内にいる明にとってはチラリと視線を向けるだけ。

フスカルの店員はやる気がない・・・・だがそんな空気感も嫌いじゃない雛山は、ここに来るというより帰ってきた気持ちが大きい。


「ピヨちゃん、ここお座り」


「はい」


林檎ちゃんに隣の席をポンポンと叩かれる。

雛山は足取り軽く、指定されたチェアへよっこらしょと乗り上げて座った。


「明、風邪はもう大丈夫?」


雛山の隣りに腰掛けながら、カウンター内の明に声を掛ける白田。


「だから風邪じゃねぇ〜って」


「あはははは、こいつが風邪ひくかよ。今まで俺も見たことねぇ〜〜のに!」


思いっきり馬鹿にする雅に、手に持っていた布巾を叔父目掛けて投げる明。

だが叔父は簡単にそれを避ける。


「お前なぁ〜〜拾えよ」


飛んでいった布巾はBOX席の近くに落ち、雅は顎先でそれを指す。


「チッ」


明は舌打ちしつつ、カウンターから出て布巾を取りに向かう。


「さてと雛はカレーと牛乳で、白田さんはビールとおつまみセットだな」


タバコを灰皿に押し付けて、立ち上がる雅。

2人は座ると決まって同じメニューを頼むので、注文を聞かずとも雅は準備しようとカウンターの中に入った。

その時、バン!と入り口の扉が勢いよく開け放たれる。

店内に居た皆は、何事かとそちらへ顔を向けた。


「「!?」」


目を見開き固まる、白田と雛山。


「おいおい、最近の若いのは扉の開け方も知らねぇ〜のかよ」


雅は扉を荒々しく扱われたことに、初めて来た客にイラッとする。

来店した客は、そのまま近くに居た明の前まで歩きそして彼にグワシッと抱きついた。


「明ちゃんの知り合い?」


林檎ちゃんが首を撚る中、白田がガタンと椅子から立ち上がる。

そして大股で明の元へ行くと、客の首根っこを掴んで引き剥がした。


「鷹頭!どう言うつもりだ!」


店に現れたのは、鷹頭だった。

白田は怒りで満ちた表情で、青年を見下ろす。


「何でここに!?」


我に返った雛山も、白田の方へと駆けつける。


「雛山の後をつけて来た。愛野さんの連絡先を教えてくれなかったら、ずっとつけてた」


「え・・・えぇ!?水曜日からずっと!?」


「おい、オレの連絡先訊いてどうするつもりだったんだ、クソガキが。決闘なら受けて立つぞ」


白田に襟首を掴まれている鷹頭の両頬を、片手で掴む明。


「愛野さん!!責任を取ってください!俺の初めてを奪った責任として、付き合ってください!」


「「「!?」」」


これには流石の三人も同じ表情で固まる。


「やだっ、二股!?明君二股掛けてたの!?」


突然のスキャンダルに、ウキウキが隠せない林檎。

そして「はぁ〜〜何やってんだ・・・」と頭を抱える雅。

突然現れた一見さんにより、SSS級の彼氏が居るにも関わらず、年下の男のお初を奪った男として明の名が浮上してしまった。

勿論林檎ちゃんの中だけでだが・・・・・



36へ続く

大丈夫ですか?ちゃんとついて来てくれてますか?

鷹頭は登場初期から、このポジションが決定してました。

クリスマス編でも匂わせておりましたが、そういう事です。

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