第25話

愛野宅でのカニ鍋パーティー

白田の振る舞いに明はイライラが積もる


25



愛野家

居間



12畳の居間に、全員集まっていた。

下座に手前から明、雅と太郎。

そしてテーブルを挟んだ明の正面から白田、由美と雛山が座っていた。

テーブルの上には、既に半分程減った2つの鍋。

そして由美が差し入れした、日本酒とつまみ類が豪華な食卓を彩る。

そんな中、明はタッパに入ったポテトサラダを木のスプーンでぱくついている。


「おいっ明、ポテサラ独り占めすんなよ」


雅は隣から手を伸ばしてそれを取ろうとするも、明が体を捻って阻止する。


「これはオレのなの。お前は鍋だけ食っとけよ」


「あんた本当にポテサラ大好物よねえ」


「料理出来なかった姉さんが、明の為に唯一作った料理だったからなぁ」


「へぇ。じゃぁ愛野君にとって、これがおふくろの味なのね」


「今では、日富美ちゃんが明君の為に作ってくれるんだよ。差し入れしてくれた時、僕にも食べさせてくれないんだよ」


何だかマザコンみたいな言われようで、ムッとした表情になる明。

母の家が土地持ちの金持ちだった為、父は婿養子。

家には料理を作る家政婦が居た為に、母親が作る料理はめったに口に出来なかった。

お嬢様として育った母は、家事は一切できない。

だが息子に注ぐ愛だけは、そこらへんの母親には負けていなかった。

同じくちやほやされて育った明は、怖いもの知らずのお坊ちゃま。

我儘に育ちそうだが、母親の教育は道徳に沿った教えだったから根は素直に育った。

ただ・・・素直過ぎて、感情がダダ漏れになる。

口で言って駄目なら、手が出る子供だった。

母が亡くなる前、元々住んでいた家を建替える為、小学四年の一年間この家で過ごした。

その時は父の祖父母もまだ健在。

そして明はこの近くの小学校へ通うことになり、そこで日富美と出会った。

当時、彼女の事が好きだった男子生徒から虐められていた日富美。

恋に過敏な年頃。

好きな子を虐めると言う、矛盾に気が付かない年齢だ。

何も言い返せない大人しい日富美は、調子に乗ったいじめっ子にやられたい放題。

クラスで威張り散らすようないじめっ子だったから、日富美の友人も何も言えなかった。

それが明が転入してきた初日、いじめっ子は明のたった一発のパンチでノックアウト。

前歯を折るほどの怪我に、普通は学校問題になるだろう。

だが明の家は簡単にそれをもみ消して、いじめっ子の親も泣き寝入りするしかなかった。

いじめっ子は、明の顔を見ると過呼吸を起こす程にトラウマとなり、結局明が元の学校に戻る前に転校してしまった。

明自身にお咎めは無かったのかと言えば、母親にこっ酷く怒られた。

家が金持ち、そして明の容姿がずば抜けて良かったので、5歳の頃から護身として合気道や空手を習わされていた。

子供には重いパンチで、相手に怪我をさせたのだから親として怒るのは当たり前。

ただ散々怒られた後に「女の子を守ったのはカッコいいわ。流石私の息子ね」と褒めてくれた事は今でも鮮明に思い出せる。

日富美にとって明はヒーローであり、家も近所だった事からよく家に遊びに来ていた。

彼女と過ごしたのはその1年だけだったが、姓が変わり再び明がこの家に住み始めた高校2年に再会し、精神的にボロボロだった明を側で支えてくれた。

明にとって彼女は、雅や太郎と同じ家族のような大切な存在。

ただ一度だけ、彼女の気持ちに応えようとした行いが、今でも後悔としてずっと引き摺っている。

だから彼女には頭が上がらない。


「自分でお弁当作るんだから、ポテサラぐらい作れるでしょ」


「何いってんだ、じゃがいもの処理が面倒なんだよっ」


「・・・・この前コロッケ作ったって言ってなかった?」


「ははははっ。あれね、途中で皮を向くの面倒で皮ごと入ってたよね、半分スリ潰れてなかったし」


「あぁ?作ってもらっといて文句言うのかよ」


「ううん、違うよ。具がゴロゴロしてとっても美味しかったよ」


「そうなのよね・・・愛野君のご飯見た目残念なのに、味はビックリするぐらい美味しいの。不思議すぎるわ〜〜〜」


「作り方もすげ〜けどな。まな板叩き割る勢いだしよ」


褒めてるのか、貶してるか解らない由美と太郎と雅に、ケッと吐き捨てる。

そんな時視線を感じ、正面に居る男に顔を向ける。

途端に外される視線。

白田のそんな素振りに、明は眉間の皺を寄せる。

鍋を囲んでから、こんな事が何度かあった。

最初は偶然だと思ったが、三度目にはわざとだと解る。

そんな相手に、ムカムカが積もる。

2時間前に雅から、雛山と白田を誘ったと聞いた時はびっくりした。

雛山はフスカルでバイトしているから解る・・・・だが何故、白田も?

自分が誘ったならまだしも、今日は雅の客として来ている。

だから明も、あまり横柄な態度は取れない。

あんなに自分を避けていたのに、何故今頃家に来たのか・・・・

ただ雅が誘っただけで、あっさり家に来たことにイラッとしたが・・・


「愛野さん。煮詰まってきたので、一度出汁を入れますね」


「・・・・・・・」


目を合わせずそう言う男に、明は返事を返さず睨む。

そう・・・・今まで散々下の名前で呼んでいたのに、ここに来て愛野さんと呼ばれる事が1番腹が立つ。

明らかに距離をおこうとしている証だ。

折角のカニ鍋パーティーなのに、ずっとイライラしっぱなしの明。

さっさとこの時間が過ぎればいいと思いながら、ポテトサラダを一気に掻き込む。


「そういえば、雅君の恋人さん来れなくて残念だなぁ。会えるの楽しみにしてたのに」


「え・・雅さん恋人居たの?」


太郎の言葉に、由美がわかりやすい程に肩を落とす。

雛山ももぐもぐと口を動かしながらも、興味有りげに雅に視線を向ける。


「あぁ、あいつなら今日は予定があってよ、後から・・・」


雅が言葉をいい終える前に、テーブルの上に置いていた雅のスマホが鳴り出す。


「おっタイミング良すぎ、太郎さん悪いけどもう一人分用意してくれねぇか?」


「うんうん、解ったよ」


雅はスマホを片手に、居間を出ていく。

そして太郎も、台所へと向かうべく雅の後を追いかけるように居間を出ていった。


「え・・・え・・・・ええぇぇ・・・」


残されたメンバーの中で、一人絵に描いたように狼狽えている雛山。


「どうしたの?雛山くん」


様子がおかしい青年に、由美は心配そうに顔を覗き込む。

白田も訝しげな表情で「雛山、具合でも悪いのか?」と気遣う。


「いえ・・・そうじゃなくて・・・雅さんの恋人って・・・」


雛山は隣の由美を通り越し、白田に視線を向ける。


「ん?雅さんの恋人がどうした?」


雛山が何を言いたいのか解らない白田は、首を傾げて聞き返す。

唯一その場で雛山が言いたい事が解った明は、思わずふっと鼻で笑った。



26へ続く

次回!雅の恋人が登場!?

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