お題:手紙

「これ、拾った」

 机の上に置かれたのは、フジツボが生えた小瓶だった。中には折り畳まれた紙が封入されている。

「ボトルメールか」

「どうしよう……」

「いやどうしたもこうしたも……中身読んだら宛名ぐらいはわかるかもしれんけど」

「……プライバシー保護」

 海に流した時点でプライバシーもへったくれもないのはさておき、拾ってきた当人が望まないなら開けるわけにもいくまい。

「というか、中見ないなら何で拾ったんだよ」

「そこにあったから……」

「小学生かお前は」

 好奇心が止められない友人を心配しながら、この手紙の措置を考える。が、特に妙案なんてない。

「読むか、また流すかだよな」

「そっか……うん。わかった」

 彼女は小さく頷くと、瓶を手に取って、大切そうに持っていった。

 放課後、一緒に向かったのは海だ。

「この辺で拾った……」

「そか。……で、俺に投げろと?」

「ボール投げ2mだよ私……」

「非力にも程があんだろ……ほら貸せ」

 瓶を受け取り、大きく振りかぶって海へ放り投げた。上手いこと波に乗ったようで、宛先不明の手紙はもう一度海原の旅に出た。

「これでいいか?」

「うん、ありがとう。……あのね、本当はあの手紙読んだの」

「プライバシー云々はどうしたよ。……何が書いてたんだ?」

「何の変哲もないラブレター……宛先も署名もない、ただ心を書き写しただけの手紙だったよ」

「ふーん……だったらまあ、このまま海を漂ってる方がいいかもな」

「そうだね……」

 さざなみの音。夕暮れに染まる海。どこかしんみりとした空気に流されてポエミーなことを口走る前に、俺は踵を返した。

「帰るか!」

「う、うん」



『私は、ついに言えなかったね。ずっとずっと想い続ければ、いつかあなたがテレパシーで読み取って告白してくれるかも、なんて。

 ちょっとだけ勇気を出せば、変わってたかもしれないのに。

 後悔なんて、したくなかったな。』


「……私、がんばるね」

 海原を永遠に旅し続ける横恋慕へ、少女は誓いを立てた。

「おーい、置いてくぞ」

「あ、待って……その、い、言いたいことが、あるの……あっ、あのね!」






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