お題:説教
「トラップカード発動! ブルーアイズを召喚!!」
「なんの! 行けザガーン様ッ!」
「ぐあああああ!!」
放課後の教室には、ルーズリーフで作った自作カードで白熱の対戦を繰り広げる二人の男子の姿があった。
「チクショウ……お前の勝ちだ……」
「よし、姉ちゃんの仇は討った!」
「誰がデュエルで死んだって?」
両方の頭を出席簿で叩きながら、長身の女子生徒が嘆息する。
「おいおい水差すなよ風紀委員サマ。俺らはいま闇のデュエリストとして真剣な戦いをだな」
「お前ら……小学生みたいなことではしゃぐな」
「姉ちゃんが俺らのデッキ取ったからだろ!」
「そーだぞ。あれ組むのに5000もかかったのに」
「たかがカードに金をかけるな馬鹿者」
「うっせ誰が馬鹿だ。TCGは男のたしなみなんだよ」
「聞くに堪えんな馬鹿の妄言は」
「あ?」
昭和のヤンキーもかくやという勢いでメンチを切り合う二人を前に、弟は慣れた様子でそこから退散した。
「テメェは昔っから男のロマンってモンがわかってねぇなァ! カードは希少価値を持った財産なんだよ!」
「突き詰めれば絵と紙切れだろう……別にそれを持つことは構わんが、学校に持ち込むなと言っている!」
「ふッ……デュエルは止められねぇんだ!」
「やかましいド阿呆が!!」
丁々発止の口喧嘩が繰り広げられる教室を覗き込む小さな女子がひとり。
「お兄ちゃん帰ろー……って、また喧嘩してる」
「いつものことだよ」
額を突き合わせるほどの距離で大喧嘩する二人を眺め、弟妹たちは呆れながらも笑っていた。
「小さい頃からずーっとだもんね」
「この後に姉ちゃんが『言い過ぎた』って落ち込んで」
「お兄ちゃんがショートケーキ買ってきて謝るんだよね。ワンパターンすぎない?」
「でもまあ、いいんじゃない? 変に長引くよりはずっとマシだよ」
そんな会話は露知らず、兄姉は埒が明かぬとばかりに同時に振り向いた。
「「お前ら先に帰ってろ!」」
「今日こそは許さねぇぞ頭でっかち! さっさとデッキ返せ!!」
「やかましいぞ阿呆が! 先生方に報告せず没収だけで済ませてやった温情を忘れたか!」
「そこは本当にありがとうございましたッ!」
「……帰ろうか」
「ん。じゃーねー、お兄ちゃん、姉さん」
二人が教室を後にしても尚、喧嘩の声は続く。
「大丈夫かなあの二人……」
「さぁね。私らみたいにさっさとやることやっちゃえばいいのに」
「……無理じゃない?」
「だろうね。あーあ、事故チューでもすれば変わるかな」
少年のロマンを忘れない兄と、規律第一な姉。
不器用な二人を眺める妹と弟。
兄妹と姉弟の日常は、明日も変わらない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます