お題:宇宙
「ロケット作った」
久々に部室へ顔を出してくれた同級生の女子は、開口一番そう言った。
「マジで!?」
驚いた俺がボロいソファから跳び起きた衝撃で、壁にかけてた『天体観測部』の木札が落ちた。
略して天測部の部員は某聖闘士の漫画で星座が好きになった俺と、名前だけを貸してくれた親愛なる友人と、宇宙が大好きな同級生の三人。部室も一番狭くて古いものを貸し与えられてるだけで、ギリギリ存続できているだけの部活だ。
何せ、天体観測では目に見える実績が作れない。深い知識を持たない俺たちでは新しい星を観測することなど不可能に近いからだ。
そのせいで部費も皆無に等しく、俺の私物である望遠鏡と友人がゲーセンで取ったちっさいカービィのぬいぐるみぐらいしか備品がない。
「そんな天測部に革命が起きた!!」
「大したことじゃない」
こともなげに謙遜しながらも、その顔はあふれ出る『ドヤ』が隠せていない。
早速現物を見せてもらうと、なかなかに大したものだった。
「見た目は完全にロケットだな」
「うん。……まあ、発射時にちょっとした噴射があるだけで、浮上方法は気球に近いんだよね。だから正確にはロケットじゃないけど……」
「いやいやいや! すごいだろコレ!」
心からの賞賛が止まらない。たしかにクリエイター気質で手先も器用な彼女だが、一朝一夕で作れる代物ではない。きっと、この形になるまで何度も試行錯誤を繰り返したのだろう。
「さっそく打ち上げようぜ!」
「うん。……あ、中にこれを入れたい」
ポケットから取り出されたのは、カプセルに入った二つのたんぽぽの種だった。
「カプセルはでんぷん製だから、分解される……宇宙を見たたんぽぽって、素敵だと思わない?」
「最高かよ」
俺たちは夜の公園で、嬉々としてロケットの最終調整を行った。
「よっしゃ、行ってこいよベルカ、ストレルカ」
「なにそれ?」
「たんぽぽの名前」
「……いいじゃん」
ロケットの設置が終わり、いよいよスイッチを押すところまで来た。
俺らは頷き合い、彼女が緊張した面持ちで発射のスイッチを押す。火花が散り、ロケットは空の彼方へ飛翔していく。俺はいつまでもその軌跡を見上げていた。
「行けるかな、宇宙」
「さぁな。でも、きっとあいつらは宇宙を見ると思うぞ」
「……だといいな」
星は、宇宙はロマンだ。ロマンなしに宇宙を語る事も見る事もできない。
そして、いまの俺たちのロマンは『宇宙を見たたんぽぽ』だ。
あの種がどこかで芽吹くと信じることが楽しいのだ。
「さて、帰るか!」
「うん。……あ。記録し忘れた」
あ。
「……写真とかないと、実績にならないよね」
「やっっっべ」
部室の危機は去らなかったが。
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