お題:ハサミ

「学園祭のお手伝いですね! 任せてください!」

「ほう、この紙を星の形に切ればいいんですね?」

「もちろんできますとも! 私、家庭科の成績はいいんですよ!」


「……って自信満々に言ってたのは誰だっけなぁ後輩よ」

「っスー……」

 スカスカの口笛を吹いてシラを切る後輩女子にチョップを決め、呆れのため息を落とす。彼女の座る机には、紙くずにもなれなかった不恰好な色紙が散乱していた。

「こういう作業苦手なら言えっての」

「ち、違うんです! 家庭科の成績は本当にいいんです!」

「そこじゃない。……仕方ねぇ、この分は演劇部の紙吹雪に使うか」

 色紙を星やハート型に切り抜くという雑用を任された所にこの後輩が来たので手伝ってもらったが、ものの見事に大失敗している。

「ちょっと見てるから、切ってみろ」

「はい!」

 さっきまでの失敗はどこ吹く風。自信満々にハサミと色紙を持った後輩は、迷いなく色紙を真っ二つに裁断した。

「はいアウトー」

「ええ!? な、なぜですか! ここから私の思うキラキラ星をですね!」

「数光年向こうから見たら星かもな……はぁ、ほら貸せ」

 ハサミを受け取り、俺は軽く手本を見せる。

「紙を半分に折って、こう切れば……そら、できた」

「おおお! こんな方法があったんですね!」

「線を描くから、それをなぞって切ってくれ」

「はい!」

 失敗するわけがないと思った。誰もが思うだろうし、俺も思った。

 だが違った。

「マジかぁ……」

「しゅみません……」

 家庭科成績の真偽はさておき、この後輩が果てしなく不器用と発覚した。しかし、これを怒っても仕方ない。仕事を申し出てくれたのは善意だし、それを聞いて任せたのも俺だ。

 やってみせ、言って聞かせて、させてみて、という格言もある。俺が任せた以上、俺が手を貸すべきだろう。

「仕方ねぇ。ほら、ハサミ持て」

「は、はい……」

 しゅんと落ちこんだ後輩の後ろに回り、俺は後ろから手を重ねた。

「ほああ!?」

「うっせ……ほら、手で感覚を覚えろ」

 根っから真面目なこいつなら、何回かやればハサミの使い方を理解できるはずだ。

 覚えさせるため、ゆっくりとハサミを紙に入れていく。

「そう、直線は半端に戻さず、ズバッと行け」

「せ、先輩……意外と手がゴツゴツですね……」

「どうでもいい事に集中すんな」

 その後、数十枚の共同練習を経て後輩は一人でハート型を切れるようになった。

 翌日、それを自慢したせいで別の準備を頼まれ、俺に泣きついてきたのは別の話だ。

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