お題:日陰
日陰が好きだった。日差しを浴びてると頭が痛くなってくるし、物陰にいると守られてる感じがして安心できる。あと、なんか影ってカッコイイし。
そんな思いでずっと生きてきたせいか、いまでは何でもかんでもできるだけ日陰を選ぶようになった。
塀や電柱の影を歩くし、授業が自由席ならできるだけすみっこを選ぶし、自室も大体カーテンを閉め切っている。いまでは親しい友達からもキノコと呼ばれている始末だ。実際にシイタケを育ててるけども。
じめじめしているけど、私の生活は穏便だ。いじめられることもないし、一人の時間は好きだから充実すら実感できる。だけど……
「ま、またいる……」
昼休みに校舎の影になるベンチは、普段なら人がいない静かなスポットだ。しかし、最近になってそれが脅かされている。
「zzz……」
ベンチで横になって寝ている男子生徒は、毎週水曜日だけ現れる。20分ばかり眠ったらパチリと起きてどこかへ行ってしまうので害はないのだが、怖くて近づけない。
「うぅ、水曜だけは別の場所を探した方がいいのかな……」
お弁当を持ったまま物陰から様子を伺っていると、今日も彼は体を起こした。眠っていたとは思えないほどシームレスに立ち上がると、いつも通り向こうへ……
「えっ、こっち……!?」
こっちを向いた。私は急いで逃げようとするけど、想定外に弱いせいで無駄に慌ててしまう。そしてぐずついていると、
「ん?」
「な、あ、あわわわわ」
ばっちり遭遇してしまった。
彼は私の顔と手元を見ると、合点がいったように頷いた。
「お弁当食べる場所だった? ごめんね、昼寝に使って」
「え、えっと……」
「ここって隠れた昼寝スポットだよね。日陰だから涼しいし」
「あ、あ、わかります……私も、日陰が好きで……」
日陰の話題でつい同意してしまったが、恥ずかしさですぐに声がしりすぼみになってしまう。けど、目の前の人はそれを茶化さなかった。
「だよね。日光がしんどい時もあるし」
「あ、わかります……頭、痛くなるし……」
「同じだね。じゃあ、ゆっくりご飯食べてね」
そう言って歩き去っていく彼の背中に、声をかけた。
「あっ、あの。……また、お昼寝しにきてくださいね」
きっと、彼にとってはたかが昼寝だ。どうでもいいことだったのかもしれない。
けど、私にとって日陰は大きくて、誰にでも優しい存在なんだ。誰かが独占するものじゃなくて、みんなが静かに休める場所であるべきだって思うんだ。
「……ありがと。また来るね」
その言葉通り、来週の水曜も彼はいた。
「や。一緒にご飯食べてもいい?」
「ヘァッ!?」
「すごい声でたね」
クスクスと笑う眠たげな少年と、不思議な交流ができた日だった。
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