第125話:恋心とは……?
姉のように慕うエレノアさんが拠点に訪れて、リズが猛スピードで身支度を整えるまで待った後、俺たちはある場所へ向かった。
「……戸締り、ヨシッ!!」
王都方面に出発する地下鉄である。
せっかくエレノアさんを誘ったんだし、遠出して遊びたいんだ。ちょうどクラフターたちが建設中の高原都市ノルベールは、半年前からリゾート地計画が進んでいる。そのため、シミュレーションと称して、遊ばせてもらう約束を取り付けておいた。
クラフターたちから『隊長』と呼ばれる、俺の人脈パワーとも言えよう。普通なら横暴だと怒られるけど、少しは作業を手伝う予定だし、何も問題はないよ。
「……出発!」
メル車掌の指示でストッパーを外した後、仮拠点が王都へ向かって走り始める。俺とメルはすぐに仮拠点内に入って戸締まりを再確認すると、役目は終わりだ。
到着まで優雅な旅を過ごすために、四人でお茶会を始めるとしよう。
地上よりも地下は暑くないし、今が旬のトウモロコシを使ったコーンポタージュでも飲もうかな。お茶会なのに茶を出さない辺りが、非常識の俺っぽい。
みんなにコーンポタージュを差し出すと、メルがジーッと見つめてきていた。
「……いつもの」
仕方ないなーと思いつつ、俺は二つの猫のぬいぐるみを取り出し、メルと二人で遊び始める。
この半年間の間で鍛えた、ぬいぐるみ遊びだ。メルと心の距離を縮めるには、やっぱりぬいぐるみに限るよ。
リズとエレノアさんの前でやるのは恥ずかしいので、そっちはそっちでお茶会を楽しんでくださいね。
「少し見ない間に、リズちゃんは綺麗になりましたね。大人に近づいた印象を受けます」
「そ、そうですか? ミヤビにも言われたんですけど、自覚が沸かなくて……熱っ!」
少し褒められただけで動揺してしまったリズは、勢いよくコーンポタージュを飲もうとして、舌を火傷した。照れ隠しをしたはずなのに、かえって恥ずかしい思いをしている。
そんなリズの姿が懐かしいのか、エレノアさんは笑みを浮かべていた。
「ふふふ、照れ屋さんなところは変わりませんね」
「そう簡単に変わらないですよ。でも、エレノアさんは変わりましたよね。以前はミヤビの非常識を止める側だったのに、今はすんなりと受け入れています。まだ私でも受け入れがたい状況なのに」
確かに、エレノアさんは変わった。正確にいえば、順応しただけにすぎないが。
本拠点や猫ハウスを建設したことや、花壇の世話をお願いしたこともあって、この半年でエレノアさんに関わることが多くなったんだ。ここぞとばかりに地下鉄の見学会も行い、実験で走らせるところも見せたら、意外にも喜んでくれたよ。
「ミヤビくんを非常識だと思っていましたが、パーティ拠点や地下鉄を見て、今まで自分を押さえ込んでいたのではないか、そう考えるようになりました。私たちが驚く程度に留めてくれていた、と言い換えた方がいいのかもしれません」
走る家で常識の壁をぶち壊してしまい、これまでの行動が正当化された、とも言い直せますね。
「そう言われると、出会った頃に地下鉄を見せられてたら、ドン引きしてたかも。関わってはいけない人のような気がするもん」
「私は他国の工作員の可能性を疑いますね。利便性だけを追求したものではなく、近代兵器だと考えます」
「確かに。この地下鉄、王都内に直接繋げてるんだもん。戦争に使うとしたら、移動時間を大幅に減らして、超スピード侵攻ができる。守りを固める時間は皆無だから、恐ろしい奇襲が成功するかな」
冷静に分析されてしまうと、俺は肩身の狭い思いするしかない。二人が冷たい視線を送ってくるなか、ぬいぐるみ遊びに付き合ってるメルだけは楽しそうにしてくれている。
よしっ、ここでトラさんの登場だぞー。ガオーッ!
まあ、リズたちが心配するのもわかるけど、地下鉄が悪用されないように、土魔法を強く施した硬質ブロックでトンネル全体を覆って、見つからないようにしている。仮に街の外に地下鉄の駅を作ったら、魔物に壊されたり、侵入されてたりする可能性が高いんだ。
俺は悪用する気がないんだし、もう少し温かい目で見守ってくださいよ。こうして、遠方に遊びにも行けるようになったんですから。
「リズちゃんがいなくなった途端、Sランク冒険者並みのパーティ拠点も建設するほどです。冒険者ギルドとしても、半年前の依頼で架け橋の建設に携わったことを高く評価していますから、問題はないと思いますが……、私がミヤビくんに慣れすぎているような気もします」
実際、本拠点を建設したときのエレノアさんは、頭を抱えるくらいには動揺していた。二人パーティであそこまで豪華な拠点はなく、変な疑いがかけられてしまうのでは、と。
そのため、ヴァイスさんの名前を借りて、共同建設をしたことにしてもらっている。商業ギルドも俺とヴァイスさんの関係を認知しているし、正式な書類に登録しておけば、まず調査が入らないとのこと。
こういうところは、エレノアさんがいてくれて本当に助かっている。優しいお姉さんであり、優秀な秘書みたいなイメージだよ。
「慣れって恐いですよね。魔法学園に半年間いただけで、ミヤビの非常識についていけなくなってしまいました」
「気を付けてくださいね。ミヤビくんは不意に非常識をぶつけてきますから」
陰口は本人がいないところでしてほしいと思いつつ、コーンポタージュを口にして心を落ち着かせる。すると、何かを閃いたかのように、リズとエレノアさんの眉が上がった。
「でも、ミヤビくんは周りに迷惑をかける建築をしません。誰かのためを思って物作りに勤しむ子ですから、頭ごなしに否定する必要はないと思うようになりましたね」
「気持ちはわかります。新しいアイテムを作るときも、私が困ってるところを助けるために頑張ってくれるんです。そういうところがお父さんみたいで好きなんですよね」
「ミヤビくんは大人びていますから、見た目とのギャップが大きいですね。弟みたいに可愛く見えるような、男らしい男性にも見えるような感じがして、どうにも気になってしまいます」
そういうのも本人を前にして言わないでください、と思う俺の心とは違い、二人は渾身のどや顔を決めていた。
エレノアさんの気持ちを引き出してあげたよ、というリズの想い。リズちゃんの好感度を上げておいたからね、というエレノアさんの想い。そしてここに、リズ様の髪型を大人っぽく仕上げておきました、というアリーシャさんの心遣いが合わさる。
嬉しいような恥ずかしいような気持ちが生まれるけど、誰も俺に恋愛感情を抱いていないという真実が恐ろしい。好感度が上昇し続けた結果、お父さんルート、弟ルート、パパルートに入っているんだ。
ここまで異性として見られない男になってしまうとは……。うぐっ、悲しみが深い。
そんな俺の思いに気づいてくれたのか、ぬいぐるみ遊びをしていたメルが動き出す。俺の方に近づいてきて、額に手を当ててくれたんだ。
「……熱はないけど、顔は赤い。褒められて照れただけなら、遊べるね。ふぅ、よかった」
何も良くないよ、メル。君は完全に友達ルートに入っているね。
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