第117話:気遣いのできる女の子、メル

 王都を出発して、数時間が経過する頃。そろそろ昼ごはんを食べてもいい頃合いだと思っていると、急にメルが街道から逸れて、草原に足を踏み入れた。


「街道を歩いていかなくても大丈夫か? 戦闘できるのはメルだけだし、変な方に行くのは危ないぞ」


「……こっち」


 まあ、メルが行きたいなら仕方ないか、と思ってしまう俺はメルに甘すぎるだろう。Bランク冒険者とはいえ、まだ彼女は子供なんだ。


 俺がしっかりしないといけない……とはわかっていても、少し歩くだけで尻尾がペチペチと当たるため、どうでもよくなってくる。心配してくれているみたいで、ずっと手を繋いで歩いているんだ。


 元気なリズもいいけど、癒し系のメルもいい。冒険者仲間に恵まれていることを実感するよ。このままメルがパーティメンバーだという既成事実を作ってしまえば、半年後にリズが合流したとき、楽しい冒険者ライフが確定になる。


 まずは素晴らしい本拠点を作製して、メルの気を引くしかない。そんなことを考えていると、メルが立ち止まった。わざわざ街道を逸れてまでやって来たのは、リズと離れて寂しがる俺に気を遣ってくれたのかもしれない。


 目の前には、色とりどりの花が自生する綺麗な花畑があり、癒される。遠くの方で大きな蜂の魔物が飛んでいるけど、不用意に近づかない限りは大丈夫なんだろう。メルが魔物の討伐に向かうことなく、その場にちょこんっと座ったから。


「……ここで休む」


 体育座りをして、花畑をボーっと見守るメルは……可愛い! 何も言わずに花畑に連れてきてくれるという女の子っぽいサプライズもあり、メルの気を引こうとしてた俺が、逆に心を奪われる結果となってしまった。


 ぬいぐるみをねだってきたり、肉の追加をねだってきたりした子供っぽいメルとは、違う。大人の品格を併せ持つ猫獣人のメルには、是非この昼ごはんを食べてほしい。


 王都を離れるまでの三週間の間に、リズと一緒に取ってきた川魚だ。「ミヤビがお世話になるなら、メルに魚を取ってきてあげよっか。あの子、肉類全般が好きだし」というリズの気遣いにも、泣ける!


「魚の塩焼き、食べるか?」


「……食べる!」


 サッと魚の塩焼きをインベントリから出してあげると、両手でつかんだメルは、熱さに苦戦しながらも、はむはむと食べ始めた。耳がピクピクと跳ねているのは、おいしくて夢中になっている証拠だろう。魔物は無警戒です、と言わんばかりに魚を見つめて食べている。


 やっぱり猫と言ったら、魚なんだよなー。熱くてフーフーする姿も、小さな口で頬張る姿も、すべてが萌える。俺の分の魚も上げたくなるほど、ずっと見ていられるよ。


 まだまだあるから、自分で食べるけど。


 黙々と二人で食事を楽しみ、俺って幸せな人間だよなーと感傷に浸っていると、心の内から何かが燃え広がるような感覚に陥った。リズとメルにも俺と同じような気持ちになってほしい、そんな思いが溢れてくる。


「メルは貴族依頼を受けてるし、金はあるんだよな。どこかに土地を買って住もうと思わないのか?」


「……管理が面倒。依頼から久しぶりに帰ってきたら、草取りするとかあり得ない。宿はごはんも出てくるし、いつもベッドを綺麗にしてくれるから、便利。あと、部屋も程よい大きさで居心地がいい」


 やっぱりメルは、見た目以上に色々考えて行動している。庭の管理まで計算しているし、猫と同じように小さい部屋を好むため、わざわざ宿を選んでいるんだ。商業ギルドが土地と建物をセットで販売している以上、小さな家がなければ住めないし、自分だけでは管理しきれないから。


 それなら、是非ともうちの拠点に来てほしい。本拠点に同居しなくても、庭に小さな家を建ててあげたら、メルは喜んでくれると思う。


 庭の管理は俺がスコップで雑草を一撃で葬り去ることができるし、料理をチャチャッとクラフトして食べさせてあげられる。さらに、大浴場が入れる権利付きだ。リズが戻ってきたら好きなときに遊べるだけでなく、ぬいぐるみ仲間のシフォンさんの実家も近いため、最高の立地とも言えるだろう。


 花畑に連れてきてくれて、俺を癒そうとしてくれたメルには、魅力的な家をプレゼントしようか。半年も世話になるなら、それくらいあっても問題はない。いや、それくらいは用意するのが、クラフターのおもてなしになる。


 ぬいぐるみというオプションを付けて、な。


「メル専用の猫ハウスを作ろうと思っているんだが、敷地内で一緒に暮らすか? 俺がいるときは食事つきだし、大浴場もある。大量のぬいぐるみに囲まれて過ごせる小さめの部屋になる予定だ」


「……住むっ!」


 メル確保ッ!!!! ヨシッ!!!!!!

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