第111話:決着を付けなければならない

 王城に泊まること、五日。王城の裏庭を借りたクラフターたちは、カレンを中心に付与魔術の練習をするようになっていた。


「もっと魔力をゆっくり流すのです。そこはこっちからこういう感じで……」


 生産ギルドで依頼のみの活動をしていると、付与魔術の仕事をしない人が多く、基礎的な魔力操作が拙い人ばかり。付与魔法を教えようにも、経験が足りていないような状態だった。


 クレス王子みたいに魔法学園に通えるクラフターはいないし、難しいことは誰もわからない。そのため、ヴァイスさんの店で修業したカレンが、自分の感覚と魔力の状態を見て、付与魔術を教えることになった。


 どうしてこんなことになったかと言えば、フォルティア王国とクラフターたちの間で契約が結ばれ、三週間の王城待機が命じられたからだ。


 高原都市の建設に着手したくても、王都の近くに都市を作るなど、本来は国の一大イベントになる。それをクラフターが担うとなれば、色んな場所で反発されかねないため、トラブルや混乱を避けようと、各街の領主やギルドを中心に緊急招集をかけているんだ。


 簡単に言えば、みんなで架け橋を見に行って、非常識な世界を体験しようツアーである。その時にクレス王子とカレンが付与魔法を披露することもあって、今後に備えて全員でできるように努力しよう、ということで話はまとまった。


 国家の特殊部隊として結成された『クラフト部隊』が華やかなデビューを飾った後、継続して活動していくためにも。そして、物作りを楽しみたいと思う、各街や他国のクラフターのためにも。


 一応、俺にもクラフト部隊の話は来たけど、丁重にお断りした。冒険者として素材採取に向かい、自由に好きなものを作っていた方が性に合うし、今の生活が気に入っている。国王様にも「だろうな」と言われただけで、特に問題は起きていない。


 みんなが困ったときは助けてあげたいし、意見を聞かれたら答えようとは思ってる。俺のことを、いつまでも隊長だと言ってくれてるから。


 しかし、クラフト部隊を軌道に乗せるには、決着を付けなければならないことがある。これ以上、他の地域で除名による犠牲者を減らすためにも、生産ギルドには圧をかけなければならない。


 そんなこんなで、クレス王子とその護衛騎士と共に生産ギルドへやって来た。クレス王子が受付カウンターへ向かうなか、俺は少し離れて依頼掲示板に向かい、どんな依頼があるのか確認する。


 ・温かい羽毛布団の作製依頼

 ・風属性の付与魔術が施された剣(Cランク以上)の作製依頼

 ・たくさん収納できるスマートなタンス作製依頼


 色んな形で生産ギルドに依頼が届くんだな。他にも、付与魔術の依頼や、魔物の素材を使った武器作製の依頼まで幅広く存在する。


 おそらく、難易度の高い武器製作をする際は、生産ギルドを経由して依頼を出した方が安全なんだろう。失敗したときの保証をしてくれたり、知らない街で作製したりするなら、トラブルが起こりにくくなるから。


 ヴァイスさんみたいな有名人は特殊で、大量に武器製作の依頼が舞い込んでくるだけであって。


 さすがに王都は依頼が多いなーと眺めていると、二階から一人のおじいさんが下りてくる。敵意をむき出しにしてクレス王子に近づいていく、生産ギルドのギオルギ会長だ。


「除名されたクレス第三王子が、生産ギルドに何用かね」


 片付いたと思っていたクラフターの除名騒動を蒸し返されて、機嫌が悪そうに見える。因縁の相手が乗り込んできたなら、警戒するのも無理はないけど。


「慈悲深いギオルギ会長に、クラフターの除名を撤回していただくよう、国王陛下の命を受けてきただけです」


 事前に聞いた話では、仕事を円滑に回すノウハウを生産ギルドが持っているため、復帰させることが一番良いらしい。商業ギルドと契約を結んだとしても、すぐに普通の仕事が回ってくるとは考えにくいから。


 望みは薄いと誰もがわかりきっていても、円満に解決する方法はこれしかない。


「ご苦労なことだな。叶わぬ願いと知りながら、懇願しに来るとは。実に情けないものだ」


「珍しく気が合いましたね。僕も同意見ですよ。九年前から何一つ変わらないギオルギ会長を説得できるとは思えない」


「フハハハハ。威勢だけでノルベール山へ向かったものの、クラフター共だけでは何もできず、正気を保てなくなったか? クズ共が整備したせいで、ノルベール山がそうじゃないかね」


 上から目線で接してくるギオルギ会長は、まだ何も知らない。クラフターたちが大失敗を起こしたせいで、自分の策略がピッタリとハマったと思い込み、勝利を確信している。忌々しい九年前の因縁があるクレス王子が懇願してくるようなら、なおさらのこと。


 現在、王都中で噂になっている『ノルベール山が無音で大崩壊した事件』の真相が、クラフターたちが採取しただけだとも知らずに。


「組織を発展させるのに、役立たずは不要な存在なのだ。今後は、より一層この動きが加速し、生産ギルドが世界の頂点に躍り出る。戦闘や生活を支え続ける生産ギルドが、世界を回さなければならないのだよ」


 ギオルギ会長が言う『役立たず』というのは、クラフターだけに当てはまらない気がする。優秀な人材だけが存在する生産ギルドを目指して、鍛冶師や裁縫師でも、低ランクでくすぶるようなら除名しようと考えているに違いない。その第一歩がクラフターの除名、というだけであって。


 優秀な人材だけを集めて、依頼単価を上げれば、同じ仕事量でも利益が出やすい。そういう方向へ徐々にシフトしていく予定だったんだろう。


 結果的には、生産ギルドの利益が減ることになり、ギオルギ会長自身を追い詰めることになってしまったが。

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