第49話:のぼせるリズ

 翌朝、俺はリズに……怒られていた。それも、とても理不尽な理由で。


「たった一日で、どうしてあんな豪華なお風呂ができてるの! 大自然を独り占めしてるみたいで、二時間も入っちゃったじゃん!」


 のぼせて顔が赤いリズは、気持ちいい風呂を堪能しすぎて、逆に不機嫌になっている。この現象を八つ当たりと言うが、それを突っ込むと逆上させてしまうため、黙っておくことにした。


 しかし、一つだけ弁明させてほしい。俺が朝風呂を勧めた理由は、リズが寝坊したからだ。


 付与魔法を施した肌着と久しぶりのふかふかベッドで、熟睡モードに入ってしまったんだと思う。恐る恐るリズの部屋に入って、何度も肩を叩いたり揺らしたりして、優しく起こしてあげたよ。それなのに、眠い目をこすりながらリズが起きたと思ったら、目が開いてなかったんだ。


 仮拠点生活の初日で早くも実家感覚かよ! と突っ込みたい思いを心の奥底に押さえつけ、風呂好きのリズのことを思って、俺は大浴場に入るように促しただけ。ハッキリ言って、何も悪くない。


 すでに一番風呂はいただいたけど、目を覚ますには最適な環境だったはずだから。


「大浴場、最高だっただろ? 扉を開けて入った瞬間、熱気が霧みたいになっててさ」


「そうなの。温かい空気が身を包むように出迎えてくれて、まるで山の中にいるみたいだったよ! お湯の温度もちょうどよくて、大きな岩がすっごいリアルだった。奥に行くとブクブクと空気が出てくるところがあって、ちょっとくすぐったかったんだよね」


「最初は変な感じがするけど、ジェットバスは慣れると気持ちいいんだよな。風呂場で全身マッサージされてるような感覚があって、クセになるんだ」


「わかるなー。私も最初は抵抗あったけど、なんか気になって、何回もトライしちゃったもん。心なしか肌がツルツルになった気がして……オーーーイッ!」


 どうした、リズ。ノリツッコミが下手になってるぞ。のぼせて顔が赤いから、恥ずかしいのか、怒ってるのか、こっちで判断できないじゃないか。


「ミヤビ、お願いだから、もう少し常識の範囲内で建築してほしいの。毎日が楽しみになる風呂場ができて、本当にありがとうなんだけどね」


 真剣な顔でリズが訴えかけてくるけど、俺だって同じことを思っている。もう少し普通の建築をしようと思って、最初は作り始めたんだよ。


 でも、建築途中に露天風呂計画が思い浮かんだから、仕方ない。悪いことをしてるわけじゃないし、今後はサウナ機能のアップデートも予定している。快適な拠点生活を過ごせると思って、目をつぶってくれ。


 周りにバレて問題になりたくない気持ちは俺にもある。領主邸の前で無茶なことしたら、絶対に悪い意味で目を付けられるからな。


「庭に木を植えておいたし、外からは建物自体が見えないようになってる。大浴場の周りには落とし穴を掘った影響で、覗かれたりバレたりする心配もない。さすがに俺も、領主邸より大きな建物を作らないように配慮してるんだぞ。見た目だけな」


「んーーー……バレないんだったら、別にいっか。ごめんね、きつく言っちゃって。でも、落とし穴の存在は早めに教えてもらいたかったなー」


「ごめん、スッカリ忘れてたわ」


 ハハハと笑って誤魔化せる間柄の俺とリズは、非常に良い関係と言えるだろう。伝え忘れていたとはいえ、落とし穴でケガはしなかったし、今後は快適な露天風呂を楽しめるんだ。


 もはや、最高のパーティ拠点生活が確保されたと言っても、過言ではない。


「価値観が違いすぎてツライ。私、もう貴族の生活でも満足できない気がする」


 リズが心に深刻なダメージを負ったみたいだが、気にしてはいけない。今後はもっと快適な生活に向けて仮拠点のアップデートを行い、本拠点の建築を進めていこうと思う。

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