第33話:ギルドマスターと面談
大量のブラックオークの肉を納品し、完璧に森の調査依頼をやり終えた……ように思えたけど、ギルド職員であるエレノアさんが処理できる領域を越えたらしく、急遽、ギルドマスターと面会する羽目になった。
リズと一緒に別室へ案内されると、エレノアさんは退室。柔らかいソファに座らせてもらっているため、対応は悪くない。貴族や高ランク冒険者用の応接室のように思える、VIP待遇だ。
ギルドマスターが忙しいのか、すでに二十分くらいは待たされているが。
「はぁ、緊張しちゃうな……。早く来てくれないと、心臓が持ちそうにないよ」
Aランク冒険者を目指すリズにとって、ギルドマスターと面識が持てるのは大きい。直接話をするのは初めてみたいで、ずっとソワソワしていた。
「今までエレノアさんが担当してくれてたんだから、悪くは伝わらないと思うぞ」
「それはそれで迷惑かけてないか心配だよ。はぁ~、お腹が痛い」
プレッシャーに耐え切れないリズがお腹をさすり始めると、部屋の扉がノックされて、ガチャッと開いた。条件反射のようにビシッと背筋を伸ばすリズは、さすがだと思う。
アラフォーくらいのオジサンがエレノアさんと一緒に入って来ると、その男だけが向かい合う椅子にドシッと腰を下ろす。
手に持っていた資料を机に置き、腕を組む姿はちょっと怖い。こげ茶の髪が短い影響か、誠実でダンディな印象を受けるものの、威圧感がたっぷりとあった。
リズが緊張していた意味はわかるし、隣で秘書のように佇むエレノアさんも緊張感を持っている。
「俺がギルドマスターのザイオンだ。現役から離れて十年以上経つが、元Aランク冒険者になる。高ランク冒険者を目指すつもりなら、名前くらいは覚えておいてくれ」
忘れようがないと思うほど、声も渋い。異世界にやって来て、手に汗が握るほど緊張するのは初めてだ。
「単刀直入に聞こう。Cランク冒険者、リズ。森の調査、および、報告書の作成について、同業者や外部の人間の援助を受けてはいないか?」
そして、初対面のザイオンさんが威圧的な態度を取るのも、これが事情聴取の意味もあるからだろう。初めてにしては出来すぎな調査依頼に、ギルドの上に立つ人間として、不正がなかったのか確認しなければならない。
「私たちだけで行いました。ブラックオークとの戦闘においても、自分たちの力だけで討伐しています」
「冒険者ギルドが出す依頼の中でも、調査依頼の報告は与える影響が大きい。場合によっては、冒険者ギルドと街に混乱を招きかねない依頼であるため、Cランク冒険者以上に発注しているが、嘘偽りがないと誓えるか?」
「はい、大丈夫です」
「それならいい。日頃の冒険者活動やギルド職員の評価も考慮して、虚偽の報告ではないと判断しよう。討伐証明部位や納品された肉も鮮度が良く、実際に森の中を詳細に調査しなければ、さすがにこのレベルの報告書は作れんだろうからな」
手に取ってペラペラッとめくったのは、俺の書いた報告書だが……予想以上にアッサリと信じてもらえて、拍子抜けである。職員であるエレノアさんも予想外だったのか、オドオドし始めた。
「あ、あの、本当によろしいのですか?」
「不服か? 持ち込まれた資料と、お前の話を元に判断したんだが」
「いえ、私としては申し分ありません。リズちゃんの冒険者態度は真面目ですし、無理のない依頼を選んで活動される堅実な方です。ただ、慎重に考慮されるギルマスにしては判断が早いなー、と思いまして」
そもそも、こんな単純な問いかけで済むなら、ギルドマスターと面会する必要はない。エレノアさんが疑問に思ったほどなら、普段はもっと厳しく取り調べているはずだ。
俺たちの視線が集まっていることもあってか、ザイオンさんはバツが悪そうに頭をポリポリとかいた。さっきまで放っていた威圧感を忘れてしまうほど、表情も緩くなっている。
「若い頃に五年ほどパーティを組んでいた、ライズという男がいてな、馬鹿みたいに真面目な魔法使いで、冒険者なのに冒険しない性格だった。知り合い経由で聞いていたが、娘まで馬鹿みたいに真面目で慎重な性格だと、不正を疑う方が馬鹿みたいだろ」
聞き覚えのない男の名前だけど、リズのキョトンとした顔を見れば、だいたい何の話か想像はつく。どうやらリズの父親も冒険者で、ザイオンさんとパーティを組んでいたんだろう。
「一つの情報として、お前の親父を判断材料に用いたのは事実だが、私情を挟む気はない。若くしてCランク冒険者に昇格したのも、全冒険者の中で依頼成功率がトップだった影響が大きいだけだ」
エレノアさんが用意したであろう資料を見せられると、今までリズがどれほど慎重に依頼をしてきたのか、納得するデータもあった。
受注依頼数:173
依頼成功数:170
依頼成功率:98.2%
Bランク冒険者にはなれないと悩んでいた人物とは思えない、エリート冒険者だったことが発覚した瞬間だった。
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