第29話:ポカポカドリーム地下空間Ⅰ
足元の枯れ葉や草むらに気を付け、ブラックオークの尾行を続けると、周囲はスッカリ暗がりになっていた。
気づかれないように距離を取っている俺たちは、闇夜に溶け込むブラックオークがもう見えていない。風魔法で音を確認してくれるリズを頼りに、尾行するしか方法はなかった。
暗がりで見えにくいのは、俺たちにも有利に働くとはいえ、夜の森はさすがに怖い。不自然な音を立てない限り、命の危険に晒されることはないだろうから、慎重に歩き進めている。
のんびりクラフト作りを楽しみたい俺にとっては、手に持つ戦線離脱用のスコップだけが不安な心を落ち着けてくれていた。これほどスコップが愛しいと思ったのは、生まれて初めての経験になる。
今まで調査した森の構図を思い出し、そろそろ最深部に到達するのではないかと思っていると、木々の隙間から僅かに差し込んでいた月の光がパーッと明るく拡散される場所が見えてきた。
森の木々をなぎ倒して広場が作られた、ブラックオークの集落だ。尾行した仲間をブヒブヒと迎えるブラックオークたちの近くには、大量の骨が転がっているし、目を光らせて警備するモノもいる。数は全部で……十一体かな。
魔物が少ない森とはいっても、かなり深追いをしてしまったから、早めに撤退した方がいいだろう。
無事にブラックオークの棲み処が確認できたことに安堵して、互いに顔を合わせると、リズが地面を指で差した。無駄な言葉を交わすこともなく、俺は細心の注意を払い、穴を掘り始める。
できるだけ音を立てないように、サクッ……サクッ……と。声を出しても気づかれない場所まで一気に掘り進めて行きたいけど、まずは身の安全を確保することが最優先だ。人が入れるくらいの穴を掘った後、リズが穴に下りてきたところを確認して、天井を土ブロックで塞ぐ。
無事に地上から身を隠すことはできたし、余程のことがない限りは気づかれないだろう。囁き声で話す程度なら、何も問題はないと思う。
「真っ暗だけど、ちょっと我慢してくれ。先に土ブロックを偽造して、地面っぽくしてるから」
「わかってる。何も見えないけど、下りてくるときに転ばないでね」
「後で明かりをつけるから、心配するな。普通に話せるくらい深い場所へ行くまで、しばらくはこんな感じで進むぞ」
「は~い」
まだ油断はできないとはいえ、無事に森の地面に隠れられたことは大きい。他にも偵察のブラックオークがいた場合、挟み撃ちになることもあって、ずっと緊迫感が続いていたから。
大きなため息が漏れるリズも、きっと同じ気持ちだったんだろう。早く地下空間を作って、今日はしっかり休もうな。
***
ブラックオークの尾行が終わり、安全な領域まで地面を掘り進めた後、体を休めるための休憩スペースを作ることにした。その結果、久しぶりにゲーム感覚で作業ができると思い、気合いが入りすぎてしまった。
地下十メートルの位置に、高さ二メートル、三十畳ほどの広々とした空間が完成。異世界で初めて作る部屋が緊急避難用の地下空間になったけど、せっかくだから少しくらいはこだわりたい。
フロアの真ん中に立った俺は、天井に木ブロックを設置。薄く魔力を流した後、これを電気代わりにする。
「
ぼわぁ~んと温かい光が木ブロックから生まれて、暗い地下空間を照らし始める。自然の温かみのある色合いで、蛍光灯よりも間接照明に近いかもしれない。
光魔法を付与した『光源ブロック』が誕生したのである。
「地下に下りる階段でも使ってたよね。ランタンでも用意してあるのかと思ってたけど、そういう使い方をするとは思わなかったよ」
この世界では、夜になるとランタンや松明で明かりを灯す文化になる。ブロックが光る間接照明っぽい雰囲気は、画期的な印象を付けると思うんだが……、リズの驚きは小さかった。
少し前まで穴を掘っただけで大騒ぎをしてたのに、リズも変わっちまったよな。薪に火を付けるときに付与魔法を使ってたくらいで、ほとんど見せてこなかったのにさ。ちょっと寂しいぞ。
「随分と順応してきたよな、リズは。木ブロックが光るなんて、けっこう衝撃的だと思うぞ。よく見ろよ、木目で光り方が変わるし、趣のある雰囲気が出るんだぜ」
「光るブロックは初めて見るけど、驚くほどの要素じゃないんだよね。今でも特大容量のインベントリの方が驚くよ。それより、ひざ掛けをもらってもいい? 地下がこんなに寒いとは思ってなかったの。風が当たらないから問題ないと思ってたのに」
夢中で掘っていて気づかなかったが、身を縮こませるリズは体が震えていた。両手を口元に持っていき、ハァ~と白い息をかけて温めている姿を見れば、地下がかなり冷え込んでいるとわかる。
「気づかれないようにするために、深く掘りすぎたかもしれないな。地下まで太陽光は届かないし、地面に熱源があるわけでもない。早めに寒さ対策しないと、空気が冷え込んで眠れなくなりそうだ」
「ブラックオークに気づかれるよりは、寒い方がマシなんだけどね。さすがにここで焚火は……ダメ、だよね」
「天井は塞がないと気づかれる可能性が高いし、密閉した地下空間で焚き火は厳しいな」
煙を吸い続けて一酸化炭素中毒になれば、ブラックオークどころの騒ぎじゃなくなる。そんな単語は知らないと思うけど、危険がある行為だという認識はあるんだろう。
とはいえ、真冬の夜に外で一晩過ごすようなものだし、俺でも風邪を引きそうなレベルだ。早くも実践することになるとは思わなかったが、例の付与魔法を使うとするか。
地面、壁、天井のすべてを暖房へと変える、全方向温熱ブロック搭載のポカポカドリームハウス計画……ならぬ、ポカポカドリーム地下空間へとするために。
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