278.宮廷晩餐会

「この青い瓶が耐性薬。効果は飲んでから6時間続くのでいまから飲んでいただいても大丈夫です。こちらの腕輪には状態異常の無効化薬を組み込んであります。自分で飲めない可能性を考慮して注射型にしました。青い宝石を押し込めば内部で針が飛び出して薬が注入されます」


 俺は作成した薬と魔導具の説明を行う。

 腕輪はサイズの自動調整くらいしか魔導具らしい機能はないけどな。


「ふむ、自分で飲まなくてもいいのは助かる」


「そうですな。いざというときは薬を飲む余裕などないというもの。フート殿、国に帰ったあとこれを研究させてもらってもよろしいか?」


「構いませんよ、軍務卿。簡単な設計図も作ってきましょう」


「助かる。これを使う事態にならないのが一番なのですが」


「なんだがな。そもそも、この晩餐会だってキャンセルしたいところだぜ」


「そう簡単にキャンセル出来ないのがつらいところですな」


「仕方がありませんわ。諦めて早めに切り上げて戻りましょう」


「そうだな。娘に諭されるとは情けねぇ」


「仕方がありませぬよ。さあ、参りましょう」


「おう。『白夜の一角狼』、娘の護衛よろしく頼むぜ」


「全力で当たらせていただきます」


「それじゃ、敵陣に乗り込むぞ!」


 大量の護衛を伴い、晩餐会の会場へと向かう。

 途中途中でこの国の貴族らしき人間たちとすれ違うが、俺や妻たちを見るたびに嫌らしい笑みを浮かべる。

 どうやらこの国のヒト族至上主義というのは相当根深いようだ。


「な……ここから先は貴賓客専用フロアになります。護衛も当国で用意しておりますので、お引き取り……」


「お前たちの国の護衛など信用できるか。すべて我が国の黒旗隊と近衛兵に置き換えさせてもらう」


「しかし……」


「邪魔をするならば帰らせていただくが?」


「わ、わかりました。失礼いたします」


 ヴィンス公国の兵士たちを追い払い、フロア全域を掌握する。

 その上で貴賓室に入ろうとするが、この匂い……。


「国王陛下、この部屋の中から毒の匂いがします」


「……ほう? どのような毒かわかるか?」


「調べないとわかりませんが致死系の毒ではないと思います。さすがに殺してくるとは思いませんから」


「であろうな。調べてくれ」


「はい。リオン」


「はいですにゃ。てい」


 樹龍王の剣をドアに突き刺し中の様子を調べてもらう。

 そうすると、内部に充満している毒は意識を混濁させるタイプの毒だということが判明した。

 ついでなのでリオンにはそのまま毒物の除去も行ってもらう。


「もう大丈夫か」


「はい。……の前に、壁の中から監視されてますね。そいつらを排除しても?」


「構わん。やれ」


「では。マキナ・ハンズ」


 壁の向こうにいる相手をマキナ・ハンズでしっかりつかみ取り気絶させる。

 ついでなので、隠し通路そのものも封鎖させてもらった。


「安全が確保できました。中にどうぞ」


「うむ」


 軍務卿と外務卿が入り、国王陛下と王女殿下が続く。

 最後に俺たちが中に入ってドアを閉めた。


「いや、最初からいきなり仕込みすぎだろう。このクソ国家」


「これを理由に晩餐会を欠席しては?」


「それはできぬ相談なのだよ、フート殿。証拠がない以上、逃げ出したと思われてしまう」


「もうそれでもいいんじゃねぇかとも思うけどよ」


「ですな。防衛の観点から行けばさっさと『鳴神』へ戻っていただきたい所存です」


「そうも行かないのが外交なんだよなぁ……面倒だからフローリカだけでも戻すか?」


「お父様、私は大丈夫ですわよ?」


「そうも行かねぇよ。外務卿、どう思う?」


「そうですな。ここまで来る間に顔見せは済ませてあります。『控え室の空気が悪かったので体調を崩したため大事をとって休ませた』とすれば問題ないかと」


「よし、それで行こう。護衛はこのまま『白夜の一角狼』に……」


「お待ちください。確かにフート殿たちはお強いのですが、この国では亜人差別が強すぎます。余計な軋轢を生む可能性があるかと」


「ちっ、めんどくせぇ」


「同感ですな。では黒旗隊から4名ほどピックアップして警護に当たらせます」


「頼む。『白夜の一角狼』はなにかあったときのためにここで待機だな」


「わかりました」


 少しして黒旗隊の面々が到着、王女殿下の警護を引き継ぎ見送る。

 それからしばらく経った頃、1階で激しい爆発音が鳴り響いた。


「なんだ!?」


「至急、状況確認を行え!」


「嫌な予感がする。『白夜の一角狼』、お前たちも状況確認に出ろ!」


「はい!」


「それから、これも持ってけ!」


 国王陛下から渡されたのは、遠話用の魔導具。

 これで連絡を取り合えということだろう。

 ひとつうなずくと、俺たちはすぐに現場に急行する。


 到着した現場は、なにか強力な爆発魔法が炸裂したあとのようだった。

 周囲には被害を受けたとみられる貴族が転がっていたが、まあどうでもいい。

 けが人の中に黒旗隊の姿を見つけたので慌てて駆け寄り回復魔法をかける。

 すると、回復した黒旗隊の口から驚くべき内容が語られてきた。


「……フート殿、申し訳ありません。フローリカ殿下をさらわれてしまいました」

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