276.ヴィンス公国対策会議?

 エイナル王陛下がお戻りになったことで会議室に主だった面々が集められた。

 議題は明日以降の会議についてとフローリカ第一王女殿下の身の振り方だ。

 ちなみに今日もフローリカ殿下は俺の隣に座っていらっしゃる。


「皆に配って資料だが、それは全部破棄してもらってほしい。あれは役に立たぬ」


 外務卿のなかなかショッキングな言葉から始まったこの会議。

 やはり多少の混乱はあったが、上位の文官ほど慣れているのか慌てずに対応を決めている。


「……それでは国王陛下はこの国との縁を切るとお考えで?」


「うむ。我の話を聞こうとする意思が彼の王にはまったくなかった。その上で、マルティン王やカルロス王に対する無礼な振る舞いも度し難い。更に付け加えるならば、この国は教会勢力……法神国と癒着しているようだ。このような国と関わっていてもろくなことはない」


「ですな。先王はまったくもって偉大なお方でしたのに……」


「まったくだ。それが急にお隠れになり、王位に就いたのがアレではなぁ」


「影に調べさせたが先王を毒殺した可能性もあるそうだぞ?」


 国王陛下のインパクトのある発言で会議室は一瞬静まりかえる。


「陛下、それを確認したのですか?」


「すまぬが、完全には確認できなかった。が、状況もマルティン王のときとそっくりだ。可能性は高い」


「まったく、余計な事を……」


「統治の問題がなければ、このような国は滅ぼすべきなのに」


「議題がそれていってしまっているな。話を戻すぞ」


「失礼いたしました。外務卿」


「よい。私もいちいちこのような国と折衝などしたくないのが本音だ」


 そこから先は明日以降の会談予定……というよりも明日の会談が破綻したときの打ち合わせになっていた。

 具体的には国交の断絶をちらつかせ、大使を召還し大使館を閉鎖する。

 それがどこまで効果があるか疑問だと言っていたが、それでも駐在大使とその家族の安全を確保するためなら仕方ないというのが大半の意見だ。

 なお、大使のは今日の深夜から決行され、近衛騎士団と黒旗隊が連携して行うらしい。

 これはルアルディ王国の大使たちの救出も同時に行うように要請が届いているらしく、そちらも対応するんだとか。


「さて、これで我らが切るカードについての話は終了だ。次はフローリカの話だ」


 フローリカの話、と聞いたところで隣に座っていたフローリカ殿下の手がテーブルの下でせわしなく動き回り始める。

 なので、彼女の手をそっとつかんで差し上げると、落ち着いたようで俺の手を軽く握り返してきた。


「あやつらは我が娘フローラをすでに身請けするつもりのようだぞ?」


 この言葉を聞いた途端、会議室全体から怒気が巻き起こる。

 愛されてますね、フローリカ殿下。


「まあ、そんな寝言は一蹴してきたがの。都合のよいやつらの耳じゃ、聞こえてはおらんじゃろうよ」


「まったくもって嘆かわしい。我々は教会勢力と敵対していると言うのに、その教会勢力とどっぷり蜜月関係にある国に姫を出すわけなどあろうはずもない!」


「落ち着け、軍務卿。やつらの狙いは……頭が切れるのであれば教会勢力と我らの仲介をして双方から謝礼金をもらうことだろう。頭が切れる知恵者がいるのであれば、だが」


「そのような知恵者が沈み行く泥船に乗っていると思うか?」


「あくまで可能性の話だ。……あり得ない話をしているのは私にもわかる」


「我が娘の話はこのあとゆっくり行うとしよう。いまは全体の意見のみまとめるとする。フローリカをこの国に任せることに反対か?」


「当然です!」


「失礼ながら、この国に渡す理由など!」


「フローリカ殿下のお気持ちを考えれば嫁ぎ先などひとつしかありません!」


「このような国にフローリカ殿下は相応しくない!」


 反対意見の山はその後も続く。

 俺もこんな国にフローリカ殿下を任せたくはないなぁ。


「お前たちの気持ちはよくわかった。我も同じ気持ちである。そもそもこの国には『場合によってはフローリカを嫁がせる可能性もある』としか伝えていない。誰に嫁がせるのか、そもそも確実に嫁がせるのかは決めていなかったのだ。それを勝手に王家の息子とだなどと……真許しがたい」


「では……?」


「フローリカのヴィンス公国に対する婚約はない。それだけは確実だ」


「「「おお……」」」


 文官や武官たちから上がる安堵の声。

 フローリカ殿下は愛されているね。


「ひとまずこれでこの場は解散とする。軍務卿、外務卿、『白夜の一角狼』、フローリカは残れ」


「はっ!」


 俺たち以外の全員が退出したのを見計らい、国王陛下が姿勢を崩す。


「ったく、やってらんねぇ。なんだってこの国と真面目に折衝しなくちゃ行けねぇんだ?」


「それが我々の勤めですので」


「ちっ、めんどくせぇ。……問題は明日の夜に行われることになっている宮廷晩餐会だな」


「その前に国交を断ち切ればよろしいのでは?」


「さすがにそれは難しいぞ。というわけで『白夜の一角狼』に聞きたいが、全状態異常耐性の持続性薬って作れねぇか? 効果時間は3時間程度でいい」


「作れますよ? 持ってる素材的に6時間のものが」


「……フート、お前、最近何でもできるよな?」


「錬金術を覚えたらいろいろ楽しくなってしまいまして。ただ、注意ですが作れるのはあくまで『耐性薬』です。『無効化』ではありません」


「無効化薬は無理か?」


「即効性のものなら用意できますが、持続性のものは無理です。使われる毒物などがわかっているなら、また話が変わりますが」


「さすがにそこまではわからねぇな。よし、持続性の耐性薬を人数分と即効性の無効化薬を人数分の倍用意してくれ」


「わかりました。……ちなみに、人数の中には俺たちも含まれていますよね?」


「不愉快な思いをさせちまうが、フローリカの警護に就いてもらいたい。この国では人間種以外はすべて差別の対象なのはわかっているんだが……」


「構いませんよ。なあ、みんな?」


「可愛い妹分のためだものね」


「ふふふ、私も頑張ります」


「吾輩も精一杯務めさせていただくにゃ」


「すまねぇ。恩に着るぜ」


 明日の俺たちは黒旗隊の礼服で参加することとなった。

 さすがに冒険者服で参加はできないらしい。

 俺たちのアイテムボックスには大量の回復アイテムが眠っているが、それらが使われることがないことを祈ろう。

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