272.次の国への対策会議
俺たちが解放してきた人質たちが獣神国の飛行艇で運ばれていく。
彼ら彼女らは無事に本国に送り届けられるだろうとのことだ。
その翌日、エイナル国王を始めとする那由他の重鎮とガイウス王を始めとする獣神国の重鎮が一堂に会していた。
議題は同盟国入りを承認してもらうため、一度ルアルディ王国に立ち寄り次の訪問国へ向かうかどうかということだった。
「……あの、どうしてこのようなことで悩まれているのでしょうか?」
会議への参加を打診され、実際に参加している『白夜の一角狼』。
そのひとりであるミキがおずおずと手を挙げて発言する。
確かに、この場で悩んでいるよりもさっさと実行した方が早いよな?
「うむ……いまの位置はルアルディに近い。我らの飛行艇ならば2日ちょっとで戻れる。ならばそちらを優先すべき、効率ではそうなるのだがな……」
「問題は那由他が次に行こうとしている『ヴィンス公国』のヴィカンデル公王なんだよ」
「いかにも。あの男、国を治めるには非常に問題のある男でな。狭量で自分勝手、すべてを自分の都合のいいように考えそのとおりになると考えているような男だ」
「うわぁ……」
「その背中を見て育ってきたのか、その子供たちもやりたい放題だと聞く。それなりに肥沃な大地に恵まれているが、各地の貴族が重税を課しているが故に民に活力がないともな」
「……国王陛下、そのような国と付き合いを持つ必要はあるのかにゃ?」
「先代の公王は人格者だったのだよ。それ故にいままで同盟が続いてきたという経緯がある」
「逆を言ってしまえばそれだけでしかない、ともいえますな」
「相当ひどい国のようだな」
「ああ。そして、できることなら『白夜の一角狼』たちには『鳴神』から降りてきてほしくないともいえる」
「……警護はどうするんですか?」
「そこが困るのだがな……あの国だ、なにをしでかすかわからん」
はて、どういう意味だろう?
「彼の国は徹底した人間至上主義国家なのだよ。それ故に獣人やエルフのような種族は最底辺の奴隷種族だと決めつけてかかってくる。それが例え外国の要人であろうとな」
「よく保ってますね、その国」
「那由他以外とは同じ価値観を持った国々としか国交を持っていないらしいからな。民から重税で巻き上げた食料と国内の鉱山で採れた各種鉱石を加工した鉄製品やアクセサリー、宝石類を販売しているそうだ」
「魔物やモンスターの討伐は?」
「国としては一切手を出していない。いわく『そのような行為は下々のものたちが行う行為』だそうだ」
「うへぇ……」
「あの国にはハンターギルドの支部はない。冒険者ギルドもあの国で独立した組織として成り立っているものだ。ほかの国の冒険者ギルドとは違い、国際的な発言力は皆無であるし、そもそも国際的な集まりには呼ばれない」
うーん、話を聞くだけだと『最低な国』としか言いようがないんだが。
そんな国に行って売り込みをかける意味があるんだろうか?
「おいおい、エイナル王。黙って聞いてたが、そんな国にあの画期的な施設を売り渡すわけじゃないだろうな?」
「はっきりと言ってしまえばそこも含めて検討中だ。あの国も裏では教会との癒着がひどいと聞いているからな」
「すっぱりと切り離しちまおうぜ? そうすれば俺らが攻め落としてやるからよ」
「……いや、攻め落として誰が統治する? そこまで考えねば戦争というものはできぬのだよ、本来はな」
「あー、統治か……あの国の国民は洗脳レベルで他国民を嫌いやがるし、更にそれに輪をかけて人間以外のヒト種族を見下すからな。手のつけられない連中だ」
「それでいて『自分たちは悪くない、悪いのは相手だ』という被害妄想を常に抱いておりますからな。本当にたちの悪い」
「話を戻すぞ。今回の同盟話、ルアルディ王国に戻り承認を得てから先に進むか、それともこのまま進むかどちらがよいと思う?」
「すでに彼の国との入国予定日は過ぎておりますからな。いまから急いで行ったとしても、それを理由になにか譲歩を迫ってくるのは目に見えておりますぞ」
「そのとおりだな。やつらめ、外交をなんだと思っているのか」
「エイナル王、俺としてはルアルディ王国に承認をもらってから行く方をお勧めするぜ? そうすれば少なくとも軍事同盟は那由他、ルアルディ王国、獣神国で結ばれた証拠があるんだからよ」
「ふむ……『白夜の一角狼』はどう思う?」
俺たちに振られてもな……政治は専門外だぞ?
まあ、意見を述べるだけだし言うだけ言うか。
「俺としても、ルアルディ王国に一度立ち寄ってから次の国に向かうほうがいいと思います。相手が高圧的な態度に出るなら、すでに同盟が締結されていた方が話はしやすいかと」
「私もフートさんと同じ意見です。そもそも話を聞かない相手には実績で黙らせるしかないと思います」
「私も同意見ね。これでブチ切れて力尽くに出てくれればよしなんだけど」
「アヤネ殿は過激ですにゃ。ですが、吾輩もフート殿たちの意見に賛成ですにゃ」
「うむ、あいわかった。ほかに反対意見のあるものは?」
エイナル王陛下が確認を取るが誰ひとりとして反対意見を言おうとはしない。
どうやら、那由他側も意見は一致していたようだな。
「よし。それでは一度ルアルディ王国に戻り、各種同盟締結を行ってからヴィンス公国に向かうとする。総員準備を」
「「「はっ」」」
「それで、エイナル王。俺たち獣神国はどうすればいい?」
「このまま『鳴神』のあとを追従して『ケルベロス』を飛ばせてもらうとありがたい。……本来であれば横を飛んでもらいたいのだが」
「いいっていいって。政治的パフォーマンスは必要だからな」
「すまぬな。『白夜の一角狼』は引き続きフローリカの護衛を頼む。今回はフローリカを降ろさないので、飛行艇の中で数日過ごしてもらうこととなるが……」
「俺たちは一向に構いません。フローリカ王女殿下もミーシャ姫がきてから更に元気になりましたので」
「それは嬉しいな。カルロス王、助かるぞ」
「いいっていいって。アイツが役に立っているならな」
「ではこの場は解散じゃな。カルロス王を始め獣神国の皆様、よろしくお願い申す」
「気にすんなって。それじゃ、俺たちはこれで戻らせてもらう。婿殿、ミーシャをよろしくな」
「ええ。最近は淑女教育でへばり気味ですが」
「なるほど。そいつは俺らの国ではなかった概念だ!」
豪快に笑っているガイウス王を始めとする獣神国のお歴々だが……本人は結構大変なんですよ?
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