270.『電撃』プロポーズの結果

「えーと……カルロス王?」


「すまんな、フート。ミーシャはこうと決めたら頑固なんだ」


「いや、そうではなく」


 一国の王女が簡単に平民、それもハンターに輿入れしても大丈夫なんだろうか?

 そんな不安が顔に出ていたのか、ミーシャはたたみかけるように話を続ける。


「私、こう見えてもレベル80あります! 今回はほかのみんなが人質に取れられてなにもできませんでしたが、同じようなことがあれば今度こそ撃退してみせます!」


「いや、俺が言いたいのはそういうことじゃない」


「えっと、それはどういうことでしょう?」


「俺はハンターだぞ? モンスターを狩るのが役目だ。 稼ぎはいいがその分死ぬ危険性も高い職業なんだよ」


「一向に気にしません! 強い方が強い魔物と戦うのは宿命であり果たすべき務め、そしてなによりの誉れです!」


「ええと……それから、俺にはもう妻がふたりいるんだが」


「な……それは早く教えてください!」


「そっちは大事なんだな」


「当然です。序列は大事ですからね!」


「序列ねぇ」


 よくわからないが……ミキにぶん投げよう。

 彼女ならうまくやってくれる……はず。


「ミーシャさんでしたか。あなたがフートのお嫁さんになりたい理由はなんですか?」


「ええと、あなたがフート様のお嫁様で最上位の方ですか?」


「最上位、というわけではありませんが最初の妻ですね」


「……わかりました。あなたに従います。それで妻になりたい理由ですが、一言で言ってしまえばフィーリングです!」


「フィーリング……」


「はい! 助けていただいたとき、ああ、私はこの方に嫁ぐんだな、と感じました! だからプロポーズしたんです!」


「……ミキ、大丈夫なのこの子」


「私でも測りかねますね。悪い子ではないのですが……」


「……やはり認めてもらえませんか?」


「私たちの夫を認めてくれていることは素直に嬉しいです。ですが、それとプロポーズすることとは話が変わります」


「そうですか? 私たちの国では強い男は何人でも妻を持つものですが。……ああでも、父上は母様一筋ですが」


「国が変われば事情も変わります。那由他でも重婚は認められていますが、だからといって無差別にと言うわけにもまいりません」


「そうですよね。では、どうしたら認めてもらえますか?」


「うわ、この子めちゃくちゃポジティブ」


「そうですね。エイナル王様、旅の間この子を同行させていただいても問題ないでしょうか?」


「うん? ひとり同行者が増える程度問題ないぞ?」


「だそうです。今回の旅……あまり日数は残っていませんがその間でフートさんに相応しいかどうか判断するとします。相応しくない場合は獣神国にお帰りいただきますのでそのつもりで」


「わかりました! ……でも、妻に相応しいってどういうことをすれば?」


「そこも含めてあなたが考えなさい。私たちが口を挟むことはありません。フートさん、フートさんも口出ししないでくださいね?」


「了解だ。そういうわけですが、カルロス王、問題はありますか?」


「まったくねぇな。獣人族の習わし的にも相応しい。第一位の妻から認められなければプロポーズすら許されないのが獣人族の掟。知らなかったとはいえそれを破っているんだから、ミーシャに全面的な非がある」


「意外と厳しいんですね、獣人族の恋愛事情って」


「種族にもよるがな。虎と獅子は序列と新参者に厳しい。夫のためになるかどうかできっちり線を引くぞ」


「……俺たち赤の明星なんだけどなぁ」


「赤の明星とはいえ種族の習わしには勝てんと言うわけだ。発情期もあっただろう」


「それは……まあ」


「つまりはそういうことだ。さて、娘のプロポーズも終わったことだ。エイナル王、今後の予定について詰めたい。どこで話し合えばいい?」


「そうだな……密室の方がいいか?」


「そこまででもないな。ここで決めちまうか」


「その方がいいだろう。赤の明星たちも揃っているしな」


「ああ、そういやそうだな。今後の予定だが、いま獣神国の飛行艇、2番艦と3番艦を呼び出している。2日後にはここに着く予定だ」


「そいつに各国の捕虜だった連中を乗せるのか?」


「おう。2番艦は北回り、3番艦は南回りで捕虜を返還していく。そのときに那由他が出した条件についても話し合わせる」


「そんなにうまくいくんですかね?」


 さすがの俺も楽観的過ぎる気がしてならない。

 いきなり法神国を裏切れと言っているだからな。


「少なくとも、俺んとことつながりのある二国は問題ない。残り二国は……微妙だ」


「交渉がうまくいかなくても捕虜は返還してあげてくださいよ?」


「わかってる。甘いと思うがここで捕虜を持ったままだと俺たちも法神国と変わりないからな」


「ならよかった。エイナル王様、明日は一日フリーですよね? その間に宮廷魔術師長と一緒に材料だけ持ってきていた後天性魔法覚醒施設を組み立てたいのですが」


「わかった、許可を出そう。ただし、誰にも見られないようにな」


「見られても大丈夫ですけどね。なんだかんだ言っても、かなり高度な魔力操作が……ミリアならできるか」


「お前の弟子も含め、明日は隔離だな」


「ですね。王女殿下と一緒に勉強させていてください」


「それがいいか。そうさせてもらおう」


 とりあえずの予定は決まった。

 カルロス王を始めとした獣神国の面々は『ケルベロス』に。

 エイナル王を始めとした那由他の面々は『鳴神』に。

 それぞれ引き上げて行く。

 ミーシャだけが『鳴神』に来たが、国王の許可は取っているし問題ないんだろう。

 俺の妻たちが監視しているみたいだしな。

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