269.『電撃』会議と『電撃』……

 そこから先も、獣神国と同じようにやって終わりだ。

 最初にマキナ・ハンズで全員を気絶させて、あとは人質を全員救出する。


「次の国からは、那由他だけじゃ本当に助けが来たのか信用してもらえるか怪しいぜ。俺んとこの王子や近衛隊長も連れていきな」


 という、カルロス王の厚意に甘えて何人かの人間をお借りする。

 効果はてきめんで、俺たちだけだと怯えてなかなか出てきてくれなかった人質たちもすぐに指示に従ってくれた。


 そんな『作業を』五カ国分繰り返し俺たちは元の平原へと帰ってくる。

 そこで、大陸側の王侯貴族に詳しい獣神国の外務大臣たちに誰が捕まっていたのか確認してもらっていた。

 渡された名簿には、王子だの皇女だのと言った文字がずらっと並んでいて嫌気がさしたが……。


「お疲れ様ですよ~」


「イツキか……相変わらず神出鬼没だな」


「草木があればどこにでも出られますからね~。とりあえずこの門はもういらないですね。えい」


 イツキが軽く振るったツタの鞭によってフェアリーゲートは粉々に打ち砕かれる。

 これで相手が追いかけてくることもないわけだ。

 感電状態は数時間続くから、追っ手がかかるのはそのあとなんだけど。


「それでは依頼達成お疲れ様でした~。報酬は先払いしていたもので足りますか?」


「十分過ぎるな。まだまだもらい過ぎなくらいだ」


「ではまた似たようなことがあればお願いしますね~。ではでは~」


 言いたいことだけ言い終わると周囲に溶け込むようにイツキの姿が消えていく。

 気配も完全になくなるあたり、分体の存在を消したのかな。


「それにしても今回は疲れましたにゃあ」


「リオンもそう思うか?」


「悪いけど私もネコの意見に賛成よ。精神的にしんどかったわ」


「逃げられないように手足を切り落とされたりしていなかっただけマシでしたが……見せしめとして従者やメイドが殺されているんですよね?」


「被害者の話を聞く限りだとそうらしいな。まったく、本当にろくなことをしない」


「このまま乗り込んでいって滅ぼしますかにゃ?」


「それは可能だろうが……あまりよろしくないだろうよ」


「ですにゃ。いくら法神国相手でも赤の明星を侵略のために使ったとなれば、周囲の国々から那由他の心証は一気に悪化しますにゃ。それを飲み込んでまでいま滅ぼすべきかは……微妙ですにゃ」


「つまり滅ぼすべき、って選択肢もあるんですね。リオンさん」


「ありますにゃ。フート殿たちが戦ったというモンスター化の技術、あれは危険すぎますにゃ。あれを消すために赤の明星が乗り込んだ、そういうシナリオも書けますのにゃが」


「それをしてしまうと、モンスター化が出来ることを不用意にすべての国々に知られてしまうか」


「はいですにゃ。いまそのあたりの話し合いをエイナル王とカルロス王で協議してくれていますにゃ。まあ、様子見一択ですがにゃ」


「王様って言うのも大変ね。会議をしましたって事実を残さなきゃいけないんだから」


「そう言うものにゃ。……噂をすればなんとやら、両国王陛下たちが降りてこられましたにゃ」


 会談を行っていた『鳴神』から那由他国エイナル王と獣神国カルロス王が揃って降りてくる。

 話はまとまったのだろうか?


 ……そう思っていたら、アレックスさんがやってきて俺たちにも会議に出席するよう求められた。

 表向きは今回の救出作戦の功労者として、本当の目的は今後の計画を詰めるために参加してほしいとのこと。

 断るわけにも行かないので、早速4人で移動する。

 臨時の打ち合わせ場所になっているテントの中には那由他国、獣神国の重要人物が勢揃いしていた。


「おう、来たか。すまんがあっちの席に着いてくれ」


「わかりました。っていうか、国王陛下、口調は?」


「獣神国側がこっちの方がやりやすいってんでな。公式な場以外ではこっちでやるよ」


「わかりました。では失礼します」


 そのとき気がついたのだが先ほど助けたミーシャ姫がこちらのことをじーっと見つめていた。

 俺になにかあるのかと視線を向けてみたが、その様子は変わらすに穴が開きそうな勢いで見つめてくる。

 いま話しかけるのもなんだし、しばらくはそっとしておこう。


「まずは最初の議題だ。獣神国だが那由他と正式に国交を樹立、不可侵条約と軍事同盟、通商条約を交わすことになった」


「詳しい話はまた後日つめる事になる。だが俺たちの腹は決まっている。那由他とは今後仲良くしていくぜ」


「元々仲が悪いわけではありませんでしたからな。しかし、よろしいのですか? 我々と手を組むと言うことは……」


「教会連中は出て行ってもらう。俺の大事な娘や部族長の子供たちに手を出したんだ、その報いは受けてもらわねぇとなぁ」


「そこんところは穏便に頼むぜ。那由他には求道者もいるからな」


「教会から抜けて民の治療を行う回復神官どもか。そいつらが教会のスパイじゃねぇとは限らんだろう?」


「そうだな。だから我が国ではいくつかの制限をさせてもらっている。……それでも気にせずに民を癒やしてくれるんだからありがてえ」


「そうか。俺の国にも元は獣神国出身の神官がいる。そいつらがこちらに残りたいと言いだしたら身の振り方を考えてやらねぇとな」


「その方がいいぞ。次、捕虜になっていた他国の子女についてだが、これは獣神国に任せて大丈夫なんだな?」


「おう。コスタとリヴァは正式な国交があるからすぐ受け入れられる。残りの二国もコスタとリヴァ経由でなら問題ないだろう」


「わかった。それじゃあ、カルロス王はそちらに……」


「おいおい、そんなつまらねぇことは部下に任せるぜ? つーか、俺が口を出すと余計なトラブルになる」


 エイナル王……那由他国王は獣神国の高官たちを見るが、彼らも首を振るばかりである。

 カルロス王の言い分が正しいんだろうな。


「わかった。捕虜の返還だが、なにか条件付きで返還するのか?」


「フート殿たちの奮戦あっての救出だ。相応の代価は支払ってもらう」


 カルロス王のその言葉に俺は慌てて待ったをかける。


「ちょっ!? 俺はそんなことは望んでいない!」


「わーってるよ。だからフート殿たちの望みは那由他との国交樹立、不可侵条約、軍事同盟、通商条約の締結であると伝えることだ」


「……なるほど、法神国相手の離間工作ですか」


「おう。やつらも大事な家族を人質に取られて鬱憤を溜めているはずだ。そこに救いの手を差し伸べればまた変わってくるだろう?」


「だが、もう一手ほしいな……おい、後天性魔法覚醒施設は渡せないのか?」


「組み立てる時間さえいただければ」


「……材料は持ってきてやがったのか」


「フ-ト殿のアイテムボックに収納してもらっております。最大300個作成可能です」


「……よし。カルロス王、もし那由他側につけば回復魔法を含めた各種魔法を覚えられる設備を提供する準備があると伝えてくれ。効果を試すためにいくつかサンプルを貸し出す」


「本当か? と言うか後天性魔法覚醒施設ってなんだ?」


「ああ、まだカルロス王たちにはお披露目していなかったな。あとで説明しよう」


「頼んだ。回復魔法を自前で使えるようになるなら、あの生臭坊主どもは本当に無用の存在だからな!」


「だよな。さて、国際的な議題はこんなところか。問題は獣神国側の議題だが」


「なにかあるんですか」


「フート殿、我ら獣神国はフート殿の配下に入らせていただきたく思います」


「へ?」


 思わず変な声が漏れてしまった。

 国が俺の配下に入る?

 なにを言っているんだ?


「これは俺個人の考えじゃない、この場にいるものの総意だ。正式には部族長の承認も必要になるが、人質を助けた実績を考えれば頷くだろう」


「いや、その理論はおかしいだろう?」


「獣神国では力こそすべて。無論、むやみやたらと暴力を振りかざすものは処罰される。だが、己を律し必要なときに力を振るうものはなにより尊ばれる。フート殿はそれの体現者だ」


「俺はそこまでできた人間じゃないぞ?」


「まあ、俺たちの意思は変わらん。那由他を襲う災いアグニとの戦いにも力を貸す。ただそれだけだ」


「それくらいなら……国の動かし方とかは本当にわからないですからね?」


「無論だ。……あとそれから、俺の娘ミーシャなんだが……」


「ミーシャ? さっきから俺の事を見続けている少女か?」


「ああ、単刀直入に言おう。ミーシャは……」


「待ってください、父さん! 私が自分で言います!」


「お、おう」


 ミーシャという少女は鼻息荒く俺の前に近づいてきて跪く。

 そして思いもかけないセリフが飛びだしてくる。


「私ミーシャはフート様の妻になります! どうぞよろしくお願いいたします!」

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