268.『電撃』救出作戦

『獣神国』と書かれたフェアリーゲートをくぐると、森の草原の中に出る。

 あたりの様子を伺えば、もうじき護送車を含むとみられる一団が通る様子だ。


「どうやらあれがターゲットだな」


「法神国の旗も掲げてますし間違いなさそうですね」


「どうするの不意打ち? 正々堂々名乗りを上げる?」


「不意打ちで結構ですにゃ。名乗りを上げるほどの相手ではありませんにゃ」


「だとさ。じゃあちょっくらマキナ・ハンズをかましに行ってくる。みんなは……」


「人質の救出ね」


「人質も感電させるんですか?」


「いや、今回はさせない。警戒されても困るしね」


「怪しい集団であることは変わりませんがにゃ」


「言うなって。さて作戦開始だ」


 俺は飛び上がると一団の中央部付近上空に止まる。

 そこでマキナ・ハンズの詠唱を終えて一気に大地めがけて突撃。

 兵士たちが驚いた様子を見せるが、そんなことはお構いなしにマキナ・ハンズを発動させる。

 俺を起点として青白い電流が迸り雷撃の腕が現れ、すべての兵士や騎士、馬などを絡め取り気絶させた。

 みんなは……すでに馬車を破壊するなりなんなりして救出活動を始めているな。


「さて、俺も救出活動を始めるか」


 俺は一番近くにあった馬車を開けようとするが……だめだ、ロックがかかっている。

 それも魔法式のロックが3重、物理鍵が2つとかどれだけ頑丈なんだか。

 材質も……これ、総アダマンタイトだよな?

 この馬車だけやたらと厳重なんだが。

 とりあえず誰か乗ってないか確認してドアのまえから避けてもらうか。


「おーい、この馬車、誰か乗っているのか?」


 ……返事はないな。

 ただ、生命反応は感じられる。

 というかこんなことを感じられるようになるとか、絶対樹龍王の力だろう。


「……どなたです?」


「ああ、よかった。気絶しているとかじゃなかったんだな」


 聞こえてきたのは俺よりも若い……というか幼い声。

 声から察するに、ミリアと同年代かそれくらいだろう。


「それで、どなたですか?」


「うーん。俺の名前よりも所属を言ったほうがいいだろうな。俺は邦奈良のハンターギルドのものだ。いまは獣神国、カルロス王の依頼で動いている。具体的には法神国に捕虜が送られるまえに救出してほしいという依頼だな」


「……そうですか。でも、私のことは放っておいてください。私だけが助かるわけにはまいりません」


「いや、君だけを助けに来たわけじゃないんだがな?」


「え? それはどういう?」


 俺がこの馬車の中にいる人物と話し合っていると、横から割り込れる。

 赤い髪と尻尾が特徴的な狐の獣人だな。


「姫様!」


「フレイア?」


「はい! フレイアです! ミーシャ姫、ご無事ですか!?」


「あなたこそ……でも、どうしてここに?」


「はい、カルロス王がお願いしたというハンターの皆さんに助けられました! ほかに皆も命に別状はありません!」


「本当ですか!」


「もちろんです! 多少栄養不足なものたちもいましたが、そのものたちはいま食事をもらっています」


「……父様からの依頼というのは本当なのですね?」


「あー。そういえば、その証になるものをなにかもらってくればよかったか」


「いえ、フレイアもいることですし、信じましょう。ですが、私の牢馬車は……」


「魔術式ロックが3つ、物理鍵が2つ、総アダマンタイト製で破壊も困難。ですよね?」


「はい。なので私をおいて他のものの救出を優先……」


 魔法式ロックは……うん、こうだな。

 解析の終わったロックをすべて解除してしまう。

 ロックはパキンと小気味よい音を立てて砕け散ってしまった。


「いまの音は?」


「魔法式ロックを解除した音ですよ。さて、次は物理鍵ですが……壊した方が早いかなアダマンタイトといえど炎神の腕には敵わないでしょう。イフリート・アーム」


 魔法の効果範囲を極小化、出力を極大化させたイフリートアームは、まるで真っ白い棒のようになり俺の前に出現する。

 それで慎重に……いや、面倒なので適当にアダマンタイトの鍵を断ち切ることに。

 罠などがないのはすでに確認済みなので大胆にやってしまっても問題ない。

 アダマンタイトの鍵は、まるでバターを熱したナイフで切り落とすようにいとも容易く切り落とされて地面に転がった。


 扉を閉ざしていた鍵はすべて取り除いたため、ゆっくりと馬車の扉を開く。

 ……正確には扉もアダマンタイトでできていて重かったせいだけどな。


「あ……」


「あなたがミーシャ姫で間違いないですか?」


 一応、ここに来る前にカルロス王から人質に取られたと言う末娘の写真を見せてもらっている。

 目の前の少女はそれそっくりだけど、影武者とかもいそうだし確認は取らないとな。


「えと、はい。私がミーシャです」


「よかった。……さすがに王族を奪還されるのはまずいから一番厳重な馬車に押し込んでおくか」


「だと思います。このたびは私たちの国のものたちを助けていただきありがとうございました」


「それが依頼内容ですから。さて、ここから出ましょうか。騎士どもは魔法でしばらく動けません。それでも早めに安全な場所まで退避した方がいいので」


「あ、でも、私、この馬車にずっと押し込められていたので匂いが……」


 匂いか……女の子にはきついよな。


「……それは気付きませんで。クリーン」


「ふわぁ……」


「これで大丈夫ですか?」


「はい! ありがとうございます。……ええと」


「名乗っていませんでしたね。フートと言います」


「はい、フート様。ありがとうございます」


「いえ、急いで脱出しましょう」


「はい!」


 フェアリーゲートのところまで戻るともうすでに全員戻ってきていた。

 アヤネには遅いとポカポカ殴られたが……まあ仕方がないな。

 リオンがカルロス王からもらっていたリストと照合した結果、全員いることを確認したためゲートを通りいったん『鳴神』や『ケルベロス』が停泊している草原へと帰還することに。


「……ミーシャ姫? なにかよからぬことを企んでませんか?」


「そんなことはないですよ? ただ、あれほど素敵な殿方と出会えたのは運命だなと」


「……カルロス王がお認めになりますかね?」


「なら国を出るまでです」

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