263.ルアルディ最後の夜
「待たせたな、皆の衆。ルアルディ王国との商談、まとまったぞ」
この言葉に那由他の面々は沸き立つ。
……ほんと苦労したからな。
なお、今いるのは迎賓館ではなく鳴神の一室だ。
「詳しい話は各担当者から。まずは外務卿」
「はっ。まず、後天性覚醒施設ですが無事予定数を買い取っていただくことに成功いたしました」
「おお。……しかし国の財源は大丈夫なのでしょうか? 今回のクーデターでかなり深い傷跡を残したと聞きます。まして、宰相イヴァーノ殿も……」
「そこについては俺から。国王陛下たちと直接の三者会談で魔玉石のみもらい受けると言うことで話をつけたよ。魔宝石はいったん俺が受け取って、クーデターによって被害を受けた一般市民への援助のための資金供給として渡した、という形だな」
「ものはいいようですな。まあ、あちらも民間人への保証は頭の痛い問題でしょう。それの一部が片付いたのなら次は軍事面での再編ですな」
「それについては、私、軍務卿から。軍の方はかなり疲弊しておりました。今回の内乱、呼応した貴族も多くその処断だけでも半年はかかるとか」
うっわ、面倒な。
これだから偉い人の話って苦手だ。
「ですが、最低限国軍には後天性覚醒施設により回復魔法を覚えたものを配備できています。弱いライトヒールであっても体の疲れを癒やす手助けにはなる。首都の鎮圧が早かったのはそのおかげもあったようですな」
「うむ、重畳である。ほかには報告ごとはあるか?」
「はい。教会勢力……法神国の連中ですがクーデターの混乱に乗じて逃げ帰ったようです。その拠点となっている神殿や神殿騎士の詰め所などを調べてもなにもでなかったとのこと」
「彼の国は本当に厄介な……」
「そうだな……フート、例の呪法師からなにか聞き出せたか?」
「はい。彼らが行っていた呪術は被験者の魂を抜き出す術のようでございます。……抜き出した魂をなにに使うかはこの場では話せません」
「あいわかった。それで、呪法師どもは?」
「3人とも死にました。どうやら時限式の呪術……いえ、使っていた呪術の副作用のようなものが発動した模様です」
「それだけの術師を使い捨てか……もしかすると国に帰れば副作用を解けたのかも知れぬが脅威よのぅ」
「はい。状況によっては戦場の盤面をひっくり返されますので、黒旗隊の配備は最低限必要になるかと」
「それがわかっただけでも成果は大きかったか。なにも知らずに戦争に突入して多数の犠牲者が出るよりもよかったと捉えよう」
そのあとも軍議は続き、一通り話し合いが終わったところでいつものメンバーのみが残り秘密の打ち合わせだ。
最初の議題はやはり魔玉石を使ったモンスター化である。
「で、フートよ。そのモンスター化の呪術止めらんねぇのか?」
モンスター化の呪術についてはここにいるメンバー、そしてルアルディ王国の重鎮とも情報共有をしてある。
全員が『厄介な技術を生み出してくれた』と言う表情だったが。
「止められないですね。止める方法があるとすれば、呪術師を先に始末するか生け贄になっている人間を始末するか、どちらかだと思います」
「……実質不可能じゃねぇか」
「だから止められないんです。謎だらけの技術ですからね。捕らえたルアルディ王国のふたりからもまともなことは聞き出せませんでしたし」
「確か使い方しか知らなかったのだな?」
「のようです。それ以外の知識は持っていないようでした」
「まことに厄介な……せめてもの救いはルアルディ王国にあった魔玉石、記録にあるものをすべて回収出来たことですな」
そう、今回の報酬は『国庫にある魔玉石すべて』だったのが『貴族が保管しているものも含めた魔玉石すべて』に置き換わったのだ。
貴族側としては王命として差し出せと命令があれば差し出すよりほかなく、まして大して意味のない石ころなので懐も痛まない。
それにより、ルアルディ王国内のほとんどすべての魔玉石はいま俺のアイテムボックスに保管されている。
ただ、一部の魔玉石は教会が買い取ったあとだったのが気がかりではあるが……。
「そういえば、フートよ。王子王女3人を救った対価はどうしたのだ?」
「ああ、あれですか。あれなら、マルティン王が秘蔵していた魔宝石を譲ってもらって終わりですよ」
「ふむ、そんなに価値のある石なのか?」
「んー、このままだときれいな石ころですね。マルティン王も単にきれいな魔宝石と言うことで個人的に買っただけですから」
「つまりお前にとっては特別な意味があると」
「……ここにいるメンバーは先日のくさびを見ているから話しますが、それの終点になり得る魔宝石なんですよ」
「つまり、その石のあるところに転移できるようになると?」
「はい。かなり特殊な加工を施さなくちゃいけないのですぐにできるものではないですが」
「……それ、送る相手は決めてるのか?」
「いいえ。ミキもアヤネも基本俺と一緒に行動ですし送る意味はないかと」
「じゃあ、完成したら俺に売ってくれ。言い値で払う。娘の守護石にしたい」
「恐れながら国王陛下、さすがに親馬鹿が過ぎるのでは……?」
「次にいくのがヴィカンデル公国じゃなきゃそんなもんいらねぇよ」
「……なるほど。あの国の退廃ぶりは有名ですからな」
「貴族だけでなく公王まで腐っちまったって話だからな。場合によっちゃ同盟破棄も視野に入れて行動する」
「陛下……」
「あくまで最終手段だ。獣神国がある以上、これ以上敵は増やしたくねぇ」
「獣神国、ですか?」
はて、初めて聞く名前だが。
そんな国があったのだろうか。
「ああ、獣神国。一般的な呼び名は獣人国だがな」
「あの国は自分たちでも獣人国を名乗ります故」
「ああ、獣人の国」
「そういうこった。この国は敵とも味方とも言えねぇ中立国だが……いままでの法神国のやり方だと敵国にまわってそうだな」
「ですな。しかし、よろしいのですか? 獣神国にヴィカンデル公国、このふたつの国が敵に回ればかなり厄介ですが」
「そのときはもう一度ルアルディに戻って覚醒施設を追加提供するさ。無理を強いる分、戦争が始まったときは那由他からも援軍をだす」
「厳しい戦いとなりますな」
「ああ。仕方がないけどな」
会議室に重い沈黙がおとずれる。
あれ、そういえば……。
「滞在最終日だけどとくになにもなかったようですね」
「そのあたりも用意できなかったみたいでな」
「なにより宰相殿が暗殺されていたのが痛かったようです」
「左様。フート殿が遭遇した宰相殿の軍隊も本物の宰相殿配下の騎士団であった。ただ、指示を出したのは偽物の宰相であったため無罪となったがな」
「……大丈夫でしょうか、この国」
「なんとかしてもらうっきゃねぇ。必要なら人材も貸し出すしな」
「ですな。……さて、我々もそろそろ解散でしょうか」
「だな。これ以上話すこともねぇだろ」
「あとは次の目的国対策ですからな」
「同盟国対策っておかしいような……」
「フート殿はやはり政治に疎いですな」
「同盟国であろうとも別国家、それぞれさまざまな思惑が絡んでくるのだよ」
「……めんどくさい」
「心配するな。それが全員の意見だ」
「まったくですな」
「ともかく、今日は解散だ。明日はルアルディを離れる。以上!」
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