256.夜襲
食事会のあとも話は進み……と言うか食事会後の方が円滑に進んだらしい。
ルアルディ王国に滞在するのは予定通りの日数ですみそうだと先ほどの会議で全員に伝えられた。
そんな10日目の深夜、事件は起こる。
「ん、念話? あたりが騒がしい?」
「フートさん?」
「フート?」
「……ミキ、アヤネ。支度を。準備ができたらリコやアキームたちも起こすぞ」
「はい」
「わかった」
俺たちはすぐさま寝間着から平服へと着替え、神器を呼び出す。
そしてミキとアヤネはリコたちの部屋へ入り、俺はアキームたちを……起こす必要はなかったようだ。
「にゃはは。やはり事件のようですにゃ」
「リオン、気がついていたのか」
「なにやら気配がおかしいのですにゃ。アキームとバルトも起きてますにゃよ」
「フート先輩、なにがあったんですか?」
「俺もまだわかって……ちっ!」
「フート殿?」
「リオンこの場は任せる! ミキとアヤネにはそのままリコとミリアを守らせるように伝えろ!」
「わかったにゃ!」
「俺は王女殿下のところに向かう! 集合場所は……会議室だ!」
「はいにゃ! 急いで支度するにゃ、ふたりとも!」
「「はい!」」
俺はすぐさま王族の寝所があるフロアへ向かう。
夜勤のメイドや騎士たちは俺がフル装備でこのフロアに飛び込んできたことに驚いているが、説明している時間がないためステータス頼みで追い抜いてしまう。
目的の王女殿下の部屋では不寝番の黒旗隊と近衛騎士がいた。
「フート殿? このような時間に一体?」
「中の様子に気がついていないのか!?」
「中の様子?」
「……ちっ、魔法結界か! いま解除するぞ!」
王女殿下の部屋に張り巡らされていた三重の魔法結界を一気に破壊する。
すると、内部から戦闘音が漏れ出してきた。
「フート殿、これは!?」
「侵入者がいる! いまは俺のゼファーが押さえているが4人相手だ! 不覚は取らないだろうが王女殿下を守りながらの戦い、相手の狙いは王女殿下、余裕はないはず! 乗り込むぞ!」
「「はい!」」
扉を開けようとしたが開かなかったために一気に蹴破る。
すると内部では壁際によったゼファーがフローリカ王女殿下を守りながら侵入者4人と戦っている姿があった。
「よく頑張ったゼファー!」
「オウン!」
「賊を捕らえよ!」
「くそっ! また、あの赤の明星か!」
「退くぞ! 俺たちでは勝ち目がない!」
俺が突入してきたのを確認すると賊はすぐさま逃げ出す。
俺の事を知っていたり、判断が速かったりずいぶんと優秀だな?
「ゼファー、追え!」
「ガゥ!」
ゼファーを追撃にだせばそう易々とは逃げられないだろう。
逃げられたとしても逆にゼファーを出し抜ける相手として警戒できる。
……さて、あとは王女殿下だが、っと。
「フート様、ゼファーは大丈夫なのでしょうか!? 私をかばって何回も怪我をしていたのですが……」
「大丈夫ですよ王女殿下。戦いながら傷を癒やしていたようです。あの程度の攻撃力では致命傷にはなりえません」
「……よかった。私、またゼファーに無理をさせたんじゃないかと」
「そんなことありませんよ。それよりも王女殿下は大丈夫ですか?」
「はい。私はゼファーが守ってくれましたので。……守られることしかできませんでしたが」
「それでよろしいのです。そのためにゼファーをおいていったのですから」
「本当に助かりました。ゼファーがいなければ私は殺されていたか連れ去られていたかでしょう」
「念のためにゼファーを常に王女殿下につけておいて正解でしたね。……しかし、テラもかなり警戒していますが今回の夜襲は一体?」
「まだなにもわからぬな」
俺が思案にふけっていると部屋の入り口から声をかけられる。
この声は国王陛下だ。
「フートよ、フローリカの護衛見事である。襲撃者の狙いはフローリカのみのようだな」
「国王陛下は襲われていないと?」
「うむ。お前がこの階にフル装備で突撃してきてフローリカの部屋に押し入ったという話を聞きここにきたのだ。まったく近衛騎士も黒旗隊もなにをしているのか」
「申し訳ありませぬ」
「部屋の前にいてなにも気づかないとは不覚の極み」
「フートよ、どういう状況だったのだ?」
「はい。俺がこの部屋に駆けつけたときには三重の魔法結界で隔離されていました。また扉自体も物理的に入れないように細工してあり……蹴破って入らせていただきました」
「部屋の損壊など気にせずともよい。ゼファーはどうした?」
「賊を追わせています。ただ、ゼファーでも最後まで追えるかどうかは保証できません」
「テラはこの屋敷を警戒していたのではなかったのか?」
「ここを襲った賊はテラの警戒網をすり抜けたことになります。ゼファーがこの部屋にいなければ王女殿下をお救いすることは非常に難しかったかと」
「ふうむ……フェンリルの警戒すらすり抜けるか」
「ただ、テラは周囲が騒がしいと念話を送ってきました。それが関係あるかどうかは調べてみないとわかりませんが、それによって俺が目覚めたのも事実です」
「うーむ『白夜の一角狼』にもフェンリルにも気付かれず部屋に押し入り魔法で防音および隔離を行う賊か。そのような高度な技術を持ち合わせているものがそうそういるのだろうか?」
「俺からはなんともいえません。ただ、自分には不可能とだけ言っておきます。フェンリルの警戒網を抜けることができません」
「であろうな。となると相手はここ数百年間、伝説のみで語られてきたフェンリルの生態に詳しいということになる。困ったものだ」
「はい。……ゼファーから連絡です。市街地途中までは追跡できたようですが途中で憲兵に阻まれて追跡を断念したと」
「事情を知らぬものからすれば魔物だからな。仕方があるまい。戻ってくるのか?」
「はい。じきに戻ります」
「結構。ほかの仲間たちは?」
「弟子やミリアを連れて会議室に集まるよう命じてあります」
「あいわかった。我々も会議室に向かうぞ!」
「「「ははっ!」」」
国王陛下は部屋を出て行こうとしたが、その直前こちらを振り返ってこう言ってきた。
「……フートよ。お前はそのままフローリカの護衛だ。フローリカ、フートから離れるなよ」
「へ……あ、はぃ……」
ああ、王女殿下はずっと俺の足に抱きついていたのか。
最初抱きついてきたのは知っていたが、そのままだった事は気付かなかった。
「ま、参りましょう、フート殿。皆を待たせるわけには参りません」
「フローリカ王女殿下、さすがに寝間着姿のままというのは……」
「ぁ……どうしましょう、着替えをしている余裕もありません」
「仕方がありませんね。俺の服を羽織ってください。……サイズは大丈夫なようですね」
「ぁ、はい。……殿方の服を羽織るなんて、大丈夫かしら」
「どうかしましたか?」
「いえ。参りましょう」
襲撃があったとお触れが出回ったことで厳戒態勢となった館内を王女殿下と一緒に歩く。
今回は王女殿下の前を歩くことも後ろを歩くこともできないので横を歩いている。
ただ、時折不安そうな目で王女殿下がこちらを向くのでそっと手を差し伸べると王女殿下もその手を戸惑いながらつかんだ。
そのあとは会議室まで歩いて行くだけだが……騎士が驚いたような雰囲気をしているのが珍しいな?
「ふむ、ようやくきたか。……フローリカが迷惑をかけたようだ」
会議室に到着した途端、国王陛下からかけられた言葉がこれである。
表情は珍しいものを見たという感じですよ?
「あの……さすがに私も怖くなってしまい……」
「それでよい。すまぬがフートよ、そのままお前の席の隣にフローリカを座らせてやってくれ」
「承知いたしました」
俺が会議室の席に座ると王女殿下も席に着く。
ただし、繋がれた手は握ったままだ。
「さて、主要メンバーは全員揃ったな。今回の襲撃で被害を受けたのはフローリカのみか?」
「はい。黒旗隊と近衛騎士に命じて迎賓館内をくまなく調べました。ですが、フローリカ王女殿下の部屋以外荒らされた形跡はありません」
「……となると本当にピンポイントでフローリカが狙われたか」
「賊どもはどうやってフローリカ様の寝室の場所を知ったのでしょうな?」
「わからぬ。ただ、あらかじめ王族は誰がどこに泊まるかは想像がつくものでもある」
「でしたな。フート殿、ゼファーからの報告は?」
「賊は市街地のさまざまな場所を走り回ったあと憲兵を飛び越えて姿を消したそうです。市街地を走りまわったのはアジトを気付かれないようにするのと目立つことで憲兵を集めるためだったと推察されます」
「フェンリルの嗅覚で追うことはできんのか?」
「それが……完全に無臭だったそうです。ゼファーもテラも大分混乱しています」
「ふむ。光魔法のデオドライズか。面倒な賊だ」
「デオドライズ……消臭の魔法ですよね? 人間に使って大丈夫なのですか?」
「長時間使えば影響が出る。つまり、賊も命がけだったというわけだ」
はぁ、厄介だな。
そう思っていると王女殿下が俺の手を握る力が強くなった気がする。
……どんなに強がってもまだ7歳なんだよな。
「フェンリルでも追えないとなれば追撃は不可能でしょう。いかがしますか?」
「弱ったな。鳴神に戻るのが一番だが勝手に戻るわけにも……」
そのとき会議室に近衛騎士が飛び込んできた。
「国王陛下に緊急連絡! ルアルディ王国国王マルティン王が緊急かつ極秘の会談を申し込んで参りました! 当方の出席希望者は国王陛下、軍務卿、外務卿それから……」
「それから?」
「その……『白夜の一角狼』とのことです」
「……その緊急会談受けると伝えよ。ただし、フローリカも同席させる」
「はっ!」
「すまないが付き合ってもらうぞ『白夜の一角狼』」
「承知いたしました」
王女殿下の手が俺の手をより一層強く握りしめる。
今日は忙しい夜になりそうだ。
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