ついにおとずれるとき
215.パーティ名登録
「お帰りなさい、皆さん。国王陛下はどんな御用だったのですか?」
俺たちはハンターギルドに戻り、国王陛下からの案件をユーリウスさんに相談することとする。
話を聞いたユーリウスさんはしばらく頭を抱えた後、こう言った。
「……さすがに私たちの一存では決められませんね。かと言って、理事会を開く時間もありませんし……エドアルドさんと学校長に相談してみましょう。あの王様のことです、3月中にはなにか行動を起こし始めます」
「3月中にゃ? さすがにそれは早すぎるんじゃないのかにゃ?」
「皆さんの話を聞く限り、国王陛下の中では決定事項になっている気がします。となれば、早く動いて準備をしないと……」
「準備ってなにをするの?」
「そうですね……さしあたって、一般市民の子供たちを受け入れる合格ラインの設定でしょうか。そこがあいまいだと文句も出るでしょう」
「そうですね。ですが、それだと現在裕福な家庭に育っている子供が有利なのでは?」
「そこは問題ありません。一週間、学校に通わせて行動観察をします。それが最初の選別試験です」
「意地が悪いにゃ」
「仲間とうまくやっていけないものはフェンリル学校に相応しくありません。そのあとで簡単な学力試験と魔力テストでしょうか。もっとも、これは参考程度ですがね」
「フェンリル学校にとって大事なのは伸びしろがあるかどうかだからな」
「はい。なので、試験期間は教員の大部分を入学試験へと割り当てます。そこは問題ないでしょうか?」
「構わないと思うぞ。ちなみにそれってユーリウスさんの案? それとも理事会の案?」
「理事会の案と学校の案をすりあわせたものですね。この試験は8月頃に行い、9月に入学してもらう予定だったのですが……それではダメでしょうね」
「負担をかけるけど早めにしたほうがいいだろうな」
「そうですね。そこも相談いたしましょう。それで、フートさんたちが戻ってきたらお願いしたいことがあったんですよ」
「私たちにお願い?」
「はい。わりと重要なお願いですね」
「ええと、なんでしょう」
「パーティ名、そろそろ決めてください」
真剣な顔で言うからどんなことかと思えばそんなことか。
でも、リオンもユーリウスさんも真剣な表情のままだな。
「にゃ。いままではよかったのにゃが、いい加減決めないとマズそうですかにゃ?」
「マズいですね。呼び出すときや指名依頼を受けるときに困ります」
「指名依頼は受ける余裕がないにゃ。でも、呼び出しに応じるときは確かに困るにゃ」
「はい。というわけですので、できれば今日帰る前に決めていただけると助かります」
うーん、先送りにしていた問題がここで出てきたか……。
パーティ名、何にしようかな。
「ひとまずゲーテのところに行って説明を受けてください。パーティ名登録専門の係員もいますので、そちらとの話し合いも必要となります」
「わかった。それじゃあ、学校の件は任せても大丈夫かな?」
「むしろ、私たちの領分ですね。フートさんたちはご心配なく」
「じゃあ、パーティ名を登録に行きましょう。どんな名前がいいかしら……」
「できるだけ、自分たちだとわかる名前にしてくださいね」
「わかりました。それでは失礼します」
ギルドマスタールームをあとにして、ギルド1階におりゲーテを探す。
……ああ、いたいた。
いたが……リコたちとなにか話をしているな、待った方がいいかな?
そう思っていたらリコの足元にいたミラーが俺に気付き、駆け寄ってきた。
「あ、こら、ミラー……って先輩!」
「よう。どうしたんだ、こんなところで」
「はい。ゲーテさんに言われてパーティ名の登録を行っていました」
「……パーティ名の登録か」
「そういえば、先輩たちのパーティ名ってなんなんでしょう? 伺ってませんでしたが……」
「決めてないのにゃ。いままで吾輩たちはモンスターハントばかりしていたのでパーティ名なしでも困らなかったのにゃ」
「そうなんですか? 買い取りの時とかは査定が終わったらパーティ名で呼ばれるときもあると聞きましたが」
「……買い取りカウンターで買い取りしてもらう事なんてまれだからな」
「私たち持ち込む量が多いから、いつも裏手に回されるのよね」
「なので、困ったことがないんですよ」
ここまで俺たちの話を聞いたリコは、どう反応すればいいか困った顔をしている。
……先輩より先にパーティ名を決めてしまったから、申し訳ないとでも思っているのだろうかね?
「まあ、サブマスター直々にいい加減パーティ名を決めろと命令があった。だからいまから登録する予定だ」
「よかったです。それでは、私たちは訓練場で訓練をしてきます。また時間のあるときはよろしくお願いします」
「ああ。またな」
訓練場へと続く通路のところで待っていたアキームたちと合流したリコはそのまま訓練場へと向かっていった。
さて、俺たちはゲーテのところに行かなきゃな。
「ゲーテ、話があるんだけど……」
「聞こえてましたし、サブマスターからも話を聞いています。パーティ名の登録ですね。まったく、弟子よりあとに登録することになるとか前代未聞ですよ?」
「……なんだか申し訳ない」
「いままで注意してこなかったギルド側にも責任はありますけどね。さてパーティ名の件ですが、立ち話もなんですので打ち合わせスペースを利用しましょう。登録官もいなくてはいけませんし」
「登録官?」
「それについても説明いたします。では、こちらへ」
よく使っている打ち合わせスペースへと通されたあと、ゲーテはひとりの青年を連れてきた。
彼が登録官なのだろうか。
「初めまして皆様。私はパーティ登録官のカーシーと申します。本日はよろしくお願いします」
「パーティ登録官はパーティ名の重複を防ぐための役割を持っているんです。特に上位ハンターは重複すると問題ですからね」
「わかった。よろしく、カーシーさん」
「はい。では始めましょう。パーティ名の候補はありますか?」
候補、候補ねぇ……まったく考えたことがないな。
ほかの3人はどうなんだろう?
「ミキたちはなにか考えてたのか?」
「うーん、いい案はないですね……」
「私もよ。ちょっと前から考えてはいるんだけどね。なかなかしっくりくるのがこなくて」
「吾輩はパスですにゃ。吾輩、いつかはこのパーティを抜けることになりますからにゃ」
「あーそうだよな。リオンの役割って俺たちの指導員だものな」
「はいにゃ。……ただ、いまの現状だとこのままずっとパーティを組めという命令が下りそうですがにゃ」
「そのときはよろしく。……という状態なんだが……」
「はぁ、パーティ名を考えていないハンターというのも珍しいですよ? 名前を売ってなんぼの世界ですから」
「フート様たちは名前を売らなくとも勝手に知れ渡りましたからね。……さて仕事に戻りましょう。パーティ名の候補がないのでしたら自分たちの身近でほかのパーティとかぶらないようなものをあげてください」
「身近でかぶらないもの……私たちだとテラとゼファーよね?」
「フェンリルを2匹も連れ歩いているハンターなんていませんね」
「そうなると『双狼』とかか?」
「『双狼』ですか……おやめになった方がよろしいですね。似たような名前でかなりの数が登録されています」
「おそらくレッサーフェンリルからつけているにゃ」
「では次は二つ名から考えましょう。ちょうどフート様には『白光』という二つ名があります」
「『白光』か……それ自体で登録されているパーティ名は?」
「およそ30ですね。なので、それそのものを使うのはお勧めできません」
「二つ名をそのまま使うのもダメってことね。そうなるとどうするべきかしら……」
「あの、『白光』がダメなら『白夜』はどうでしょう?」
ミキが発した何気ない言葉。
それに反応したのはギルド職員のふたりだった。
「『白夜』ですか。ちなみに由来は?」
「へ? 白夜を知らないのか?」
「申し訳ありません。わかりません」
「私も知らないわ。それってなに? 赤の明星の世界の言葉?」
「私たちの世界の言葉というより自然現象です。夏至……昼の時間がもっとも長くなる時期に夜でも暗くならない現象です」
「そんな現象があったのね。私たちの世界、少なくとも那由他では確認されてないわ」
「……その名前での登録は一件もありませんでした。登録するならその名前を元にするのがよろしいかと」
「『白夜』をメインにね。やっぱり私たちって狼か雷光のイメージよね」
「ギルド職員からするとフェンリルたちのイメージが強いわね」
「となるとフェンリルをイメージしたものか……『白夜の双狼』はダメだろうし」
「いざ組み込もうと思うと悩むわね」
「あの、『白夜の一角狼』はどうでしょう? レッサーフェンリルには角がありませんがフェンリルには角がありますし」
「うん、悪くないわね!」
「それならいいかもな。登録は可能か?」
「『一角獣』だと問題でしたが『一角狼』でしたら問題ありません。パーティ名の重複も認められませんでした。『白夜の一角狼』で登録してよろしいですか?」
「ああ、それで頼む」
「かしこまりました。……登録完了です。それではゲーテさん、あとのことはお任せします」
「わかったわ。お疲れ様、カーシー。さて、みんなはカウンターに戻って腕輪の登録情報を更新よ」
ゲーテに連れられ受付カウンターに戻り、ハンターの腕輪を魔導機械に通す。
これでパーティ名が登録されたらしい。
……まあ、腕輪に俺の名前とパーティ名が記載されるようになっているから間違いはないのだろう。
「これで登録作業は完了よ。……それにしても、師匠も弟子と同じ発想とはねぇ」
「弟子……リコたちか。なにかあったのか?」
「彼女たちのパーティ名だけど『新緑の白牙』にしたのよ。同じ色をモチーフに選ぶとかなかなか息が合ってるじゃない」
「……まったく打ち合わせしてないんだけどね」
「ま、いいんじゃない? 今日はこれからどうするの?」
「あー、もう少し時間があるか。どうするみんな?」
「吾輩、アキームに稽古をつけたいにゃ」
「私もバルトの面倒をみてこようかしら」
「決まりだな。訓練場が閉まるまで弟子の稽古をつけてくるよ」
「仮の弟子なのに熱心ね。……本当ならそのままお願いしたいんだけどね。いろんな意味で」
「にゃ。アグニを倒したあとでなら正式な師匠になるにゃ」
「へぇ、フート君たちも異存はない?」
「……構わないが、おそらく来年だぞ。それまで待たせるのか?」
「大丈夫よ。……よし、一パーティの師匠は決まった」
「ん? よくわからないが、もう行くぞ?」
「ええ、頑張ってきてね」
なにを考えているのか読めないゲーテは置いておいて、リコたちの修行をつけることに。
前に修行をつけたときよりも格段にキレが増していて驚かされる。
このまま成長を見守りたいが、俺たちは俺たちでやることがあるのが惜しいな……。
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