176.車の中で
「それにしても、都の様子は大分変わっている様子だな」
「そうですにゃぁ」
サジウス領の連中に破壊されたキャンプ地、そこに再建用の資材を置いて次のキャンプ地へ向かう。
その途中で都のことを考えていたのだ。
「元を正せば私たちが学校を作ったところから始まったんですよね」
「いや、それがこんな大ごとになるなんて思わないわよ」
「そうですにゃあ。吾輩たちの本来の目的はスラムにいた子供たちの支援でしたにゃ。その目的のためにさまざまな人材を集めた中、たまたま魔術師グループの異端者としてはじき出されていた後天性魔法の研究者たちがいたにゃ。彼らの研究が上手くいき、それを国が騎士や国のお抱え魔術師で試した結果、研究通りの結果が出ましたにゃ」
「そのようだな。……はっきり言って、ここまで大問題になるとは思ってなかったんだが」
「私だって思ってないわよ」
「私もです」
「吾輩は多少のいざこざがあるとは思っていましたにゃ。回復魔法士を国に売り込むことで多額の寄付……という名の傭兵料をせしめている教会が回復魔法士を量産できる研究を認めるとは思ってませんからにゃ」
「あー、なるほど。だが、だからといって戦争まで仕掛けるものかね?」
「おそらくは後天性魔法の研究と開発を止めたいんでしょうにゃ。教会からしてみれば、アレは自分たちが定めた教義に反するものだにゃ。そんな研究と成果を世の中に広められては教会の威厳が保てませんにゃ」
「ふーん。でも、教会の教義ってなに?」
「吾輩もうろ覚えですにゃが……確か、魔法は神が生まれる子供に与える祝福であり回復魔法が使える子供は神の愛し子である、とかなんとかですにゃ」
「……ずいぶんと都合のいい解釈ですね」
「宗教なんてそんなものだと吾輩の里の長老たちも言ってましたにゃ。長老たちは吾輩よりはるかに長く生き、世界各地を旅してますからにゃあ」
「そうなのね……リオンってずっと那由他にいるの?」
「吾輩は那由他にくる前、いくつかの国を旅しましたにゃ。ただ、どの国も居心地がよくなかったのですにゃ」
「居心地がよくない?」
「例えば、貴族が圧政をするのが当たり前だったりとか、人間至上主義の国家であったりとか、逆に獣人至上主義なんて国もありましたにゃ」
「やっぱりいろいろな国があるもんなのね」
「ありますにゃ。それでたどり着いたのが那由他の国でしたにゃ」
「へぇ。やっぱりこの国って住みやすかったの?」
「住みやすいですにゃあ。吾輩のような妖精族にも差別がありませんし、食べ物もおいしいですし、魔物やモンスターもしっかり管理されていますにゃ。ここまでしっかりした国は本当に珍しいのにゃ」
「そうなのか……これが一般的なのかと思ってたが」
「この国の方が例外ですにゃ。他の国では冒険者ギルドしかなく、モンスターも魔物も大抵は同一のものとして扱われますにゃ。その結果として、那由他以上に冒険者の死亡率は高く、英雄譚に憧れたり食い扶持がなくて冒険者になった若者が数年で命を落としてますにゃ」
「……私たち、最初は危険な場所に落とされてついてないと思っていたんですが、かなり幸運だったんですね」
「かなり幸運だった方ですにゃ。国によっては赤の明星を発見した場合、国に報告してそのまま国の戦力にする、なんて国も多いです故にゃ」
「国の戦力か……俺たちもそう数えられている気がするが?」
「それでも自由は保障されていますにゃ。アグニとの戦いだって強制されてはいないですにゃよ?」
「……そう言われるとそうよね」
「赤の明星の有用性を理解している国は、赤の明星をあらゆる方法で国に縛り付け、兵器として扱いますにゃ。なので赤の明星の寿命は世界的にはとても短いんですにゃ」
「それってどうしてです?」
「皆さんはソウルパーチャスという裏道を使って一気に強くなっていますにゃ。ですが、普通の赤の明星ですと、やはり普通に戦って強くなっていくのが基本にゃ。なのに、まだ育ちきっていない赤の明星をろくな支援もなしに強力なモンスターの討伐へと向かわせる国が結構ありますにゃ」
「……それは戦力の無駄遣いでは?」
「吾輩もそう思うのですがにゃ……どうにも、赤の明星の伝説ばかり先走っているせいで、赤の明星は鍛えなくても強い、という勘違いが広まっているのですにゃ。特に中央大陸南部では」
「中央大陸ねぇ。今度、機会があったら世界地図も見てみたいものだわ」
「王様に伝えてみるといいにゃ。多分許してくれるはずにゃ」
「戦略物資じゃなかったのでしょうか?」
「戦略物資ではあるのにゃ。ただ、機密度はかなり低いのにゃ。なぜなら、世界地図を作ったのも赤の明星で世界中の国が所持しています故にゃ」
「……確かに、機密度は低そうだ」
「にゃ。吾輩の里にだって数枚の世界地図があるくらいにゃ。今後のことを考えればその程度の出し惜しみなんてしないはずにゃ」
「今後の事ってなによ、ネコ」
「目前のことはアグニ討伐における連携にゃ。都の軍隊のことは検問所で話したとおりですにゃ。はっきり言ってしまえば、アグニとの戦いに出しゃばられても役立たずどころか、意識をそちらに向ける必要が出てくる分お荷物にゃ」
「事実だが、そこまではっきり言わなくてもな」
「現実は非情にゃ。そこはあの王様のこと、しっかり理解しているはずにゃ。なのでアグニとの直接戦闘は、吾輩たちを中心にハンターギルドと冒険者ギルドの最上位勢で行われるはずですにゃ」
「えっと、正直、ハンターや冒険者の最上位勢も……」
「言わなくてもわかっているにゃ。そして、多分あちらも吾輩たちの雰囲気に当てられればアグニの恐ろしさを理解できるはずにゃ」
「じゃあ、ハンターギルドや冒険者ギルドのメンバーはなにをするんだ?」
「基本的には援護射撃ですかにゃ。魔導兵器による援護射撃を行ってもらえれば上々、それができなくとも吾輩たちやアグニの流れ弾が街の方に飛んでいくのを撃ち落としてくれれば十分ですにゃ」
「……さすがにあのアグニ相手では周りの被害を考慮できないか」
「無理でしょうにゃ。それを抑えるための戦力にゃ」
「では国の軍隊の皆さんはなにをするのでしょう?」
「黒旗隊はしんがり……街の最終ラインを防衛すると思いますにゃ。吾輩たちがアグニに敗れた場合、少しでも時間を稼げるようににゃ」
「……つまり街の人間を逃がすための砦ね」
「そうなりますにゃ。一般の騎士や兵士たちは国民を逃がす手伝いをすることになると思いますにゃ」
「……それで、どれだけ時間が稼げるか、ですね」
「おそらく、最終決戦の数カ月前……3カ月前程度でしょうかにゃ? それくらいから街の住人を疎開させることになると思いますにゃ」
「それが賢明だろうな。いろいろな意味で」
「はいですにゃ。最後まで残るのは……王族たちでしょうにゃ」
「責任感が強いんだな」
「それもありますが、この国の王族は皆強いんですにゃ。本当の意味で最後の一矢になるお覚悟でしょうにゃ」
「そうならないように頑張らないといけませんね」
「そうね。……今年はどうあがいても間に合わないけど」
「さすがに1年でアレに追いつくのは無理ですにゃ。正直、2年でも厳しいですにゃ」
「それでもやるしかない。止めるしかないんだ」
「フート殿は覚悟が決まりすぎてますにゃ。故にこそ、吾輩も熱くなるですがにゃ!」
「そうですね、頑張りましょう!」
「ま、死ぬのは嫌だけど逃げ出すのも嫌よね。死なないように強くなりましょう」
「というわけで、まずはフレイディアですにゃ。もうまもなく、今日のキャンプ地ですにゃよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます