163.ギルドマスターへの報告

「ふむ、地龍王がな……」


「疑うのかにゃ?」


「疑っちゃいねぇよ。さっきフートに見せてもらった魔法の威力は異常だし、リオンの持ってきた音声記録……まあ、これはノイズ混じりで聞き取りにくいんだが、こっちも物証としては十分だ」


 スキル確認を行った翌日、早めに起き出して車で検問所まで戻ってきた。

 理由はもちろん、ハンターギルドのギルドマスターに今回の顛末を報告するためだ。


「で、ギルドマスター。どう思う?」


「……そうさなぁ。こういうときにユーリウスがいてくれると的確なアドバイスをくれるんだが、いないんじゃしょうがねぇ。いまの俺たちにできる事なんてほとんどありゃしねえよな」


「やっぱりそうなるのね」


「当然だろ? 地龍王ともあろうお方が5年も調べているのに、俺たちがたまたま以外で異変を発見するなんて考えられねぇよ」


「そうですよね。……そういえば、他のモンスターってどんな感じだったんですか?」


「あ? まず、滝壺の大ウナギはフートが撃ち抜いたんだろう? アイツは再出現までに5年から10年かかるから調査対象外だ。滝壺周辺は調査させているがな」


「めぼしいものは出てきたのかにゃ?」


「なーんも出てこねえよ。そもそもマッドマウスはお宝とかも丸呑みにしちまう性質があるからな。マッドマウスが荒らした痕以外にめぼしい痕跡は見つかっちゃいねぇ」


「それじゃあ、残りの二匹は?」


「ストーンランナー以外の二匹か? まずフレイディアの方だが、よっぽど気が立ってやがるな。調査員が近づく気配だけで大暴れしやがる。お前たちも討伐に行くときは気をつけろよ」


「気が立っているって……原因はわからないの?」


「そいつがわかれば苦労しねぇよ。産卵期は凶暴になることで知られているが……いまはそんな時期でもねぇしな」


「わかった。それでもう一匹、ええと【礫砂の隠者】……」


「ハーミットホーンな。あいつは巣穴で大人しく暮らしてやがったよ。巣穴周囲に獲物の死骸以外は目立った痕跡もなし。ハーミットホーンの行動範囲から少し外れたところをうろついていた痕跡は見つかったが誤差の範囲内だ」


「じゃあ、特別変わったことはないと?」


「ストーンランナーがあちこち本来のルートから外れたところを走り回ってる、って報告以外はな。その理由もお前らの話でわかったこったし、調査をしている連中には『現在のストーンランナーは特殊個体、手出し無用』と伝えておくよ」


「そうしてもらえると助かるにゃ。地龍王様はどうにも人間と遊びたがる性格のようですからにゃ」


「こっちからすれば命がけの討伐も、あっちからすればただの遊びか。実力差がわかるってもんだぜ」


「それじゃ、こっちの報告は終わりかな」


「ちょっと待て。……いま結界魔道具でこの部屋の音を外に漏れないよう遮断した。入ってくることもできないようにな」


「急にどうしたんですか?」


「いまのお前らのレベルが知りたい。……ああ、ステータスはいいぞ。赤の明星は俺たちリバーンの民より優れているのが相場だからな」


「じゃあ答えるけど、俺のレベルは150だな。ソウルをギリギリまで使ったから、大物を狩らないとこれ以上は上がらないよ」


「奇遇ね。私も150だわ」


「私もです。……というより、いままであったレベル差が必要ソウル量の増加によって誤差になったんでしょうね」


「だろうな。というわけだが、どう思う、ギルドマスター」


「どう思うってのは?」


「アグニとの決戦に間に合うと思うか?」


「……間に合わせるんだろう?」


「まあね」


「なら問題ねぇな。ちなみにリオンはどうなっている?」


「吾輩は190ですにゃ」


「あら? 前に聞いたときは170とかだったって話じゃなかった?」


「それが、昨日の夜寝る前にソウル量を確認したらものすごい量のソウルが追加されていましたにゃ。そんなことができるのは地龍王様だけですにゃ。きっと、吾輩にまだ赤の明星であるお三方を導けというご下命なのにゃ」


「……ハンターギルドの中でもずば抜けてトップのパーティになりやがったな」


「いままでのトップパーティってどれくらいだったんだ?」


「レベル130台が5人のパーティだよ。もっとも、今回の遠征には参加していないがな。大物狙いでかなり離れたところまで遠征中だ」


「……なんだかずるをしてレベル上げしているみたいで申し訳ないです」


「あ? お前ら並みの早さでバンバンモンスター狩りをする連中なんていねーぞ? 普通はモンスターを一匹狩ったら半年から一年は休養期間を空けるからな」


「……そうなのか、リオン」


「はいですにゃ。普通は装備や消耗品の補充、体調の調整、純粋な休養さまざまな理由で休養期間を設けるのが一般的ですにゃ」


「私ら初めて聞いたんですけど?」


「アグニを倒そうと思ったらそんな暇はありませんにゃ。それに、皆さんは神器のおかげで装備の消耗は気にせずに戦えて、回復もフート殿がいれば大丈夫ですにゃ」


「それってフートさんがいなくなると瓦解するってことですよね?」


「心配しなくても4人のうち誰かが欠けたら瓦解するにゃ。それくらい余裕のないパーティ構成にゃ」


「本来ならサポート要員をつけてやりたいんだがなぁ……もう、足手まとい以外のなにものでもねぇからよ」


「吾輩たち、ちょっとどころじゃなく急速に強くなりすぎてますにゃ」


「全員がアイテムボックス持ちで補給には事欠かねえ。回復魔法士も特級レベルの人間がいる。サポート要員の意味がねえんだよ」


「……そういうわけなので、吾輩たちは4人でやっていくしかないのにゃ。フート殿が動けなくなるレベルの大怪我と、吾輩たち3人の死亡に気をつければなんとかなるにゃ」


「……フートのフェアリーヒールってどの程度の怪我まで治せるのかしらね?」


「瀕死の人を治してましたけど……私たちのレベルだとHPが多すぎますからね」


「お前ら、どんだけ強くなってんだよ?」


 ここまで話していたときにドアをノックする音が聞こえた。

 ……結界具の中でもノックの音は聞こえるんだな。


「……話はここまでだ。結界具を解くぞ」


「はいですにゃ」


「……よし。誰だ?」


「黒旗隊遠征隊長アレックスです。ハンターギルドマスターにご報告があって参りました」

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