150.2週間の修行

「ワイド・シールドバッシュ! フート、固めたわよ!」


「オーケー! ホワイトアウト!」


「行きますよー、龍砲・撃崩破!」


 襲ってきた岩トカゲを気の力で拡大したシールドバッシュで、一気に一カ所にまとめ上げるアヤネ。

 そこを俺のホワイトアウトで固めて、ミキの龍砲でとどめというわけだ。


「さすがにこの辺の魔物なら戦えるようになってきたわね」


「……そう言っておいて、この間大けがをしたのはどこの誰でしたっけ?」


「それは言わないでよ……」


「そういうわけにもいかないにゃ」


 高台で俺たちの様子を見ていたリオンから厳しい言葉が投げかけられる。

 実際問題、俺たちが油断すると決まって怪我をしてきたからな。


「いままでの通り、礫岩の荒野にいる魔物のほとんどは氷で倒せるにゃ。でも、それとコレと話は別にゃ、実際……」


「え?」


「アイスジャベリン」


 生き残っていた一匹をアイスジャベリンでうち貫く。

 それで完全に絶命したらしく、ドロップアイテムを残して消えていった。


「……と、まあ、アヤネ殿はチェックが甘いにゃ。魔物が生き残っていれば消えずに残っているのだから、そこにとどめを刺すのも役目のうちであるぞ」


「……くっ、正しすぎて言い返せない!」


「フート殿とミキ殿は十分合格ですにゃ。ただ、フート殿は若干魔力を弱めすぎ、ミキ殿は魔力の溜め時間が長いですにゃ」


「コレでも速くなってきたほうなんですよ?」


「それでもまだ遅いにゃ。モンスター相手だと、隙を見逃してはもらえませんからにゃ」


「俺は魔力を弱めすぎっと」


「残りのふたりのためでしょうが、少し弱いですにゃ。今回のように焼け残りが出るならもう少し強めでも大丈夫ですにゃ」


「そうか、わかった。……テラとゼファーが次の群れを見つけてこっちに来るそうだ。大物も混じっているらしいぞ」


「やった! 今日5匹目の大物!」


「手順は抜かりなくな。アヤネの堅牢を割られないように注意だ」


「……あー、のこり40%くらいしか耐久力ないわ、堅牢。割られることも想定して動いて」


「了解。初手のホワイトアウト、テラとゼファーのブレスで小物は総ていただくぞ?」


「わかった。後は、大物を私とミキで叩いていくのね」


「がんばります!」


「ではがんばってくださいにゃ!」


 リオンはまたぴょんぴょんと崖上まで登っていく。

 さぁ、ここからはまた俺たちの時間だぞ!

 魔物の群れを追い立ててきたテラとゼファーに対し、俺は指示を飛ばす。


「テラ、ゼファー! 俺の魔法にあわせてブレス攻撃だ! できるな!?」


「「ウォフ!!」」


 帰ってきたのは了承のメッセージ。

 さて、それじゃあ、派手にやりますか。


「〈我が誘いは氷の乱舞なり。風は荒れ、すべてのものを凍てつかせん。その力はすべての水に宿りし精霊のもの、その思いは我が統べるもの。すべてのものを純白の息吹に包み込まんがため、いまこのときこの場にて吹き荒れよ!! ホワイト・アウト!!〉」


 久しぶりに完全な詠唱句までつけて解き放たれた魔法は、魔物だけではなく周囲の荒野も銀世界へと染めていく。

 そして、この時点で数匹ドロップアイテムに変わっている魔物もいた。


「グワォ!!」

「グォゥ!!」


 さらにそこを二匹のフェンリルが使うブレスによって攻撃される。

 コレにより、残る魔物はボス級と思われる一匹のみとなった。


「動きを止めている間にダメージを重ねる! ヘッドブレイク! デッドリースピン!」


「重虎砲・砕破! 龍砲・重撃! さすがにタフですね!」


「壊れろ! デッドリーブレイク!」


「竜撃砲・閃華!」


「ふたりともそろそろ時間だ、離れろ!」


 俺の言葉に素直に従い、アヤネを頂点としたトライアングルフォーメーションをとる。

 氷の彫像となっていた魔物は体中に傷を負いながらも、その目にはギラギラとした殺気がにじみ出ている。


「あー、これは本気で堅牢割られるかも。サポートよろしく」


「わかってるよ。ミキも、無理しないようにな」


「はい!!」


「それで、この先はどうするの? 見た感じ、腐食のブレスも抵抗されているみたいだけど」


「正攻法でいくしかないだろ。ミキ、確か龍砲に水属性の技ができたんだったよな?」


「水破ですか? はい、覚えました」


「じゃあ、アヤネとアイスジャベリンで動きを鈍らせるからそいつをたたき込んでみてくれ。ダメだったら、虎砲も使ってボコボコに。アヤネはミキにターゲットが移らないように調整を」


「まかせなさい。行くわよ、ミキ!」


「はい、お願いします、アヤネさん!」


 まずはアヤネが接敵して、ボストカゲの動きを押さえ込む。

 その後……。


「【灯火の幻影】」


 スキル効果で分裂した状態で四方八方からアイスジャベリンを投げつける。

 それにより、再びトカゲの動きは鈍り始めて、最後はとどめだ。


「重竜撃砲・水破!」


 炎熱拳と水氷拳はデフォルトでかかっている。

 その上で弱点を突く大技となると、俺の魔法ダメージを軽く超える威力が出ているはずだ。

 実際、この一撃でボストカゲもドロップアイテムに替わったし。


「やったわね、ミキ。私たち、着実に成長して行ってるわ!」


「コレも二週間の修行の成果ですね!」


「ああ、そうだな」


 リオンに言われたとおり、ここ二週間はザコ魔物退治ばかりをしていた。

 途中、一回だけ遠目でモンスターを見かける機会はあったが……あれにはまだ届かないと実感しただけだった。

 さて、そんな喜びにひたっているところ、リオンが降りてきた。


「お疲れさまですにゃ。今回の戦闘は満点ですにゃ。強い獲物がいるのであれば、初手は遠慮しないで最大火力を打ち込み、それをしてもなお、タンクが敵の注意を引きつけ続ける。そして、最後は最大火力を出し切って短期決戦に持ち込む。それができれば合格ですにゃ」


「あら、リオン先生? 今日は珍しく優しいじゃない?」


「約束の二週間も経ちましたにゃ。明日からはモンスターハントの準備ですにゃ」


「やったぁ!」


「やりましたね! 皆さん!」


「そうだな」


「何よ、アンタだけテンション低いわね、こう言うときはハイタッチよ、こう!」


 俺の手は無理矢理持ち上げられて、3人でハイタッチするかたちになった。

 ……うん、こういうのも悪くないな。

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