145.ハンターギルドより死道へ

 ミキもあまり詳しい話を聞かずに俺の事を待っていたらしい。

 俺たちは急いでギルドマスタールームへと足を運んだ。


「来たわね。フェンリルの主になった時の人が」


「茶化すのではないのである。それよりも、こちらの緊急案件をこなすのであるよ」


「……それもそうね。報告が入ったのは3日前。つまり侵入者たちは10日以上礫岩の荒野にいることになるわ。ろくな装備も持たずに……な」


「バカであるな。アイテムボックス持ちがいるならばともかく」


「ともかく、侵入者たちはこちらの警告を無視……と言うか、剣を向けて威嚇しながら礫岩の荒野に入っていったよ。そのときに、鑑定持ちがレベルを鑑定したそうだが……70程度しかなかったそうだ」


「力尽くで取り押さえなかったの?」


「こう言ってはなんだが、入る人間を制限しているのは無駄死にを避けるためだけよ。力尽くで取り押さえるほどの義理もないの。……それに力尽くともなれば、こちらの監視員にけが人が出てもおかしくはないしね。いくら、弱い相手でも」


「それじゃあ、その侵入者さんたちは……」


「今頃魔物の餌になっているであるな」


「そういうな。確かに、あそこは魔物のレベルも高いが……」


「素直に100前後以上と言うのである。レベル70程度では目で追えないし、普通の装備では傷をつけることもできないであるよ」


「まあ、それもそうだな。さて、ここからが本題なのだが……」


「断るのである。今回は我々も時間が惜しい。命知らずのバカどもを探す余裕も、見つけたからといって出口まで送ってやる義理もないのである」


「……こう言うとき本当につれないな、リオンは」


「それだけ時間がないと言うことであるよ。今回の我々のメインターゲットはハンティング計画書にも書かれているとおり、【泥岩の亜竜】ストーンランナー、【毒尾の雌飛龍】フレイディア、【礫砂の隠者】ハーミットホーン、以上3匹である。それに狩れれば……と言うか遭遇すれば、【泥沼の王蛇】マッドマウスも片付けてくるのである」


「……本当に礫岩の荒野を一掃してくるつもりなのね。これで【火炎の王火龍】フレイブレスを加えれば満点だったのに」


「フレイブレスは魔黒の大森林との間を行き来しているので、ハンティング計画書には載せていないのである。それに、ヤツのレベルは190。いくら吾輩たちでも非常に厳しい戦いになるのであるよ。死人が出かねないほどにはな」


「……それはおすすめできないな」


「そう言うわけである。フレイディアも160で遭遇戦になったらマズい相手である」


「それはハーミットホーンもではないかな? ヤツのレベルは170だろう?」


「ハーミットホーンは明確な弱点があり、それをつけるのでどうにでもなるのである。怖いのはフレイディアの火球攻撃と毒針攻撃であるよ」


「……ハーミットホーンをどうとでもなると言われたのは初めてね。それで、件の無断侵入者を見つけた場合は?」


「警告を一度行い、それに従わなければ敵対行為と見なし処分である。ハンティング許可エリアに素人がハンターの警告も聞かず、威嚇までして入っていくなんて言語道断である!」


「……私としては、もっと穏やかに解決してもらいたいものだが?」


「簀巻きにでもして置いておくであるか? 魔物に食べられるか、ハンターに回収されるか。運の勝負であるよ?」


「できることならその方がありがたい。侵入者の背後関係も調べたいしな」


「承知である。……まったく、上手くいかないものであるな人生は」


「ケットシーに言われちゃおしまいだな」


 どうやら、2人の間で話はついたようだ。

 俺も詳しい話を聞いてみよう。


「すまない。遅れてきたから詳しい事情をあまり理解していないんだが……」


「まあ、道すがらリオンに聞いてもらってもいいのだが……聞かれたのならば答えよう。いいな、リオン?」


「この程度であるならばな。この話が終わったら早速出発になるのであるが」


「助かるよ。それで、侵入者って言うのは?」


「身なりからして、騎士崩れの冒険者っぽい20名近くの集団だったようだ。殺す覚悟があれば10人くらいは倒せたのだが、何分いきなり現れて、いきなり検問を破壊していったのでね……」


「いきなり現れた?」


「光魔法にそういうカモフラージュのための魔法があるのである。よほど無理をしないと、街や建物の近くでは発動できないのであるが……」


「相当無理したんでしょうね。侵入者の中にいた魔術師っぽいの3人が息切れしていたから」


「そんなに大変なんだな」


「暗殺にも使える魔法であるからな。いろいろと制約が多いのであるよ」


「で、そいつらはそのまま進入禁止エリアに突撃と」


「そういうこと。まったく、命知らずにもほどがある」


「で決まった処置案は、見つけたら動けなくして監視所のハンターに任せる、と」


「そうである。吾輩たちに監視所まで送っていく余裕などない故」


「……まあ、引っかかるけど了解だ。俺たちも遊んでいられる時期じゃないからな」


「目指してもらうのは、レベル150であるよ」


「また膨大な経験値を……」


「ネコ、無茶ってもんよ?」


「さすがに、ちょっと……」


 完全に腰が引けている俺たちに、意外なところから助言が入る。

 この街のギルドマスターからだ。


「いや、計画書に載っているモンスター3匹を仕留められればそれくらいいけるだろう」


「……そうなのか?」


「モンスターも、140にもなってくると馬鹿げたソウルをため込んでいるのさ。その分、再発生まで時間がかかる……と言うのが定説だが。フレイディアは1年後には復活しているから謎だ」


「もしかすると、複数のフレイディアがいて、縄張り争いをしているのかも知れませぬな」


「……怖い話は止めてくれ」


 ともあれ、例の侵入者の話も聞けた。

 俺たちはすぐに街門まで戻り、懐かしの死道に向けて車を走らせることとなる。

 ……今度は余計な妨害が入らなければいいのだが。

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