141.魔術師ギルドマスター登場
「うーん、案内できたけど、あんなもので良かったのかなぁ」
「十分過ぎにゃ。年少期向けの高度授業、精霊魔法に覚醒する現場、そして魔法学学長との熱の入った答弁。サービスしすぎだにゃ」
「そうか?」
「まあ、たまにしかあんな機会ないですしいいんじゃないですか?」
「悪い印象は持たれなかったみたいだしね。……ところでネコ、アンタ、今日はハンターギルドに行かなくていいの?」
「今日は休憩だにゃー。……いや、冗談にゃよ? 概ねのハンティングルートを提出したので、問題ないか確認してもらっているところにゃ」
「それなら、私たちもギルドにいったほうがいいんじゃない?」
「その必要はなしだにゃー。しばらくはギルドマスターたちが頭を悩ませる時間にゃ」
「だといいんだが……あまり長く休養している時間はないぞ?」
「お三方は焦りすぎだにゃ。さすがに12月一杯潰すわけじゃないから安心するにゃ」
「しかしだな……」
「マスター、お客様がいらしております」
「この話はまた今度だにゃ」
「……だな。そのお客様って問題なのか?」
「いえ、初めて見る方ですので……」
「わかった。俺が様子を見てこよう」
「吾輩もいくにゃ」
そして、家の入り口まで出て行った俺を待っていたのは従者と思わしき若い男性と、壮年の男性だった。
「にゃ、魔術師ギルドマスターだにゃ」
「魔術師ギルドマスター?」
「とっても忙しいお方にゃ。何のご用でしょうにゃ?」
「失礼、あなたがフート様ですかな?」
「ああ、フートだけど」
「おお、ようやく会えましたぞ! ハンターギルドに使いを出すこと数十回、総てハント中という返答だったのに!」
「ええと……とりあえず、中に入りましょう。家の中なら温かいですし」
「確かにそうですな。では、失礼させていただきます」
魔術師ギルドマスターと一緒に室内へと戻る。
お客様なので応接セットのある部屋に通したのだ。
「まずは自己紹介をば、私はアルフレード = ブラスキ、エルフの者です」
「エルフ? その割にはお年を召しているように見えますが……」
「偽装のマジックアイテムの効果ですな。……さて、私めはどうにもせっかちな性格でしてな。いきなりですが、本題に入ってもよろしいですかな?」
「ええ、どうぞ」
「失礼いたします」
このタイミングでパールがお茶を持って入ってきた。
寒い時期なので温かいお茶だ。
「……本題の前に、先ほどの女性。シルキーですな」
「ええ、そうですよ」
「……他にも小さな気配を感じる。これはブラウニーたちですか?」
「はい。よくわかりますね」
「ええ、まあ。しかし、すごい家ですな。シルキーとブラウニーが住んでいる家とは」
「……おかげで、自分たちで家事ができない弊害もありますが」
「ブラウニーもシルキーも家に愛着を持っていると、とにかく家事をしたがりますからね。今では食器洗いくらいしかできないのでは?」
「……それすらやるといたずらされます」
「……それはそれは」
お互い、一息をつくようにお茶をゆっくりと飲む。
温かいお茶が体に染み渡っていく感じがする。
「さて、本題の方に戻ってもよろしいですか?」
「構いません。どういったご用件でしょう?」
「フート殿はレベル7までの雷魔法の正しい詠唱句をご存じとか。それを教えていただきたいのですよ」
うーん、詠唱句か……。
教えてもいいんだけど、あれって悪用されると戦術魔法になっちゃうんだよなぁ。
「もちろん対価はお払いします。いかがですかな?」
「対価はいらないのですが……管理はしっかりと厳重にすることを条件にしていただけますか? イフリート・ブレスやホワイトアウトはまともな威力で発動してしまうと戦術級魔法になってしまうので……」
「……あの、イフリート・ブレスとホワイトアウトとは?」
「ああ、レベル6の火魔法と水魔法です」
「それはどういう……」
「今回の遠征で全属性のレベル7魔法を覚えてきたんですよ。使っていない魔法もありますけど」
「な……それは真なんですか?」
「ええ。試して見せる場所がないというのは問題なんですが」
「……魔術師ギルドにはかなり広い練習場がありますが?」
「残念ながらそれでも足りないと思います。効果範囲は平原ひとつとかになりますから」
「……それはさすがに無理ですね」
「威力的にも施設を破壊しかねませんからね。詠唱句だけを教えるのは問題ないんですよ」
「……本当に教えてもらってよろしいのか、不安になりますな」
「なので詠唱句は古代文字……そうですね、超古代神代文字は読めますか?」
「え、ええ。もっとも、読めるのは、魔術師ギルドでは私も含め2~3名、一部を読める者は若干名でしょうか」
「それなら問題ないでしょうね。暗号化はしますか?」
「……さすがにそこまでされてしまうと、解読ができなくなってしまいます」
「それでは超古代神代文字で。書く紙はどうしましょう?」
「そちらは私どもで用意してあります。……いや、念のため20枚以上持ってきてよかった」
……まあ、本来なら雷だけをならいに来たんだものなぁ
よく用意していたなと思うよ。
「では、イフリート・ブレスから。魔法名も超古代神代文字で?」
「よろしくお願いします。魔法名すら知られたくないので」
「了解です。<……イフリート・ブレス>っと」
「もう書き上がりましたか?」
「はい。確認しますか?」
「念のため。……ふむ……これがレベル6の詠唱句……最後が魔法名なのは一緒なのですね」
「ええ。では、次に……」
「その前に。<精霊よ、姿を隠せ>」
魔術師ギルドマスターが一言、詠唱すると文字が総て消え去り、紙の色が変わってしまった。
……ふむ、姿隠しの魔法か。
「万が一にも悪用されては困りますからな」
「ですね。では次に行きましょう」
そうして、俺が詠唱句を書いて魔術師ギルドマスターが詠唱句の内容を確認し、姿隠しの魔法で消し去る。
それを繰り返し五属性、総ての魔法を書き終えた。
「これで総てですな」
「ええ、そうですね……ちなみに、レベル8の雷魔法も使えますが?」
「興味は引かれますが止めておきましょう。どんな結果をもたらすかわかったものじゃない」
「そうですね。……そうそう、今書いたのは精霊魔法の詠唱句ですが、基本的に元素魔法でも同じ詠唱句で発動するはずです」
「承知いたしました。これらの資料は、魔術師ギルドの禁書庫の最奥に封印させていただきます」
「そこまでですか」
「そこまでですよ。悪用されれば戦争の結果が変わります」
「ですね、それでは管理をよろしくお願いします」
「もちろん。……見えない警護を多数連れてきていますので暗殺への対策もバッチリですよ」
そして、魔術師ギルドマスターは大喜びで帰っていった。
やっぱり新しい研究材料は嬉しいのだろう。
「にゃ、本当に影の護衛が山のようについているにゃ」
「そうなのか? 俺にはわからないが……」
「フート殿はまだまだ経験が足りないにゃ。慣れればわかるようになるにゃ」
「だといいんだけどな」
「フートさん。晩ご飯、できたみたいですよ」
「……それじゃ、晩ご飯にするか、リオン」
「はいですにゃ」
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