国王陛下と学校のいま

136.国王陛下、来襲

「はー、やっぱり我が家は落ち着くねぇ……」


「そうですねぇ……。でも、のんびりできるのは長くて2週間ですか」


「仕方がないわよ。私たち、弱すぎるもの」


「人間やめてるレベルだけどな」


「相手は人間じゃないからね」


 軽口をたたき合うのは都に帰ってきてから4日後の午後だ。

 俺たちと国王陛下の面会があった翌日には、今回の反逆の首謀者……ジャック = アンスランだったかな? そいつも無事捕まった。

 余罪の追及をすることもなく、反逆罪だけで十分死罪になると言うことで、2日後には裁判が開かれた。

 まあ、罪状はあまりにも明らかだった……というか、国王陛下たちがそういう筋書きにしてあったので即刻斬首刑に処される事になった。

 リオンは俺たちに立ち会うかどうかを聞いてきたので、俺だけ立ち会おうかと思った。

 でも、ミキとアヤネも立ち会うことを希望した。

 なんでも俺に任せるのはいやだそうだ。

 結局俺たちは茶番とも言える裁判の後、斬首刑まで見届けて帰ってきた。

 あと、知らない顔がもうひとり斬首刑にされていたが、元騎士団長だった男だそうな。

 彼が独断で王国軍旗を貸し出した元凶だったらしい。

 それだけなら、斬首刑にはならないのだが、いろいろ調べた結果、さまざまな罪が積み重なり斬首刑となったらしい。

 ……そういえば、あいつだけ弁明のときにいろいろ言っていたな。

 さすがに5人分の斬首刑を見た女性陣は気分を悪くしたため、ここで俺たち3人は帰りリオンはひとり最後まで裁判を見ていくそうだ。

 くだらない温情や貴族の力関係を意識した減刑を許さないため、だそうな。


「……やっぱりリオンは、ああいうの慣れてるのかな」


「切り落とされた首も晒されていましたしね」


「やっぱり、ここは異世界だわ」


 3人で常識の違いを実感する。

 なお、そのリオンだが、ハンターギルドに何度も行って今後の計画を詰めているそうだ。

 俺たちも手伝おうかと言ったが『素人は邪魔なだけにゃ』と言われたので、のんびり家で過ごしているというわけだ。

 何も言わずに出かけると、それはそれで怒られるし。

 俺たちは子供か。


「あの、ご主人様」


「ん? パール、どうした。呼んでもいないのに姿を現すなんて珍しいな」


「それがお客様がいらっしゃっているのです。どうすればいいかと……」


「うん? 上がってもらえばいいんじゃ?」


「普通のお客様ならそうするのですが……」


「フート、ひとまず門まで様子を見に行った方がいいんじゃない? 家精霊のパールがここまで慎重になるってよっぽどよ?」


「だな。それじゃあ、行ってく……」


「3人で行きますからね」


「鎧下はともかく神器装備でね」


「……はい」


 そういうわけでお客を迎えるとは思えない姿で門まで向かったが、そこにいた相手は……国王陛下だった。

 国王陛下の他には内務卿と軍務卿もいる。

 そりゃ、パールも慎重になるな。

 俺と国の微妙な関係も知ってるだろうし。


「数日ぶりだの。フート、と言ったか」


「はい、国王陛下」


「今日は国王陛下は止めてくれ。我が名はエイナルだ。よろしく頼む」


「えーと、エイナル陛下?」


「陛下もいらぬ。エイナルさん程度で良いわ。敬語もいらぬぞ。フランクに喋ってみたい」


「はぁ……ではエイナルさん、どうしてここに?」


「うむ、其方らと話したくてな。ハンターギルドに行けば、お主たちの家はハンターギルドの真裏と聞くではないか。直接足を運んでみようと思ってな」


「……ええと?」


「すまぬ、お前たちを呼び出すように伝えたのだが……」


「この家を見てみたいとどうしても聞かなかったのだ」


「はぁ……まあ、ここでは寒いでしょうし家の中へどうぞ」


「おや、上がってもよろしいのかね」


「大人数は困りますが、エイナルさんと内務卿、軍務卿の3名程度なら」


「済まぬな。お前たちも来い」


「はっ」


「わかりました。……ですが、こだわった理由も聞かせていただきますぞ」


「わかっておる。……おお、ここがミライ様の居住していた家か」


「……ミライ様?」


「私が前に仕えていた赤の明星様でございます」


「我らが国の中興の祖としても名高いミライ様だ。……どうやら、ここが住処だった事は徹底的に隠蔽していた模様だが」


「そのようですな」


「そういうわけだ。今の話は聞かなかったことにしてくれ」


「わかりました」


「「御意」」


「さて、本題だったな。其方は貴族がなくとも国が回ると言ったそうだな。どのようにすればそうできるのか、それを教えてはもらえまいか?」


「陛下!」


「なにもすぐにとは言わぬよ。だが、国のあり方というものは変わっていく。そのひとつの可能性として聞いておくのも悪くはないぞ?」


「それは……」


「確かにそうですな」


「軍務卿……」


「我らが守るは国。どのような国になる可能性があるのかは聞いてみたい」


「それでは、民主主義という考え方をお話ししましょう」


「ほう、民主主義とな?」


「ええ、ちなみに今の王と貴族による統治は絶対王政と言います」


「ふむ、確かに。我が決めたことに逆らえるものはいないな。……表向きは」


「まあ、裏の話はいいでしょう。絶対王政のいいところは意思決定が早いところ、悪いところは民意が反映されていると限らないことかな」


「何だと! これでも陛下は……」


「よいのだ、内務卿。本当に民意が届いているなら、スラム街があのような規模になるはずないのだからな」


「しかし……」


「それで、民主主義とはどういうものなのだ?」


「民主主義は……」


 俺はこの後、ミキやアヤネのサポートも受けながら覚えている限りの話をした。

 ……はて、なんで俺は民主主義の考え方を理解しているのだろう?

 自分のことはほとんどすべて覚えていないのに。


「……なるほど。民自らが国を担う、か」


「しかし、今の民衆にはそのような事はできませぬぞ」


「ああ。だから、俺は代わりにギルドを代表者にしようとしていた」


「ギルドをとな?」


「各ギルドは職人や商人、冒険者、ハンターと言ったさまざまな人間の集まりだ。それぞれが利害調整できれば国も成り立つだろうよ」


「……面白い考え方だ。そうなれば我はいらぬな」


「……あー、それなんだが。立憲君主制って言う制度があってな。国王はいるけど儀式とかだけを行い、国政には基本的に口を出さないって制度もあるんだ」


「なるほど。目指すべきはそこだな」


「そこは俺の判断じゃないな。それにできたとしても百年単位で先の話だぜ?」


「わかっているとも。それでも国を変える必要性と可能性は見えた。礼を言うぞ」


「礼を言われるほどじゃないんだけどね。……それで、用件はこれだけですか?」


「いや、内務卿からも話があるそうだ」


「うむ、前にお願いした学校の主な見学者が決まったので伝えにきた。財務の実務者である財務局長、魔術師の長である宮廷魔術師長、国軍を統べる軍務卿、そして私内務卿だ」


「わかりました。……ただ、当日は平民が着るような服で来てくださいね。さすがにそんな豪華な服では学生が萎縮するので。元はスラムの子供たちって事は忘れないでもらいたいです」


「うむ、承知した。我々も平民に紛れるための服装は用意してあるので大丈夫だ」


「それで、いついくんです?」


「急な話ですまないが、明日は大丈夫だろうか?」


「構わないですよ。明日ならまだ旅にも出ないだろうし」


「重ね重ね助かる。それではまた明日。ハンターギルドに集まればよろしいかね」


「ええ。そのときに、自分たちが乗る魔導車も用意しておいてもらえると助かります。こっちの魔導車は満員なので」


「承知した。……それでは陛下。そろそろ」


「わかっている。それでは、またよろしく頼むぞ」


「ええ、それでは」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る