123.対【氷牙の狐王】エイスファン戦ブリーフィング

 さて、エイスファンを討伐すると言うことで、一度白馬の聖域キャンプを目指すことになった。

 なったのだが……。


「吾輩の出番がなくなったのにゃ……」


「テラやゼファーの鼻の方が信頼できるしねぇ……」


 というわけで帰り道を先導してくれるのはテラとゼファーになった。

 リオンが案内するよりも確実だし速い。

 そういうわけで前回はほぼ一日がかりだった移動が、約半日という時間ですんでしまった。


「……吾輩の先輩としての威厳……」


「ネコに今更そんなものはないわよ。ほら、ハウスに入るわよ」


「ああ、待ってにゃ!」


 のんびりしていても仕方がないので、さっさとハウスを出してその中で休むことにする。

 それぞれが装備を解いて、のんびりした雰囲気になった。


「……さて、一息ついたところで【氷牙の狐王】エイスファンのブリーフィングにゃ」


 その言葉に、全員が気を引き締めてテーブルに集まる。


「……まず、謝らなければならないのはほとんど情報がないことにゃ」


「……どういうこと? 情報がある程度には戦っているんでしょう?」


「何度も討伐隊が編成されたことがありましたにゃ。でも、エイスファンを討伐したことはありませんにゃ」


「……詳しく話を聞こうか」


「ですにゃ。エイスファンが初めて歴史に登場したのは約100年前ですにゃ。その後、ハンターギルド、あるいはハンターギルドと冒険者ギルド、魔術師ギルドなどの複数ギルドによる合同討伐隊などを編成したことがありましたが、いまだに討伐された記録が残っていないのですにゃ」


「誰かがこっそり倒したとかはないの?」


「それこそ不可能ですにゃ。ひとりでエイスファンのところまで行くこと自体が命がけになりますにゃ」


「……あの、私、エイスファンの生息地についていやな予感がしてきたんですが……」


「……正解ですにゃ。エイスファンはこの白馬の聖域キャンプからさらに2日ほど移動した場所、氷樹の雪原にいますにゃ……」


 リオンのその言葉に、全員の意気がどん底まで落ちる。

 ただこれではブリーフィングが進まないので、意見を言っていこう。


「氷樹の雪原……だったか? そこまで移動するにはどうすればいい?」


「そこにたどり着く道は簡単ですにゃ。途中までは氷狼どもが襲ってくる可能性がありますが、途中からはそれもなくなりますにゃ」


「代わりに腰くらいまである雪の中を進むとかないわよね?」


「……そこまでではないですにゃ」


「……つまり深雪のなかを進む必要はあるんですね」


「楽にはならないな……」


 全員がひとつため息をつき、ブリーフィングを再開する。


「それで、移動日程はどうなるんだ?」


「移動ですが、普段は一泊二日なのですが、今回は二泊三日で目的地まで行きますにゃ」


「大丈夫なの? 一泊増やして?」


「大丈夫ですにゃ。そもそも一泊で行くのが強行軍なのですにゃ。安全が担保できる……というか、広いキャンプ地が一カ所しかないのですが、ハウススキルにはそんなの関係ないのですにゃ」


「ああ、確かにねぇ。魔物の襲撃は?」


「深雪の地域まで入ってしまえば、氷狼も近づかなくなりますにゃ。魔物の襲撃はありませんにゃ」


「それはまた……便利な地域だな」


「代わりに気温は常に氷点下で、油断していると凍死ですがにゃ」


「……それを言わないでください」


「さて、地域についてのブリーフィングはこれくらいでよろしいですかにゃ?」


「ああ。なにもない白銀地帯だってことはよくわかったよ」


「それがわかってもらえれば十分にゃ。【氷牙の狐王】エイスファンの情報に移りますにゃ」


「待ってました! どうすればいいのかしら?」


「エイスファンの近接攻撃は爪による切り裂きがメインですにゃ。これは盾で受けてもらって構いませんにゃ」


「構いませんってことは逃げた方がいい技もあるわけね」


「はいですにゃ。エイスファンは狐のモンスターですにゃ。宙に飛び上がって尻尾を叩きつけるモーションが見えましたらなんとか避けてくださいにゃ」


「避けられなかったらやばい?」


「雪に埋まって抜け出るのが大変ですにゃ」


「……赤熱化で出てくるしかないわね」


「その手がありましたにゃぁ。まあ、ダメージは……堅牢を3割削られる程度しかないので恐ろしくはないですにゃ」


「へー、攻撃力はなさそうね」


「あとは尻尾を横に振り回すパターンがありますにゃ。こっちは受けると大ダメージなので、盾でがっちりガードするか避けるかしてくださいにゃ」


「了解よ。私はそれくらい?」


「まだまだですにゃ。物理攻撃はその程度ですが、魔法攻撃がバンバン飛んできますのにゃ!」


「ちょ! それ、フートの得意範囲!!」


「まずは人間に穴を開けるサイズの氷柱攻撃が基本ですにゃ」


「基本じゃない!」


「それから、空中一面に氷柱を発生させて降り注がせる攻撃。これは近接職の吾輩とミキ殿も回避ですにゃ」


「はい!」


「……とまあ、近接職が注意しなければいけない攻撃はこれくらいにゃ」


「つまり俺はまた別にあると」


「はいですにゃ。まずは幻影転移攻撃。後衛の背後に一瞬だけ転移して切り裂き攻撃をしてくるにゃ」


「……それはかわさなきゃな」


「多分、獄炎の盾でガードすれば逆にダメージを与えられるにゃよ?」


「熱に弱すぎないか? エイスファン」


「まあ、そういうモンスターにゃ。で、他には高速氷柱弾が連射されることがありますにゃ。魔力シールドがあれば受け止められますが、ダメージ注意ですにゃ」


「獄炎の盾……」


「無傷で終わりますにゃ」


「……なあ、先にラーヴァトータスに行ったのって対策としては最高すぎないか?」


「吾輩だってお三方がこんな都合のいいスキルを覚えるとは思わなかったにゃ!」


 なんだよなぁ……。

 モンスターを倒したときに入手できるようになったスキル。

 モンスターの特徴を模したスキルと言えばそれまでなんだが……便利すぎるんだよな。

 おそらく、エイスファンを倒せば氷に関したスキルが手に入るんだろうが、なにか作為めいたものを感じる。

 そもそもソウルパーチャス自体が作為的なんだが……考えるだけ無駄か。

 移動は、明日の朝からと言う事になったので今日はゆっくり休んで移動に備えよう。

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