都でのんびり休養中?
鹿肉狂騒曲
92.一時街へと帰還
『討伐の経緯はよくわかった。よくやってくれたな、リオン』
「はい、お三方もがんばってくれましたにゃ~」
『で、興味ついでに聞いてみるんだが、その角とやらは結局なんだったんだ?」
「どうやら闇の軍勢を召喚するための外部器官……のようなものだったみたいですにゃ。きった後を触ってみましたが、内臓系のようなぶよぶよした感触でした故」
『そうか……で、そんな危険なものはドロップしてないんだろうな?』
「装備品に混ぜると、敵対者に幻覚をみせるという角はありましたが……」
『そんなものフートに頼んで永久封印だ!!』
「フート殿のマジックボックスが都合のいい封印場所になってるにゃ……」
『……そういえば、魔玉石の効果は?』
「こちらも敵対者を混乱させる効果ですにゃ。試してみたところ、数秒間の間、攻撃できなくなるみたいですにゃ」
『数秒間か……大きいな。装備者は誰だ?』
「フート殿ですにゃ。混乱効果の対象が魔力値反映だったため、即決でしたにゃ」
『ならいいか。……ちなみに、肉とかドロップしてないのかよ』
「ドロップしておりますぞ!! とても美味な鹿肉ですにゃ!!」
『なぁ、帰ってきたら俺たちにも振る舞ってくれねぇ?』
「その交渉は食料番のミキ殿と交渉ですにゃ。我がパーティの食糧事情はすべてミキ殿が握ってますにゃ」
『くっ……わかったよ。オークションの準備もあるからさっさと戻ってこいよ』
「はいですにゃ。それでは通信終わりですにゃ」
吾輩は前線基地にある通話機を切り少々ため息をつく。
鹿肉、ごちそうするのはいいのだけど、それでもなくならないだろうな、と。
「……リオンさん。、その鹿肉ってそんなにうまいんですか?」
「……ああ、話を聞かせてしまった皆には酷だったのである」
前線基地には灰色の森からモンスターがあふれてこないように見張っているハンターや冒険者がいる。
こういう場所ではハンターも冒険者も仲がいいのに、街ではギスギスしているから不思議なのにゃ。
「一応、念のため聞いておくのであるよ。バイコーンやナイトメアホーンによるスタンピードの兆候はないのであるな?」
「はい。ここから観測できる灰色の森は至って平穏です。前線キャンプで数日すごした連中もいましたが、そいつらも見かけなかったそうです」
「そうか……ということは、ダークトライホーンの現れる前の生態系に戻ったと考えるのがベターであるか」
「そうっすね。ハンターギルドのマスターも冒険者ギルドのマスター同じ考えでした。できるだけ近いうちに山狩りはするそうですが」
「わかったのである。……ああ、これ余った精神耐性薬である。数は減ったが返却するのであるよ」
「意外と減ってないっすね」
「思ったよりも短期決戦になったと言う事である。逆に長期戦になっていたら撤退していた可能性が高い」
「……やっぱりリオンさんでも危険と隣り合わせなんすね」
「当然だな。うかうかしてたらゴブリンにすら寝首をかっ切られる、それが吾輩たちであるよ」
「それもそうでしたね」
「そういうことである。……さて、長話に突き合わせてしまった諸君に差し入れであるよ」
「差し入れ?」
「ミキ殿が練習で作った鹿肉の串焼きがここにある。ひとり一本ずつは確実にあるから落ち着いて並ぶのである」
「「はい!」」
そういうわけで、食べきれないお肉のお裾分けをしたら、皆泣いて食べてたにゃ。
……最近、吾輩たちはミキ殿の料理の腕前にならされすぎていて舌が肥えすぎているのかも知れないにゃ。
それもこれもフート殿のためであろうから……恐るべし、ミキ殿。
「それでは吾輩は出発するのである。くれぐれも監視をよろしくたのむぞ」
「「はい!!」」
うん、いい返事にゃ。
やっぱり、人生うまい食べ物は大事ということにゃ。
……今度からこういう場所に行くときは差し入れを忘れないようにするにゃ。
*******************
「うーん、帰り道、驚くほどなにもなかったな」
「一応都までの道のりにゃ。驚くほどの事態があっても困るにゃよ」
「それもそうか。まずはハンターギルドか?」
「その前に……ミキ殿、ギルドマスターが鹿肉の料理を食べたいって言ってるにゃ。なにかお裾分けしてあげてほしいにゃ」
「そんなことですか。それなら、鹿肉のブラウンシチューがありますよ。……そうだ、どうせなら他のギルドのマスターさんたちも呼んであげては?」
「……一大騒動になりますにゃよ?」
「そうですか。私の腕がどの程度か試したかったのに、残念です」
「ともかく、このままハンターギルドに直行にゃ!」
リオンの車は屋敷には戻らず、ハンターギルドに直行する。
約1カ月ぶり? くらいのハンターギルドは……あんまり変わってないかな?
併設している食事処にいる先輩さんが入れ替わっているくらいで、他に変わったところはなさそうだ。
「あ、お帰りなさい、皆さん」
「ただいま、ゲーテ」
「ただいまです、ゲーテさん」
女子勢と仲のいいゲーテも相変わらず受付をがんばっているようだ。
……ハンターギルドの受付ってそんなに必要なのかな?
よく考えたらゲーテ以外にひとりしか立っていないし、ゲーテがいない日もふたりしか立ってるところを見たことないし。
「お話は聞いてますよ。ギルドマスターとの面会ですね」
「ええ。いつになるかわからないのに、よく知ってたわね」
「受付全員に通達されてましたから。それではご案内します」
ゲーテの案内でよく見知った扉をくぐる。
そこにはいつものブルクハルトさんとユーリウスさんがいた。
「ギルドマスター。皆様をお連れしました」
「おう。ご苦労だったな」
「それでは私はこれで……」
「あ、ゲーテさん。ちょっと待ってください」
「はい、なんでしょう」
「今回のハントの報酬……というかドロップアイテムを調理した料理があるんです。一緒に食べていってください」
「な、ミキ……」
「それくらいかまわないですよね、ブルクハルトさん?」
「……かないませんね。多少の役得として認めてあげましょう」
「……わかった。ちなみに、俺の分が減ることはないんだろうな?」
「多分、食べきれないくらいには」
「よっしゃ! さっさと報告を終わらせて飯だ飯!!」
「……まったく、この人は……」
「それでは、今回のダークトライホーンについて吾輩から説明いたしますにゃ」
リオンからダークトライホーンの特性や能力についての説明が行われた。
時折、俺たちが補足する場面はあったが、ほぼリオンの説明どおりだ。
「……近隣の同系種を配下につけ、ひとつの群れとなすモンスターですか……」
「同族をまとめ上げるだけなら『炎爪』や『獄牙』みたいなのがいるんだがな」
「今回のはそんな生やさしいものではありませんにゃ。群れの数も半端ではなかったですし、あれが攻め入ってくるとなれば幻惑の能力を含め、相当の被害が予想されましたにゃ」
「だなぁ。フェンリルどもみたいに縄張り内を走り回ってるわけじゃないだろうし……って、フート、お前のフェンリル縮んでないか?」
「あー……なんだか【縮小化】っていうスキルを覚えたみたいでな。この大きさまでなら小さくなれるようだ。俺が初めて会ったときの『炎爪』や『獄牙』もこのサイズだったし」
「ほう、『炎爪』や『獄牙』と同じサイズ……いえ、ちょっと待ってください。新しくスキルを覚えたとも言いましたよね。それって、まさか……」
「……フート殿のレッサーフェンリルはフェンリルに進化しましたにゃ。それも『アースライトニングフェンリル』と『フェアリーウィンドフェンリル』というおそらく新種のフェンリルににゃ」
「……俺、情報だけで腹が一杯になってきたぞ」
「……私もです」
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