86.帰還後の一幕

 白馬の聖域キャンプで一夜を明かした翌日、再び前線キャンプまでテラたちにまたがり戻る。

 前線キャンプまで戻ったとき、辺りは真っ暗だったがふたりは無事の帰還を喜んでくれた。


「お疲れ、その様子なら収穫はあったようね」


「ありましたにゃ。ただ、その収穫をどう活かせばいいか……」


「とりあえず疲れていると思いますので、お風呂にゆっくりつかってきてください。汚れ自体はクリーンでさっぱり落ちているとしても、気分的なものは違うでしょうから」


「そうだな。そうさせてもらうか」


「吾輩はシャワーだけでいいですにゃー。お風呂は苦手ですにゃ」


「ネコってお風呂嫌いなの?」


「一族の習性に近いですにゃ。好きな者は好きですけどにゃ」


「そっか。じゃあ、リオンが先にシャワーを浴びていいぞ」


「お先にですにゃー」


 タオルを抱えて風呂場へ直行するリオン。

 さて、今回の収穫はどう話したものか……。


「その様子ですと、あまりいい話では無いみたいですね」


「ああ、いい話じゃないな」


「……私たちも覚悟を決めないといけませんね、アヤネさん」


「そうね。まったく、楽なモンスターハントってないものかしらね」


 そのままリビングで少し話をしているとリオンが戻ってきた。

 入れ替わりに俺が風呂に入ることになったわけである。


「ふぅ……やっぱり風呂に入れると落ち着くなぁ」


 死道にいた頃はシャワーだけですごしていたんだったか。

 あとは俺のクリーン頼み。

 便利だよなぁ【生活魔法】。

 そんなことを考えながら湯船につかること十数分。

 身体などもきっちり洗って(先にクリーンをかけておいたから気分的なもの)風呂を出た。

 風呂を出たところには、新しい服が用意されていて……多分ミキのおかげだろうな。

 後でお礼を言っておこう。


「あ、戻ってきましたにゃ」


「久しぶりのお風呂はどうでしたか?」


「さっぱりしたよ。ありがとう、ミキ」


「はい、どういたしまして」


「……さて、それじゃあその、仮称ダークトライホーンだっけ? そいつをどうやって討伐するかの会議といきましょうか」


「待ってください、アヤネさん。それは明日以降にしませんか?」


「え、そう?」


「吾輩もそれに賛成だにゃ。今回のモンスターはとにかく数の多い魔物に守られていますにゃ。可能であれば都に応援をお願いしたいですにゃ」


「応援ってどれくらいの?」


「バイコーンやナイトメアホーンに対抗できるハンターにゃから……Eランク上位からDランクくらい、レベルにして60前後ですにゃ」


「なあ、それくらいのハンターってどれくらい都にいるんだ?」


「……聞いてみないとわかりませんにゃぁ」


「……まあ、明日、出たとこ次第ね」


「ですにゃあ」


「それじゃあ、フートさんとリオンさんは晩ご飯まだですよね? 食べますか?」


「軽くなら食べられるかな。さっきテラに乗りながら保存食を食べてきたし」


「右に同じですにゃ。できれば暖かいスープを所望しますにゃ」


「スープですね。フートさんもそれでかまいませんか?」


「ああ、それでいいよ」


「じゃあ待っていてください。適当にあるものを温め直してきますから」


 そういえば、ミキのアイテムボックスは調理済み食料が大量に保存してあったな……。


「こういう使い方もあるんだにゃぁ。アイテムボックス」


「なんならリオンも取ってみれば?」


「そうですにゃぁ。吾輩も低レベルなら覚えられるみたいですし、今度覚えてみますにゃ」


「むぅ、やっぱり個人で覚えられるものと覚えられないものがはっきりしているのか」


「フート殿が覚えられないスキルはなにかあるのですかにゃ?」


「元素系魔法が全滅だな」


「……それは精霊系魔法を覚えているからにゃ……」


 覚えられるスキルと覚えられないスキルの話をしている間に、ミキも準備ができたようで、アッツアツのポトフを運んできてくれた。

 まだ冷える時期ではないが、テラとゼファーに乗って走り続けるのは結構身体の芯にくるからこういう食事はありがたい。

 ミキたちは食事を終えているらしく、ほんの少し付き合う程度に食べていた。

 ポトフを食べ終わったら就寝、久しぶりにミキの暖かさを感じながら寝るのはなんだかくすぐったくもあり嬉しくもあり……。

 そして、翌朝。

 リオンがゼファーを貸して欲しいと言い出した。


「ゼファーの足でなら前線基地とこことの間を一日で往復できますにゃ。お願いしますにゃ」


 ゼファーの様子を見ると、風魔法と回復魔法を食べさせてくれるならいいよ、と書いてあったので満足するまで食べさせてやる。

 魔法を食べて満足したゼファーに乗り、リオンは駆け出していった。


「……でも、いくらゼファーの足が速いと言っても一日で往復できるのでしょうか?」


「リオンが軽いからいけるんじゃない?」


「……ああ、なるほど」


 なんとなく納得した俺たちはハウスの中で思い思いにすごす。

 ……というか、リオンが結果を持ち帰ってくるまで手持ち無沙汰なので、それぞれが暇つぶしをしている感じだ。

 3人で、それもゼファーもいない状態で狩りに出てもあまりおいしくないため、ハウスで大人しくしているのである。

 そして、夜の帳が落ちた頃、ついにリオンが帰ってきた。


「お三方、仮称ダークトライホーンですが、ハンターギルド内での呼び名はダークトライホーンに正式決定ですにゃ。そうして、吾輩たちだけで一当てすることになりましたにゃ」

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