77.灰色の参道

 山道を登ることしばらく、俺はこの道がやけに整備されていることに気がつく。

 普通ならもっとこう、うっそうと茂った森の中を歩くと思ってっいた。

 なのに、足元には木々があるがそこまで登るのに邪魔にはならない。

 困ったときのリオン先生に聞いてみよう。


「リオン、さっきから通っている道なんだが、やたら歩きやすくないか?」


「おや気がついたかにゃ? ここは灰色の参道という、灰色の森へ出入りするものがよく使う道なのですにゃ」


「へぇ、そんなのもあるのね」


「まあ、今日のキャンプ予定地周辺までしかいけませんがにゃ」


「そこから先は本格的な林道ですか?」


「はいですにゃ。何分、魔物の出現傾向を知るといっても入り口付近で基本的には事足りますからにゃ。年に何回かは深部の方まで調査しますが」


「へえ……またテラとゼファーがモンスターを引っかけてきた。数は……たくさん。ウルフ型みたいだ」


「この辺でウルフというとハイミミクリーウルフかダイアー・ウルフですにゃ。集団行動をしていると言うことはダイアー・ウルフ一択ですかにゃ」


「初手はやっぱりサンダーレインか?」


「威力は抑えめでお願いしにゃす」


「わかったよ……効果範囲に入った! サンダーレイン!」


 先ほどよりも控えめな、だが数の多い稲妻がダイアー・ウルフたちを襲った。

 それによってダイアー・ウルフたちはほとんど全滅。

 後方にいた数匹だけが難を逃れるかたちとなった。

 そして、そのダイアー・ウルフたちは逃げようとしたが……。


「かかってきなさいよ、こらぁ!!」


 アヤネの気合い一閃、『威嚇』の効果で逃げ足が止まってしまった。

 そこを見逃すミキではなく、一匹一匹確実に突きや蹴りで倒していく。

 結局、ダイアー・ウルフは全滅することとなった。


「お疲れ様でしたにゃ。今回の講評にゃ」


「ああどうだった?」


「フート殿はいい線ですにゃ。あとはもう少し効果範囲の増減をできるようになるといいですにゃ」


「了解だ。あとは……単体攻撃の場合だな」


「そこは心配ですにゃぁ。次、アヤネ殿も満点ですにゃ。『威嚇』でうまく足止めするのは見事でしたにゃ」


「それほどでもあるわよ?」


「最後がミキ殿ですが……ミキ殿は80点と言ったところですかにゃ。もう少し力を弱めてもダイアー・ウルフ程度ならなんとかなりますにゃ。それよりも万一に備えて防御に意識をさいた方がいいですにゃ」


「防御にですね、わかりました」


「それではさくさくっと、ドロップアイテムを回収して次に行きますにゃ」


 ドロップアイテムの総数は全部で28個だった。

 大物を引き連れてきてくれた二匹をなでてやると、さらにやる気を出したようで、また森の奥へと消えていった。


「たはー、あの二匹、少しがんばり過ぎにゃ」


「俺たちならどうとでもしてくれるって信頼の証だろう?」


「そうなのですがにゃ。……まあ、ソウル集めですし問題ないですかにゃ」


「そうそう。この辺じゃ、俺の魔法で一発だしな」


「雷無効の魔物も一種類いるのですが……そいつは群れをなさないから連れて来ないでしょうにゃ」


「そっか。そういうのとも戦って見たいんだけどな」


「ピットフォールにアースニードルでおわるにゃ」


「……切ないな」


 そんなこんなで魔物の襲撃……というか魔物を襲撃し、順調にソウルを稼いでいく。

 それを繰り返しながら進んで行くことで開けた場所に出た。


「ここが本日の目的地、灰色のキャンプ地ですにゃ!」


「……ねえ、まだお昼を食べたばかりよ?」


「吾輩だって、こんなにサクサク進むとは思わなかったのにゃ」


「俺の範囲魔法を禁止してみるとか?」


「それは数に押されて危険だから絶対にダメにゃ」


「難しいところですね」


「「オフン」」


「それで、目的地には着いたけど、これからどうするの?」


「もう少し先に進んでソウル集めにゃ! ここから先は空の敵もいるから注意にゃ」


「了解。……でもサンダーレインって地上も空中も関係ないよな」


「それは言わないほうが……」


 ネコの勧めに従い、キャンプ地西側の森に入っていく。

 テラとゼファーはまた先行してモンスター集めだ。


「……そういえば、フート殿。【テイム】スキルって効果のほどはどうなのですかにゃ?」


「どうとは?」


「吾輩、あのスキルは契約を結んだ魔物の力も使えるようになると聞き及んでいるにゃ。でも、フート殿が力持ちになったりとかはしてないにゃ」


「ああ、それな。俺も気になって検証してみたんだが、どうやら一時的にしか大量の能力を借りることができないみたいなんだ。多少の増加は常にしているみたいなんだけど」


「そうなのですかにゃ」


「ああ。だから、俺が一時的に速く走ろうと思えば、リオン以外よりも速く走れるぞ。2~3分しか効果は持たないけど」


「それでもいざというときは十分な効果ですにゃ。ということは、その逆も……?」


「ああ、そうだな……って、ん?」


「どうしたのですかにゃ?」


「ゼファーから魔力のつながりを感じる。どうやら戦っているみたいだが……」


「大変ですにゃ。すぐ追いかけますにゃ!」


「いや、もう終わったっぽい。テラと一緒に戻ってきているから、一緒に戦場跡に行ってみよう」


 というわけで、やってきた戦場跡。

 そこは風で何本もの木々がなぎ倒された凄惨な現場だった。


「ゼファー殿はなにと戦ったんですかな?」


「オンオン」


「……フート殿?」


「翼のある人間ぽいやつだって」


「ということはハーピーですな」


「で、この状況は?」


「オウン……」


「空からチクチク攻撃を繰り返して全然ついてこないから、魔力を借りて根こそぎ倒した、と」


「「ワオン」」


「ドロップアイテムも集めてくれたようだな」


「ハーピーのドロップは『ハーピーの風切り羽』に『ハーピーの卵』ですが……卵は砕けたでしょうな」


「「ワフン……」」


「まあ、責めているわけじゃないさ。危険を避けるための最善の行動をとったんだからそれでよし!」


「「オン!」」


「ま、仕方ないわよね」


「テラちゃんとゼファーちゃんが怪我をするよりずっとマシです!」


「本当は空戦の練習もしたかったのであるが……まあ、今度に回すのにゃ。それより、ここで起きた異常事態を察知して魔物が待避してしまったようであるぞ」


「確かに、気配がないな」


「今日のところは切り上げて早めに休むのであるよ」


「そうするか」

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