次なるハントへ

74.強くなるためのハントへ

1日2回更新は今日で最後になります。

明日からは1日1回朝7時頃の更新となります。

寝坊したら8時近くなるけど、そのときは許してくだされ。


*******************


 学校が開校してからの半月はめまぐるしく過ぎ去っていった。


 一番大きかったのは、学校開校前に冒険者ギルドに査察が入り、半月以上に渡る内偵で不良冒険者や不正を行っていた職員がまとめて逮捕されたと言うことか。

 ハンターギルドもそうだが、冒険者ギルドも国をまたいで活動している組織らしく、今回は冒険者ギルドマスターのパーティメンバー、つまり邦奈良の冒険者ギルド重鎮だけではなく、冒険者ギルドの総本山とも呼べる場所からの査察も入ったようだ。

 そして、これを機にA級冒険者パーティが複数パーティ邦奈良の冒険者ギルドに所属することになり、冒険者ギルドはいい意味でピリピリしているとか。


 全部、冒険者ギルドのギルドマスターからの伝聞だけどね。

 さすがに組織の汚点となる捕り物の様子は教えてくれなかった。

 だが、ネズミ一匹逃がさなかったと言うから入念に計画を立てて実行したんだろう。

 ……ただ、その結果として冒険者ギルドが人員不足となり、ギルド職員の方も募集しているとか。

 話に聞けば、そういう職員ってお貴族様の子弟がコネで入ってくるものらしいのだが、今回の大査察でそう言った人間は大勢いなくなったらしい。

 コネで入ってきた職員は勤務態度も悪く、不正に手を染めていた率も多かったとかなんとか。

 今募集しているのは内勤職員だから、腕っ節はそんなに強くなくてもいいと言っていたから『今度初等学校を卒業する人間にスカウトをかけておけば』と適当に言ったのに、本人は『それだ!』と大喜びしてた。

 学校の卒業は来年の夏、7月頃を想定しているのに大丈夫かね?


 さて、他に変わったことと言えば、ハンターギルドに新人が入ってきたことかな?

 紹介状なしの飛び込みだったが、それなりに肝は据わっているし合格、ということで無事見習いハンターとなれたようだ。

 で、その彼ら彼女ら、同じく新人ハンターの俺たちをライバル視していたのだが、俺たちの修練内容を見て一発で折れたようだった。

 先輩方からは『あいつらは化け物だから気にすんな』とか『あれは特別製ですでに上級ハンターの域にいる連中だから』とか慰められていたらしい。

 解せぬ。


 本来であれば、俺たちも新人ハンターが経験する3種類のクエストを受けてみる予定だった。

 だが、アグニとの戦いですべての予定が一変した。

 そんなソウル集めにならないクエストなんてすっ飛ばして、ソウル稼ぎができる強敵相手に連携や現在の能力を確認することになったのだ。


 アグニ。

 ヤツとの戦いはもう避けられない。

 私情も大いに挟むこととなったが、ヤツに負けるわけにはいかない気がするのだ。

 それがまるで神に仕込まれた運命だとしても引くわけにはいかない。

 ヤツを倒すためには可能な限り準備を怠らない。


「お待ちしておりました。結婚指輪の方、完成しておりますよ」


 というわけで、結婚指輪という名のパワーブーストアイテムを受け取りにやってきたのだ。


「まずは奥様の方から。土台は予定どおりヒヒイロカネ製となっております。ヒヒイロカネですので普段のお手入れは不要。いまは赤銅色ですが年々うっすらと金色を帯びてくるのが特徴ですな」


 いろいろと普通の店員では説明できないこともあるので今日もニネットさんに案内をお願いしているが……さすがの知識だ。

 そーいえば貴金属とか全然詳しくないな、俺。


「次に魔宝石ですが……こちら、少々変更させていただきました。本来であれば、力玉石に体玉石の予定でしたが、それよりも上質な攻王玉と守王玉が手に入りましてな。こちらをつけさせていただきました」


「おいおい、値段は大丈夫なのか?」


「吾輩が相談を受けてオーケーを出したのである。問題ないであるぞ」


「ならいんだが……それで、どの程度差がつくんだ?」


「攻王玉ですが力玉石に比べると250%の出力アップですね。まさか、ここまで上質な攻王玉を取り扱えるとはこのニネット、感激いたしましたぞ」


「……250%……ですか」


「守王玉の方は350%ほどでしょうか。元の体玉石の効果が低かった分、効果のアップ幅が大きいですね」


「……まあ、いいや。それで、他にも細工はしてあるのかな?」


「いざというときのために、攻王玉の力を守備力に変換する機能と、逆に守王玉の力を攻撃力に変換する機能を組み込んであります。発動については、奥様の思考を読み取っての発動となりますが、守備力変換につきましては危険を察知した際に自動で発動するよう紋章術を組み込んでおりますのでご容赦を」


「いえ、本当に助かります」


「奥様の指輪はこれで終了ですな。次は旦那様の指輪です」


 そういってニネットさんが取り出したのはブルーターコイズの指輪。

 俺のネックレスと同じ材質なのかと疑ってしまう。


「土台ですが予定どおりミカヅチノタマ製となっております。色合いが違うのは、当店の鍛冶士にお願いしてその強度を極限まで高めていただいた証です」


「そこまでしてくれたのか……」


「失礼ながら、リオン様より話を伺った限りでは、そこまでしないと指輪が持たないと判断いたしました」


 うん、俺ってバカ魔力の魔力砲台だな。


「さて、次の説明です。土台そのものが強化されたことによって刻み込める魔紋の量も増えました。そのため、魔力制御用の魔紋を裏表4つずつ、土台強度アップの魔紋を裏表4つずつ、自己修復の魔紋を裏表4つずつ、合計表裏あわせて24ほどの魔紋を施させていただきました」


「24って……大丈夫だったんですか」


「いやはや、さすがに骨が折れましたな。ですが、使用状況を考えるとこの程度は施さねばと思いがんばりましたぞ」


 すでに土台の時点で普通じゃない。

 なんだか宝石の話を聞くのが恐くなってきた。


「さて、次がメインの魔宝石ですな。こちらは非常に上質な雷精玉を9つ使用させていただきました」


「あれ、7つだったはずでは?」


「土台に余裕ができましたからな。魔法威力上昇や安定だけではなくフィードバック遮断用の魔宝石も用意させていただきましたぞ」


「普通の魔術師にフィードバック遮断はやり過ぎであるな」


「使う状況を考慮しての判断ですぞ。そして、予定にはなかったのですがさらに二個。魔宝石……というべきか魔宝玉と呼ばれる品を追加させていただきました」


「魔宝玉?」


「魔宝石の中でも特にレアな逸品ですな。今回追加させていただいたのは『比翼の鳳凰玉』、常にふたつの石の間で魔力や情報を伝達し合い、たとえ双方が同時に壊れても指輪ごと復元される、そういう機能を持った魔宝玉になります」


「……つまりは、いままでの魔宝石でも俺の力を押さえ込む自信がなかったと」


「そうなりますな」


「それから、指輪の連続使用はできないようになっております。再使用には10分から20分ほどの時間をいただくことになりますのでご注意を」


 うーん、やっぱり俺って化け物なのかな。


「指輪のサイズはきっちりと合わせてあります。普段はおふたりともチェーンにつけてお使いでしょうが、いまはお互いの指にはめ合って見てはいかがでしょう?」


「……そうだな。かまわないか、ミキ」


「……はい、嬉しいです。フートさん」


 俺がミキの指輪をミキの左手薬指に挿し、ミキが俺の指輪を俺の左手薬指に挿す。

 それだけの作業なのにとても緊張してしまった。


 俺たちの指に収まった指輪は……その輝きを一層増している気がする。

 というか、俺の指輪なんて完全に宝石が光っているけど大丈夫か?


「これは比翼の鳳凰玉がフート様の魔力を記録しているようですね。破壊されたときに、フート様の元に戻るために」


「こんなこともあるんだな」


「いえ、私も存じ上げませんでした」


「おいおい」


「何分、比翼の鳳凰玉など見るのも初めてで……事前にリオン様からオークションの情報と落札代金をいただいていなければ手に入りませんでしたよ」


「リオン~」


「せっかくの結婚祝いである。派手に行かねばな!」


「ひょっとして、私の攻王玉や守王玉も……」


「リオン様の勧めですね」


「おい、この結婚祝いにいくら使ったんだ、ネコ」


「ミスリル貨は数枚くらいしか使ってないから安心するのである。それに、今回は比翼の鳳凰玉が相場よりも安く買えたようであるしな」


 あ、コイツ、意地でも値段を言うつもりはないな。

 ニネットさんも代金はすでにいただいております、の一点張りだし……どうしようもないな。

 今度、どこかで何かおかえしをしよう。


「何はともあれ出発準備完了、であるな」


「ああ、これで装備は問題ないだろう」


「食材の方はアヤネさんやテラちゃんたちにお願いしてありますので問題ありませんね」


 テラとゼファーに頼むのは問題だと思うが……気にしないでおこう。


「それでは、明後日、準備ができ次第、モンスターハントに出発ですにゃ!」


「「おお~!」」

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