60.ハンターギルドへ

「うーん、ハンターギルドに行くことすら久しぶりだな」


「家の真裏なんですけどね」


「まぁ、忙しかったからにゃぁ。仕方がないのにゃ」


「ハンターたち、どうすごしているのかしら」


「普段どおりだと思うにゃよ」


 徒歩十分の距離を抜けハンターギルドの門を開ける。

 すると、そこは確かにいつもどおりな光景が広がっていた。


「お、動けるようになったのかい『白光のフート』!」


「お前には助かったぜ。あんな化け物と戦う事になったらハンター全滅だったからよ」


「まだまだ新人なんだから気を抜いちゃダメよ、『白光のフート』!」


 飲食スペースにいた先輩方から激励を受けたが『白光のフート』って……。


「にゃはは。フート殿も二つ名持ちですにゃぁ」


「二つ名持ちって……。おれってそんなすごいことしたか?」


「本人に自覚がないのが一番怖いのにゃ」


「あのね。アンタは砦の門をことごとく白光の翼で焼き払ってきたでしょうが。それでアグニ戦で使ったマキナ・アンガーも見た目は真っ白な閃光だし、妥当な二つ名じゃない?」


「ミキ……」


「胸を張りましょうよ。せっかく認めてもらえたんですから」


「まあ、そうなんだが。どうせなら『紫電』とかの方がよかった……」


「にゃはは。まあ、もうギルマスルームですにゃ。早く入るにゃよ」


 リオンは軽くドアをノックして返答を待ってからドアを開く。

 そこにはギルドマスターのブルクハルトさんとサブマスターのユーリウスさんがいた。


「おう、来たな。もう大丈夫なのか?」


「出歩くくらいなら、ってところかな。走り回ったりは厳しいな」


「そこまで回復が遅いか。昔、どっかの国の宮廷魔術師がレベル6魔法をぶっ放したとき、半年昏倒していたって話を聞いたことはあったが……眉唾じゃなかったってことか」


「そのようだな」


「そういうことでしたら用件を早めに告げるとしましょう。あまり時間をかけても仕方がないですからね」


「そうだな。まず最初の話だ。先週のゴブリン討伐戦なんだがな、ハンター側の貢献度1位はダントツでフートなわけなんだが……」


「なにもいらないよ」


「そう言うと思ってたぜ。なにも渡さないというのもギルドのメンツって言うのがあるから、報奨金は受け取ってくれ。装備品は……2位以下にずれ込みだな。ま、それは仕方がねぇか。さて、お前さんに関してのことで他に用件があると言えば、今週末のオークションだな。お前は出展側として参加することができる。ドレスコードもないから、参加するなら土曜日午後3時頃ここに来てくれ」


「わかったよ。……ところで、時計って市販しているのか?」


「リオン……」


「いや、赤の明星ならば知っていると思ってたにゃ。雑貨屋や宝飾品店に行けば買えるにゃよ」


「それなら、今日買ってこよう」


「そうですね。ニネットさんのところにも行く予定ですし」


「それがいい。伝えるべきことはこれぐらいなんだがなぁ……」


「……あれを伝えないわけに行きませんしねぇ……」


 うん、なんだふたりとも歯切れが悪い。


「実はな、お前さんに支払わなきゃいけない治療報酬の回収ができてねぇんだわ」


「治療報酬?」


「冒険者が怪我をしていた診療所があるだろう? あそこで怪我を治療するのもタダじゃねえんだわ」


「具体的には誰がどのような治療を受けたかを冒険者・ハンター双方のギルドで記録しておくシステムですね」


「それで、怪我を治してもらった連中があとから『あれは治癒士が勝手にやったんだ』とか『治癒士が無駄に派手な治療をしたんだ』といわせないようになってたんだが……」


「何か問題が?」


「その記録を見てごねた連中がいたのよ。まあ、そこまではよくある話なんだがなぁ……」


「話はそれで終わらなかったと」


「そいつらなにを考えたのか治療記録を持っていた記録官を殺して、治療記録をすべて燃やしやがったのさ」


「……それは……」


「そいつらは札付きの悪で、今回の討伐戦もゴブリン相手に高い金がもらえるってんで、まともに装備も調えてこなかったのさ」


「……頭が痛くなる話だな」


「っていうか、バカじゃないの? 邦奈良の冒険者ギルド。そんな連中も参加させてたなんて」


「あー、まあ、否定できないのがつらいが……もちろんそいつらはその場で取り押さえられて、斬首刑にされたよ。問題は冒険者ギルド側の治療記録が失われたことなんだよ」


「ハンターギルドの記録だけじゃ信頼できないって話か」


「そういうことだ。いまは低ランクの連中がくすぶっているだけだが、じきに中ランクの連中まで燃え上がるぜ」


「冒険者ギルドの自治は本当にどうなってるんだ……」


「……邦奈良の冒険者ギルドは特に態度が悪くってなぁ。冒険者を表す言葉として『一粒の金剛石、一握りの金石、それにつられる砂利、へばりついてくる汚泥』ってのあってな……」


「邦奈良の冒険者ギルドは汚泥の集まりってことか」


「ハンターギルドが発達しちまってるからなぁ。その弊害をもろに受けちまってるんだよ」


「それで、俺への支払いが滞るってこと?」


「いや、それも今週中には支払われる。冒険者ギルド本体が立て替えるからな。……全部で金貨数枚にはなることは覚悟しておけよ」


「……で、それで話は終わりか?」


「それで終われば話は早いんだよ。でよ、それを逆恨みしてお前を襲って、支払いをチャラにしようとしているバカがいるらしいんだよ」


「本当に救いようがないな、邦奈良の冒険者ギルド」


「あっちでも監視しているが……監視している職員が賄賂を受け取ってる可能性があるとかでな」


「ほんとうに終わってるわね」


「そういうわけだから。これからしばらく、出かけるときは4人一緒に出かけるようにしてくれ。頼んだぞ」


「了解。いっそのこと邦奈良の冒険者ギルドを白光の翼で焼き尽くすか?」


「やめてくれ。あと1カ月もすれば監査が入る。それまでの辛抱だ」


「それでよくなるなら、いいんだけどな」

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