31.ハンターギルド・ギルドマスタールームにて

「リオン、S案件ってなんなんだ?」


「S案件とはギルドマスター直々の緊急依頼のことですにゃ。今回の場合はお三方を連れてくることですにゃ」


「なるほどね。それで、ギルドマスターとやらはどんな人なの?」


「会えばわかりますにゃ。悪い人間ではないので大丈夫ですにゃ」


「そういうものなのか。俺はあまり礼儀ってものを知らないんだがな」


「大丈夫ですよ、フートさん。私たちもよくわかりませんし」


「さすがに異世界の礼儀作法はねぇ」


 確かに、異世界の礼儀作法なんて知らなくて当然か。

 それなら堂々としていようか。


「さ、ここがギルドギルドマスターの部屋にゃ。ギルドマスター、入るにゃよー」


 リオンが数回ノックした後、気軽に扉を開けて中に入っていく。

 すると。


「うわっ!?」


「なにっ!?」


「ッ!?」


 扉の中からすさまじい威圧感がほとばしってきた。

 不意を突かれたこともあり、一瞬たじろいでしまったが……。


「……あの黒熊ほどでもないよな」


「落ち着いて考えればそうですよね」


「慌て過ぎね、私たち」


 実際、足元のレッサーフェンリルたちは構えただけでたじろぎはしていなかったし。

 ……警戒心が緩いとかじゃないよな?


「ギルドマスター、冗談が過ぎるにゃ」


「おう。久しぶりの『赤の明星』と聞いてな。どんな人間なのが試してみたくなったんだ。すまねぇな」


「いえ、別に。えーと、死道、でしたっけ。あそこであった黒熊ほどでもなかったですし」


「……黒熊だぁ? そいつは詳しく話を聞きたいが、まずは座ってくれや」


「ちなみに、この部屋が盗聴されている可能性は?」


「極めて低いぜ。この後くるが、サブマスターのヤツが念入りに調べた後だ。それにこの会談中は結界も張るて言ってたからな」


「それなら、盗聴対策もばっちりっと」


「まず間違いないだろうよ。さっ座ってくれ」


 椅子に座って簡単にお互いの自己紹介をする。

 ギルドマスターはブルクハルトさんと言い、一応貴族でもあるらしい。

 邪魔なだけだと言い捨てていたが。


 また途中から参加したサブマスターのユーリウスさんも貴族だそうだ。

 それとユーリウスさんはなんと俺と同じハイエルフらしく、精霊魔法の扱いに長けるらしい。

 ただ、三属性しか扱えないのが悔しいそうだが。


 最後に、先ほど俺たちの対応をしてくれた受付嬢、ゲーテさんがやってきた。

 この人もエルフ族で受付としてはかなりのベテラン勢らしい。

 なお、年齢は聞いてはいけない。

 十代前半の容姿が数十年続くエルフでも、女性に年齢の話は御法度なのだ。


「……これにリオンを加えた四人が誓約紙で誓約をするメンバーだな」


「つまり私たち以外には、なるべくスキルのことは話さないでね」


「もしあなた方から漏れた場合、私たちでも守り切れなくなりますから」


「……あー、いい感じにまとまりそうなところあれなのにゃが。現在の誓約紙の内容には不備がありますにゃ」


「不備だと? ユーリウスも確認して問題ないという話だったろう」


「だったのですがにゃ……戻ってくる途中で不備が発生したのですにゃ」


「不備の内容とは?」


「一言で言ってしまえば、一般的に知られているスキルについて話そうとしても誓約が発動しそうになるのですにゃ」


「……あー、言われてみればその可能性もあったな」


「確かに。そこは思いつきませんでした。ではどこを改良しましょう」


「そこが問題なんだにゃぁ。発言して良いスキルを列挙していくと時間も紙のスペースも足りにゃいし、禁止ワードでも同じことだにゃ。……なにかいい方法はありませんかにゃ?」


 あー……これは本当に困っている顔だ。

 ちなみにブルクハルトさんは完全に我関せずという態度を示している。

 自分が入っていってもろくなことにならないと経験則で知っているんだろうな。

 しかし、いい方法か……。


「うーん、あまり一般的ではないスキルを明かそうとすると誓約が発動するとか?」


「……一般的ではないスキルですか。例えばどんなものがありますか?」


「俺だと【雷精霊魔法】のレベル7が使えますし、それ以外にも普通の人には使えないオリジナルスキルが満載です」


「私の場合、あれね。【盾術】と【棒術】がレベル7にいってるわ、あと【身体強化】もレベル7だけど……これはみんなそうよね」


「ああ、そうだった。言い忘れてたよ」


「そうですね。それでは、最後に私が、【格闘術】と【気功術】がレベル7になっています。あと【歩法】もレベル7ですね」


「……うっわ、それは他人に教えらんねーわ」


「あ、あと、俺は【アイテムボックス】のレベル7もあった」


「……どうやってスキルを覚えていたのか知りませんが、少し自重をしていただきたかったですね」


「死道で戦うにはこれくらいの戦力がないと安心できなくてな……」


「レベルアップでどれくらいの戦闘力が上がるかわからない以上、わかりやすいスキルに全振りしちゃった結果なのよね」


「つまり魔物を倒してソウルを入手してもそれをレベルアップ以外の方法に回す方法があると……これは本当に大物を拾いましたね、マスター」


「ああ、とんでもなくでかい魚だ。俺たちで制御できるのか不安になるほどのな」


「……ひとまず新しい誓約紙の準備はできましたにゃ。内容の確認と署名をお願いしますにゃ」


 新しい誓約書では、具体的な禁止スキルレベルが書いてあった。

 戦闘系スキルではレベル6以上の魔法やスキルが使えることを俺たちがもらさない限り周知しない。

 アイテムボックスについてはレベル6で押し通す。

 身体能力向上系スキルは持っていてもレベル3だということにする。

 ただし、本人たちが公開した場合はその限りではない。


 はっきり言ってすぐにぼろが出そうだが、最初はこれで行くことにするらしい。

 アイテムボックスは……4分の1ほどの空間しか仕事で使えないことになるが、私物入れにでもしておこう。


 それ以外については問題なかった。

 前回同様、俺たちを縛る誓約はなし、ギルド側にのみ罰則がある内容だった。

 誓約についてはこれで終了かな。


「さて、これで一段落だが、冒険者ギルドとハンターギルドの違いは教えなくちゃいけねぇよな。さて、はじめっとすっか!」

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