23.アイテムボックス

「……ちょっと待って!? 三人ともアイテムボックス持ち!?」


 俺たち三人がそれぞれのアイテムボックスに仮登録証をしまった途端、受付嬢が奇声を上げた。

 しまった、アイテムボックス持ちって希少だったのか。


「あ、ああ。三人とも容量の差があるにしろアイテムボックス持ちだぞ」


「って、それがどれだけすごいことかわかってるんですか? いえ、赤の明星ですもんね。わかってないですよね」


「そんなにすごいことなんですか?」


「ええ、それはもちろん……」


「容量次第ではあるけど、非常にまれな能力ね」


「あ、ギルマス……」


 階段を降りてやってきたのは、妙齢の女性。

 受付嬢がギルマスと言っていたし、ここの最高責任者なのだろう。


「さて、テルジアン。あなた、大変なミスを冒したことに気がついているかしら?」


「ミスですか? ……あっ……」


「そう。ハンターの手札を本人の承諾なしに公開しないこと。ましてやハンターの生存確率を一気に上げるアイテムボックスだなんて」


「うっ……申し訳ありません……」


「とりあえず、詳しい罰則はあとで決めるけど、減俸二カ月は覚悟しておいてね」


「はぃぃ」


 うーん、受付嬢さん、完全に萎縮してしまっているな。

 どうしたものか。


「あの、ギルドマスターさん」


「シーブでいいわ。赤の明星の方々」


「それでしたら私もミキで。持っているスキルをひとつばらしただけで減給というのはちょっと……」


「ああ、それねぇ……ある種、一般スキルだったらいいのよ。せいぜい厳重注意ですませるから。ハンター側からもアピールしてくれって頼まれることがあるし」


「はぁ……そうなんですか?」


「ええ。でも、今回の場合は違うわ。アイテムボックスっていうのはね。レベル次第だけど、食料品や飲み水、予備の装備を簡単にかつ大容量運べる便利スキルなのよ。このスキル持ちがひとりいるだけでハントの難易度は全然変わってくるわ」


「そこまでなんですね」


「そういうことよ。見てみなさい。さっきまでは興味なさげだった連中が、こっちの様子を全力で伺ってるから」


 確かに、目を見開いてこちらの隙をうかがわんばかりに視線で刺してくるな。

 そんなにアイテムボックスって希有なスキルなんだろうかね。


「ちなみに、アイテムボックスってどれくらい希有なスキルなんだ?」


「うーん。千人いれば五、六人はいるっていわれているわね。ただ、そういう子たちは、そうそうに貴族のお抱えになったり、大商人のお抱えになったりでハンターや冒険者になろうなんて変わり者は滅多にいないのよ」


「なるほど、理解した。それで、この騒ぎはどうやって鎮めるんだ?」


「んーそうね。まあ、見てなさいな」


 シーブが数歩前に出て声を張り上げる。


「お前たち! この三人は首都ギルドから要請されて集められた精鋭三名だ! 今日の夜休んだあとは明日には首都に向かう! パーティに誘おうとしても無駄だから諦めておけ!」


 うーん、ストレートな物言いだな。

 でも、それでハンターたちの視線もほぼなくなったし大丈夫そうだな。

 まだ未練がましく見ているのがいるが……大丈夫だろう。


「さて、自己紹介が遅れてすまないね。私はシーブ、このギルドのマスターをしているわ」


「俺はフート、こっちがアースレッサーフェンリルのテラとエアレッサーフェンリルのゼファー」


「私はアヤネよ。よろしくね」


「私はミキです。よろしくお願いします」


「おっけー自己紹介もすんだし……仮登録証は渡し終わったんでしょう? 他にすることあったっけ?」


「テラとゼファーの従魔登録がまだですぞ」


「あ、リオン。そういえばそうだったな」


「それじゃあ二階の従魔ギルド派出所ね」


「間借りしているとは聞いていたが、二階にあるのは派出所なのか?」


「従魔を新しく連れてくるのは、ほとんどがハンターか冒険者であるからな。このふたつのギルドには派出所が併設されているのであるよ。本部は……街のどこかにあるそうである」


 ギルド二階に上がるときれいな待合スペースに、数頭の従魔を連れた獣魔士? がいた。

 彼ら彼女らも獣魔士なのだろう。


「あ、シーブさんじゃないですか~。今日はどうしたんですか? 派出所はもうすぐ営業終了ですよ」


「ふむ、それならば間に合ったということだな。新しい従魔の登録をしたいんだ」

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