19.魔導車で街へ
「自慢の愛車である! 3列シート6人乗りの最新型……の一つ前のモデルである!」
「最新モデルではないのね」
アヤネが苦笑気味にたずねるが、リオンは真面目に答えた。
「さすがに毎回新車で買い換えるのはなぁ。かと言って、ハンターは信頼性が一番、中古品は買えないのである。なので、数年に一度買い換えるのであるよ」
「へー、このごついバンパー? は?」
「魔物を弾き飛ばすためのものであるよ」
うん、さすがファンタジー、なにが飛び出してくるかわからないな。
「ここから走るのは街道だから滅多なことでは魔物には出くわさないのである。さあさあ、乗り込むのである」
乗り込むと行ってもなぁ……。
まず、俺とフェンリル二匹は引き離せない、というか他のメンバーの隣に座らせられない。
大分なれてきたけど、不用意に触ると、それでも威嚇してしまう。
そうなると、前列シートはアヤネかミキ。中列、後列に俺たちと前列に乗らなかったものとなる。
あるいは、俺が一列目に座って、中列か後列をフェンリルたちに使わせてもらうか、だな。
「それじゃ、乗らせてもらうよ。アヤネが前列、ミキは後列でいいか?」
「かまわないわ」
「はい、大丈夫です」
「では乗り込むとしよう」
先ほど決めた席順に従って魔導車による乗り込ませてもらう。
「おや、フート殿は二列目なのであるな」
「フェンリルたちが気難しいんだよ。これでもなれてきたんだが、アヤネやミキが不用意に手を伸ばすと威嚇されてしまうからな」
「それは大変ですなぁ。でも、それで街まで行って大丈夫ですかな? 街は人が多いのですぞ」
「そこはまぁ、言い聞かせれば大丈夫だと思う。街ではそんなになれなれしく触ってくる相手はいないだろう?」
「その見た目ですと子供たちがよってきそうですなあ。しかし、まだまだ幼体のままであの戦闘力はすごかったですが」
「鍛えたからな。それで、この魔導車ってどのくらいの速度が出ているんだ?」
「およそ時速30~40㎞くらいですかな。これでも馬車に比べれば3倍以上速いのですぞ」
つまり馬車は時速10キロほどで進むのか。
魔導車……手に入れたいけど、高そうだし、メンテナンス費用もバカにならないだろうな。
「ところで吾輩からも質問である。そなたたちはどうやってあの森の中を生き残ってきたのかな」
まあ、その質問は来るわな。
さて、どう答えるか。
「うーん、できれば答えたくないんだが」
「……この場では話すには重大な秘密があるということであるな」
「そう言うことになるな。すまんけど」
「かまわないのであるよ。手札を明かしたくない赤の明星は珍しくないのであるからな」
「ありがとう」
「さて、移動にはまだ3時間くらいかかるのであるが……二人はなにか聞きたいことはあるのであるか?」
「それじゃ、まずは私からね。こっちの人たちってどのくらいのスキルを持っているの?」
「スキルですかな。まず、成人するまでに何らかのスキルがレベル3になるのが一般的なものであるな」
「成人って?」
「ああ、成人は15歳である。つまり赤の明星は皆、成人として扱われるのであるよ」
「ごめん、話を続けて」
「そうであるなあ、それから各種ギルドの門をたたいて必要なスキルをたたき込まれて、それらがレベル4になっていっぱしの人間になるまで2~3年といったところであるかな」
「……レベル5以上になる人は?」
「レベル5は人間の限界と呼ばれるスキルであるな。10年でたどり着く天才もいれば20年30年かけてもたどり着けない人が多いのであるよ。レベル6以上は……魔法なら大賢者や隠者と呼ばれるような人物、剣士なら剣聖ならば使えるかもしれないのである」
「……そんなになのね……」
「そんなにであるよ。赤の明星が生まれつきひとつやふたつそういったスキルを持っていても驚かないのであるよ。あまり気にしないのである」
「わかったわ。これ以上聞かないことにするわ、頭痛いし」
「それがいいのである。他に質問は?」
「では私から。先ほど、冒険者ギルドとハンターギルドが別物とお伺いしましたがなにが違うんでしょう?」
「難しい質問であるなあ。まず吾輩が所属しているハンターギルドであるが、紹介制のギルドということである。ハンターギルドの構成員や上位引退者の紹介状がないと所属できない組織がハンターギルドなのである」
「……えっと、私たちってどうなるのでしょうか?」
「もちろん、ハンターギルドに所属してもらうつもりである。紹介は吾輩からということで問題ない。連れてきて、はいさようなら、なんてまねはしないので安心してほしいのである」
「ありがとうございます。冒険者ギルドはどうなんでしょう?」
「冒険者ギルドは……一言で言ってしまえば『来る者拒まず消えるもの追わず』であるな。所属するに身元保証すら必要もなく、偽名であっても所属できると聞くのである。もちろん大多数の冒険者がそうではないのであるがな」
「……なんだか、それだけを聞くと恐いところですね」
「実際、お嬢さんには怖いところですな。仕事は基本的に朝一気に張り出されるのですが、それにあぶれた連中が併設している酒場で酒をあおっていることなんてざらですからな」
「これはあれでしょ、冒険者ギルドに行くと、こんな嬢ちゃんがこんな場所に何の用事だ、絡まれるイベントよね!」
「なんのイベントか知らないのであるが、そんなのない方がいいのである」
そんなことを話し合いながらリオンを通して情報を得ていった。
これから行く街は、『
そのあとは、再度街を出て、この国の首都である『
天陀の街は魔物との最前線という側面があるらしく、施設は一通り揃っているが高いし一級品はあっても割高と言うことだ。
それなら首都まで行ったほうがいろいろと秘密を守るためにも便利だということだった。
車で3~4日らしいし。
夕刻になりもうすぐ火が落ちるという頃、街が近づいてきた。
ここが天陀の街、俺たちが初めて立ち寄る街だ。
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