12.戦い終わって
なんとかダークベアに勝てたが、代償は大きかった。
ミキが致命傷を負ってしまったのだ。
<その娘のことは自業自得とも言える。どうするのだ?>
ソウルパーチャスの画面を開けば、いままで見たことのないようなソウルが貯まっていた。
これを使えば【回復魔法レベル7】覚える事ができる。
絶対厄介ごとの匂いしかしないが……仲間を見捨てるよりマシか。
「治療する手段はあるんだ。治療するよ」
<お手並み拝見といこう>
フェンリルたちは道を譲ってくれた。
その先には意識がもうろうとしているミキと、泣きじゃくってるアヤネ。
さて、該当スキルも取ったし、さっさと回復に移ろうか。
「フート……このままじゃミキが……」
「フートさん……ごめんなさい。命大事に、って……いわれてたのに……無茶しました……」
「反省会も泣き言もあとだ。一気に治療するぞ」
「え?」
アヤネが疑問の声を上げるがいまは無視だ。
早速、回復魔法レベル7の知識を明け、そのスキルを確認する。
そのひとつ、エイルは……状態異常とHP回復の合わせ技か、いまは必要じゃないな。
もうひとつのフェアリーヒールが必要な魔法だな。
「……よし、魔法を覚えたぞ。回復するときに痛みが走るかもしれないから、覚悟しておけよ。『フェアリーヒール』」
俺が魔法を唱えると、ミキの周囲の草花が一気に生長していった。
そして、花がはじけたり、草がミキの身体に巻き付いたりするごとにミキの体が治っていく。
神秘的ともいえる草花の饗宴が終わり、元の静けさを取り戻すと、そこには傷が塞がったミキが残されていた。
「ミキ!」
<強制的に傷を回復させられて体力が尽きたのだろう。いまは眠らせておいてやれ>
「う、わかったわよ」
「ん? アヤネもフェンリルの言葉がわかるのか?」
「なんていうかこう、頭の中に響くのよね」
<そちらの言っていることはなんとなくしかわからんが、こちらの声は伝わるはずだ。それが【念話】スキルだからな>
ふーん、そんなものなのか。
まあ、便利スキルのようだし、余裕があったら覚えてみよう。
「……それにしても、今日はこれ以上移動するのは危ないな。ハウスを出すから、そっちで休んでいてくれ」
「わかったわ。でも、私たちだけで大丈夫なの?」
「共有しているし大丈夫じゃないか? ダメだったら俺も入るよ」
気を失っているミキをそのままにしておくわけにもいかず、俺がハウスを出してアヤネがその中に運び込む。
……俺のほうも、かなり魔法を連発して身体がだるいんだけどな。
本来100程度のMPじゃレベル6や7の魔法は発動しない。
たりないMPは精霊に頼んで集めてもらった。
雷が二回に回復が一回、よく集めてくれたものだ。
<さて、少年、フートと呼ばれていたがそれでよかったか?>
「ああ、名前ならそれであってるぞ」
<済まぬがこちらに来てくれ。頼みたいことがある>
「あまりここから離れたくないんだけどな」
<あの家ならば大丈夫だろう。お前だけじゃなく、残りの二人とも魔力がつながっていたからな>
「そういうことなら。それでどこに?」
<すぐそこだ、取って食おうというわけじゃない、こちらだ>
フェンリルの案内に従ってたどり着いたのは、木の根元にぽっかり開いた巣穴のような場所。
そこで眠っていたのは……。
「フェンリルの子供?」
<レッサーフェンリルの子供だ>
「レッサーフェンリル? フェンリルと違うのか?」
<レッサーフェンリルが進化できればフェンリルになる。済まないがこの子たちを育ててもらえないだろうか?>
育てろと言われても、そんな簡単なものでもないだろう。
食事の問題とかいろいろあるはずだし。
<食事のことだが気にしなくていい。お前なら良質の精霊魔法を扱えるだろう? レッサーフェンリルにとってもっともすぐれた食事は精霊魔法なのだよ。元素魔法でもかまわないがな>
「うーん、ご都合主義だな」
<本来ならば我らが育てるのだが、私たちは炎と氷のフェンリル。この子たちは風と地のレッサーフェンリル。育てようがないのだ>
「同じ属性のフェンリルを見つけることは?」
<この黒の森の中でこの子たちが生きている間に出会うのは難しい>
だよなぁ。
仕方がない。
残りの二人がどういう反応を返すかわからないが引き取るか。
「わかったよ。この子たちは俺が引き受けよう」
<助かる。さて、早速で悪いのだが、この子たちに餌を与えてくれないか? かなりギリギリなのだ>
「餌って言われても……どうすれば?」
<精霊魔法レベル2のものを使ってくれればその反応で目を覚まして食べるだろう。さあ、試してみてくれ>
試せというなら試すしかないか。
レベル2なら安全に……。
「『ロックウォール』、『ウィンドウォール』」
とりあえず壁魔法を発動してみる。
すると。
「アオン!!」
勢いよく目を覚ましたレッサーフェンリルの二匹が、それぞれの魔法に勢いよくかぶりついた。
そのまま壁を咀嚼するのかと思ったが、壁が光になってレッサーフェンリルの口の中に吸い込まれていった。
「オンオン!!」
「ワフン!!」
<どうやらおかわりを要求しているようだぞ?>
「わかったよ。ちょっと待ってろ」
そのまま、魔法を出してそれを食べさせるという作業を五回ほど繰り返して、ようやく満足したのか俺の周りをうろちょろし始めた。
<ふむ、相性も悪くなさそうだな。その子たちをよろしく頼むぞ>
<レッサーフェンリルだ。鍛えれば旅の大きな助けになろう>
<<ではさらばだ>>
「いや、さらばじゃないから」
言いたいことを言い残して黒い森の中に消え去ったフェンリルたち。
残されたのは、俺とレッサーフェンリル二匹。
「「アオン?」」
「そうだな。とりあえず帰ろうか」
**********
~あとがきのあとがき~
ハウススキルですが共有化もできているいま、フートがすぐそばにいなくても消えません。
(だれか共有している人がそばにいる必要がありますが)
フートが離れられる距離はおおよそ1㎞程度です。
なお、ハウスを出す・しまうはフートでなければできません。
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