11.シックスアームズダークベア

 窓から外の様子をうかがうと、銀色の狼が二匹と黒い熊が戦闘を行っていた。

 いまのところどちらが優勢ということはないが……やや狼のほうが不利か?


「おお! あれはフェンリルですよ、きっと!!」


 俺の身体の上に乗り上げながらミキが勢いよく宣言する。


「フェンリル?」


「北欧神話に出てくる狼が原典の狼です。異世界転生や転移ものでは有名な仲間ですね」


「まあ、そんな感じね」


 アヤネも肯定するということは間違いないのだろう。


「……で、あれをどうしろと?」


「決まってるじゃないですか、加勢に入りましょう!!」


「いや、あのね、ミキ。私たちのレベルを考えましょう。さっき【鑑定+】であの熊のレベルを確認したけど、あの熊のレベルは68よ。フェンリルたちのレベルは65、そんな戦いに割り込めるわけがないじゃない」


「むぅ……なら、昼間に稼いだ経験値をすべてソウルパーチャスでレベルに引き換えて……」


「多分30位で止まると思うぞ」


「むぅ……」


 さて、この場合の正解は嵐が過ぎ去るまで待つのが正解なんだろうが……。

 こっちに気がついていないとも限らないんだよな。

 特にあのフェンリル? 二匹。


「あ、フェンリルさん、ときどきこっちを見ていますね」


「フェンリルには隠蔽結界が効いていないんじゃないのか?」


「……そうなると、話が変わりますよね!」


「わかったよ、装備を調えて打って出る。ただし、命大事にだ! あの熊の攻撃をもろに受けたら、即死だと思え」


「わかったわ」


「了解です」


 それぞれ、身支度を調えて『ハウス』から飛び出す。

 アヤネは盾役であるが、熊の攻撃を受けるわけにはいかず、特殊警棒による攻撃メインらしい。

 ミキもガントレットでガンガン殴るらしいのだが……はっきり言ってこの二人は心配だ。


「さて、まずは一当て、何で行こうかな」


 強化したのはやっぱり雷属性だけどそれでいいんだろうか?


<ふむ、やっぱりあの歪みの中には人が隠れていたか>


「!?」


 どこからかかけられた声に驚き、魔力を霧散してしまう。


<ああ、驚かせたようだな。私だ、足元にいるフェンリルだよ。【念話】というスキルで話しかけておる>


「それはどうも。……ってこっちは普通にしゃべって大丈夫か?」


<大丈夫だな。古代獣人語などどこで教わったのかは知らぬが聞きやすい>


 これはあれだな、【真異世界言語】の能力だな。

 取っていて正解だった。


<さて、様子を見るに加勢に来てくれたようだが?>


「ああ。邪魔なら下がるよ」


<いや、加勢はありがたい。しかし、あのお嬢さん方の強さでシックスアームズダークベアはちょっとな……>


「あの二人は下げさせようか?」


<なにもせずに下がれといっても難しいだろう。いま、相方がダークベアの意識を引きつけている。その隙に一撃加えてもらえばいい。そうすれば彼我の能力差を知るだろう>


 残酷だけど、それしかないよな。

 一発で離脱すれば問題ないだろう。


 そんなわけで接近していった二人は殴りかかっていったが、その分厚い毛皮にはじかれてなんのダメージも与えられなかったようだ。

 アヤネは腕の一本がこちらに向かってきているのを確認し、しっかり防御の構えを取る。

 そして、盾を破壊され吹き飛ばされながらも大きな怪我はせずに済んだ様子だ。


 さて、もう一人は……。


<ッ!? なにを考えている!? あの娘!?>


「まさか連撃をかけるつもりか!?」


 ミキのほうは引き下がらずに腕の攻撃をかわし脇の下に潜り込むと、両腕でラッシュを始めたようだ。

 いまの位置からでは確認できないが、魔物の様子からしてそんなところだろう。

 しかし、そんな攻撃もほとんど効いておらず、反撃の拳がミキを襲った!


 勢いよく振り抜かれた黒い鉄拳は、ミキの身体を捉え……そうになったが途中に出現した炎の壁と水の壁で勢いをそがれ、右腕をかすめる程度に留まった。


 だが、かすめただけなのにミキの腕はボロボロになっており、肉が引き裂かれて骨が見えるところ、骨があり得ない方向にへし折れているところなど、見ているだけでも生々しい傷跡が残っている。

 とてもじゃないが自力で動けなくなったミキは、アヤネにかつがれて戦線から遠のいていった。


「さっきのスキル、そっちのだろう?」


<ああ、共闘を望むといった手前、いきなり死人が出るのは避けたいからな>


「助かったよ。……まったく、欲張りやがって」


<まったくだな。あれだけ撃ち込んでもほぼダメージはないというのに>


 あれでもダメなのか……。


 ……ん?

 じゃあ、俺はなにをすればいいんだ?


「俺はなにをすればいい?」


<我ら二匹で注意を引く。その隙に最大火力の魔法をたたき込んでくれ>


「了解。属性は?」


<光があれば最高だが……なければ雷がいいな、いけるか?>


「雷ならレベル6でいける」


<ほう若いのにやるじゃないか。それではいくぞ!>



 俺の足元にいたフェンリルも戦線に加わり、二匹でダークベアを翻弄し始める。

 さて、これからは俺の仕事だな。


「必要な魔力をすべて解放するイメージで、かつ制御下において……」


 このような単調な作業を繰り返すこと30秒。

 さらにそれから、精霊にお伺いを立ててこんな魔法を使いたいというイメージを了解してもらう。

 難色を示した精霊はおらず、むしろこれだけの魔法を使える場面に居合わせたことが自慢らしい。


 まあ、しっかり発動するならいいや。


「準備できたぞ!! 巻き込まれないように離れろ!!」


 フェンリル二匹がダークベアから距離を開けて精霊たちが照準をしっかりダークベアに合わせる。

 あとは俺が、発動ワードを唱えるだけだ。


「吹き飛べ……『アルティメット・サンダー』!!」


 レベル6雷精霊魔法アルティメット・サンダー。

 レベル6魔法というのが一般的に知られてるスキルの限界地点のため、これ以上の電撃魔法は存在しないという理由からつけられた魔法。

 実際にはレベル7が存在するので割と恥ずかしい。

 ただ、発動したあとになんだか妙な反発のようなものを感じて……なんだったんだ?


 さて、魔法解説はこれくらいにしておき、魔法を受けたダークベアはどうなったかというと……。


『GURYUUUUUUUU!!』


 はは、まだ生きてやがるよ。

 いまので大分体力を削れたと思うんだがなぁ。


 実際、ダークベアの両後脚は炭化しておりもう走り回れそうにない。


 かと言って、このまま生存させるのはよろしくない。


 フェンリルたちも必死の攻撃を仕掛けてはいるが致命傷にはほど遠い。


 なにか打つ手はないか……考えろ……。

 ソウル画面を開いたとき目に留まったのが現在のソウル量12,000ソウルオーバー。

 これなら、あのスキルが買える!


 素早くウィンドウを操作し購入したスキルは【雷属性精霊魔法レベル7】。

 ヒト族がたどり着く最高位の魔法をいきなり入手してしまう。

 消費MPも半端ないがあと一撃はなんとかなるだろう。


 再び魔力の解放と集中で場の魔力を増やしていく。

 今回は精霊たちも加わった豪華版だ。

 精霊もこれから行使される魔法に興味津々なのだろう。


 場の準備ができたら精霊に魔法のイメージを伝える。

 初めて使う魔法にやや難しい顔をしていた精霊たちもいたが、否定的な意味ではなくどうやればいいのかという悩みだったようだ。

 そして精霊たちの間でも情報共有がまとまり発動準備は整った。


 ダークベアもすでにアヤネたちから十分な距離を取っているし問題ない。


「フェンリル!! さっきよりどでかいのがいくぞ!! 距離を開けてくれ!!」


<わかった!>


 フェンリルが待避した後、発動待機中だった魔法をついに解き放つ!

 レベル7雷精霊魔法『マキナ・アンガー』だ。

 人間たちに放てる究極の電撃を超える電撃を放てるなどもはや人ではないということで名付けられた名前。

 実に卑小なことだな。

 俺はよく知らんけど。


 さて、強力な雷撃によってクレーターができた中をのぞくと、ドロップ品らしい魔石やなんだか魔石より大きい石、それから毛皮や爪、肉などが落ちていた。


 ソウルパーチャスの確認をすると、かなりの額が振り込まれているしとりあえず戦闘終了かな。


<お疲れ様だ。人間たちよ。まずは、あの怪我をした人間を治してやるがいい。適切な治療ができなければ、今夜まで持つかどうかだぞ>

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