第213話 充分楽しんだ

 帰ってくると女子が来ていて、ハジメと作業中だった。

 おれは汗をたくさんかいたので、参とシャワー浴びて戻ると、比護杜さんがソワソワしながらチラチラこっち見る。なんだろう?


「あー、滝夜。後インタビューだけ。質問リストアップしたから全部答えて」


 そう言ってマコが渡した紙は何枚か綴じられている。ズラズラと埋め尽くすほどの文字が詰まっていて、思わず目を離す。

 見たくないしやりたくない。

 一行目から興味ない。


 ①ベッドですか? ふとんですか?


 ベッドだけど、訳分かんない!

 しかし心の声はもちろん無視されて、冷静な目で命令された。


「やれ?」

「はい……」


 やりたくないことをやると、無限に時間がかかるんだと、おれは思い知った。


 一階のテーブルでみんな座り、それぞれのウグイスとやり取りをしながら、ピンク色のファンサイトを作り上げている様子は、なかなかにプロっぽくてカッコ良かった。

 ハジメと参は少し離れたリビングで、やはり話しながら動画を作ってる。

 おれはそれを羨ましい思いで見ながらリストを埋め、終わった頃には魂が抜けていた。


 カラン


「おつー」


 陽太がドア開けて、弁当が入ってきた。いや、弁当持った小猫が……ふつう逆だろ。弁当男が持つだろ。

 まあ、小猫の方が安心だけど。


「お弁当にしよ」

「ありがとう〜」

「滝夜大丈夫?」


 実は大丈夫じゃない。


「食べたら帰るよ」


 ごま塩のかかったご飯をパクッと食べたマコが言った。

 陽太がのんびりブーイング。


「なんにも遊んでないじゃん」

「遊びに来たワケじゃないし」


 比護杜さんが、まだぜんぜん食べてないのに言う。


「既にお腹いっぱいです」

「ヒョヒョ」


 まー、遊ぶったってプールくらいか?

 でも、昨日からみんな楽しそうだった。

 おれはともかく、面白かったんなら、それでいいかな。


「ハジメは? 帰るの?」


 参が聞いた。

 途端に淋しくなった。

 もともとハジメは、大会関連で来てくれてたんだ。それが終わってもここにいたのはイレギュラー。ファンクラブとかなければ、とっくに帰っててもおかしくなかった。


「うん。帰るわ」


 やっぱりそうか。

 仕方ないけど、ものすごくがっかりした。

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